27.旅路-4
僕たちが遭難したらしいとダイモンさんが宣言した。
遭難、迷っている自覚はあった。でも、シュケーは何もないと答えたのだ。精霊の目から見ても問題ないということだ、僕たちにはどうすることも出来ない。
「すまん、お前たち、俺が付いていながらこんなことになってしまって」
「ダイモンさんが悪い訳ではありません」
「硬いパンはまだあるから大丈夫だよ」
凹むことを言わないでくれ、妹よ。
「やはり、あの同じような地形に問題があったのではないでしょうか?」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」
僕の質問にダイモンさんは、答えになっていない答えを述べる。
「今はどこに居るのかな?」
霞の質問だ、ダイモンさんは地図を広げ指し示す。
「この辺りのはずだ」
次の目印である大岩の近辺を指し示した。
「それにしては大岩が見当たりません、最初の小川の辺りから距離を計算した方が良さそうですが」
「それなら東西のどちらかに逸れたということか」
僕の言にダイモンさんは表情を険しくした。
「お兄ちゃん、精霊さんたちが騒いでいるよ?」
霞は普段から精霊の声が聴こえている?のか。
「なんて言っているのか、わかるかい?」
シュケーは何ら問題ないと答えたのだが。
「風の精霊さん達が、何かあるって言ってるよ」
「何があるんだ!カスミ」
本当に何があるんだ?
「…ちょっと待って…………………。壁みたいなものがあるって」
「壁だと?」
霞の答えにダイモンさんは周囲を見回している。僕も周囲を一瞥したが何もない、どういうことだ?
「何かが行先を塞いでいるって」
霞は会話を続けているようだ。
「霞、今話しているのは風の精霊なんだな?」
「うん、微風の精霊さん」
まさか、木の精霊であるシュケーでは気付けなかったのか。
「ジルヴェスト、大人しめに来い!」
僕に向かって突風が吹き付ける、いつもの竜巻ではなく旋風といった具合の風が巻き収束したかと思うとジルヴェストが顕現した。
『お呼びか、主よ』
「こんなに大人しく現れることも出来るんだね」
『応えねばなるまい、主の望みだ』
暴風の権化みたいなジルヴェストと思えない答えだった。
『眷属共が騒いでおるな』
「そう、そのことなんだ。この周囲に何か妙なものはあるかい? 木の精霊は何もないって答えたんだけど」
僕の質問にジルヴェストは、何かを探るように風を振りまき始めた。
『うむ、結界があるな、人を迷わせるように作られているようだ』
「それを解くことは出来る?」
『…俺には無理だそうだな、触れてみたがかなり高度な結界のようだ』
「どうしたらいい?」
『主よ、水の精霊を呼んでくれ。知恵を借りたい』
水の精霊、オンディーヌで良いんだよな?
「来てオンディーヌ」
あ! しまった、大人しく来いと言い忘れた。
少しは離れた場所に水が収束していく、パンっと弾けてオンディーヌが現れた。ついでに森の木々も弾け飛んだ。
『妾をお呼びかの? 主よ』
「あ、ああ、オンディーヌよく来てくれた」
はぁぁ、僕に水は掛からなかったけど、木々の無い開けた空間が出来上がった。
『こいつか水の精霊は』
ジルヴェスト、喧嘩腰に話し掛けちゃ駄目だ。オンディーヌは面倒くさい性格なんだってば!
『なんじゃ? お主は』
オンディーヌもやめて!
「お前たち、仲良くしような」
『主がそう言うのであれば、致し方ない』 『妾とて』
こいつら相性が最悪だな、次から同時に呼ぶのはやめよう。
「ジルヴェスト曰く、結界があるらしいのだけど相談に乗ってくれるかい? オンディーヌ」
ふー、大変だこりゃ。2体の精霊はあーでもない、こうでもないと協議している。
今の内に、こちらで話をしてしまおう。
「どうやら結界が張られている模様です。人を迷わすとジルヴェストは言っていました」
「精霊さん達が話していたやつだね」
「昨夜の報告では何もないと言ったではないか…」
『それについてはだが、我々にも得意分野があるのでな。仕方あるまいよ』
そう告げたのは、ジルヴェスト。
『そうじゃの、何に問うたのか知らぬが範囲感知については風に勝てんじゃろうの』
そういうことか、尋ねた相手が悪かったのか。
「それで、答えはでたのかい?」
『説明は任せよう、水の』
『任せておくのじゃ。主様、風の言う通り人を迷わす結界が張られております。この結界は主様は元より、我々精霊でも解くこと出来ませぬ』
「なら、どうすればいい?」
『この結界を行使したもの探された方が早かろうと思いまする』
「探すのに宛てはあるのかい?」
『それは風のがやっております』
「ジルヴェスト、すまないね」
『主が望むのであれば、俺はそれで構わんさ』
『此奴、主様になんて口の利き方をするのだ!』
「オンディーヌいいから、ジルヴェストはこれで良いんだ」
オンディーヌは美しいかを顰め、苦虫を噛み潰したようにしている。
「今、ジルヴェストが結界を張った者を探しています。このまま暫く待ちましょう」
「どのくらい掛かるの?」
「わからないよ」
「それにしても結界か、厄介だな」
僕たちはジルヴェストを待ち続けるしかない。
『主様、森の民が居るかもしれませぬ』
オンディーヌが話し掛けてきた。
「森の民?」
『エルフと呼ばれる者達です、其奴らならこれ程の高度な結界も在り得ると思いまする』
「エルフねぇ、本当にファンタジーだな」
『ファンタ?』
「気にしなくていいよ、こっちのことだ」
『主よ、痕跡を見付けたぞ。恐らくは結界の行使をした者のものだろう』
『その者を見付けたのでは無いのか!』
「オンディーヌやめなさい、ジルヴェストよくやってくれた。誘導してもらえるかい?」
オンディーヌは悔しそうにしているが放置だ、ジルヴェストに先導を頼もう。
「ダイモンさん、結界を張った者の痕跡を見つけたました。確認した方が良いでしょう」
「ん? そうか、わかった行こう」
「流石、お兄ちゃんだね」
「では、先行させますので付いて行いきましょう」
ジルヴェストに先行してもらい、後を付いて行くことにした。
しばらく歩いていくと、朽ちた大木に辿り着いた。
『ここだな、この朽ちた木に何か仕掛けているようだな』
「この木にかい?」
『そうだ、水の出番だぞ』
『主様、妾が見て参る。しばし待て』
オンディーヌが朽ちた木の根元を探っている。
『主様、これは思った通りじゃの。森の民が居るようじゃ』
『そうか、森の民か』
精霊たちは何故か納得している。
「ダイモンさん、森の民と呼ばれる者がこの結界を張ったようです」
「エルフ共がこの森に居るなど、聞いたことも無いぞ」
「エルフって耳の尖がった人たち?」
「あぁそうだな、この大陸にエルフが居るとは聞いたことはなかったのだがな」
ダイモンさんが霞に説明している、エルフが大陸に存在していること自体知られていない!?
どういうことだ? このルートは確立されていると、出発前にダイモンさんが言っていたはずだ。
ということは、近年に引っ越してきたのかもしれない。
「ジルヴェスト、ここの痕跡から追えるかい?」
『主よ、今探っている』
『主様、この結界の一部であるこれを破壊してしまうのは如何ですか?』
「オンディーヌ、それは最終手段にしようか」
ジルヴェストが探り当てられなければ、仕方ないので破壊するしかない。だが、探し出せるのであれば壊す必要もないだろう。
『見付けたぞ、主』
「ちょっと待って、こちらでも説明するからね。
ダイモンさん、痕跡から追い掛けることに成功しました。これから向かうのはどうでしょうか?」
「結界がある以上、どうにもなるまい。案内してくれ」
「と、いうことだ。ジルヴェストよろしく頼む」
『任された』
本当に、ジルヴェストは物分かりが良い。先程と同じように先導してくれ、また同じように進んだ。
『その先だな、強力な結界が張られている。頼むぞ水の』
『主様の願いとあれば仕方ない』
オンディーヌが結界に干渉するようだ。何もないように見えた空間が歪むが、オンディーヌが弾かれた。
「無理をするなよ、オンディーヌ」
『このくらいなんてことは無い』
再度干渉しようと試みた時、声が聴こえた。
「精霊を連れるお前たちは何者だ!」
周囲を見回すが姿はどこにも見られない。
「ジルヴェスト! この声の主はどこに居る」
ジルベストが空気の塊を飛ばすと空間が弾ける、そこには驚き尻餅をついた壮年の男が突如として現れた。




