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25.旅路-2

 ダイモンさんが朝に話した通り、昼食を摂ってまたしばらく歩くと森が見えてきた。それでも微かに見えるという程度だ。

 目標が見えるというのは確かにやる気にはなるけど、今日中にあそこまで行けるの?


「お兄ちゃんたち、森が見えてきたよ。お肉に注意だね!」

 さっきご飯食べたばかりじゃないか、お肉から離れろよ。

「そうだ、空も注意しておけよ」

 鳥でも飛んでくるのかね? 僕が言葉を返そうと思ったその時、僕の視界に妙なものが映り込んだ。

「なっなんですかアレ? 森の上に鳥が…」

「ん~、そうだあれに注意しろってことだ」

 遥か遠くに微かに見える森の上空に、この距離からも鳥だと認識できる大きさの鳥がいた。

「どこにいるの~?」

 霞は手を庇のようにして森の方を眺めている、僕は指差し教えようとした時には既に鳥の姿は無かった。


「ガルーダに襲われたら一溜りもないからな、十分注意しとけよ」

「あんなのが居るなら注意しますよ」

 襲われる以前に、狙われたら終わりだな。

「私も見たかったな」

 霞は拗ねているが、あんなもの見なくて正解だよ。近くで観たら一体どれほどの大きさなのだろうか?

 今まで何もなく平和な道中だったことが奇跡のように思えた。


 森からある程度の距離があるところで、今日は野営をすることになった。何かがやって来た時に対処し易いようにとのことだ。

 食事を済ませ一旦休眠していると、見張りの交代で起こされた。

 今日は誰を呼ぼうかな? 新しい子を呼んでみるか。

「え~と、おいでシュケー」 『は~い』

 地面から小さい芽が出た、次の瞬間にはそれ程大きくはない木に成長した。そして木の幹が縦に裂けたかと思えば、そこから可愛い女の子が顔を覗かせる。

 この世界に無花果があるのかは知らないけど呼べた、来てくれたので大丈夫なのだろう。

『はーい、名前のお礼にこれあげる』 「これ、食べていいの?」

 立派な無花果の身を貰った、デザートとして頂くとしよう。

「甘くて美味しいよ、ありがとう」 『えへへ、まだたくさんあるよ、ほら』

 シュケーはぐるりと一回転して、自らに実る実を見せてくれる。身を削ってくれているので、霞には内緒にしよう。

「それでシュケー悪いんだけど、周囲の警戒を頼めるかな?」 『わかったー』

 軽すぎる返事に、本当に意味を理解してくれているのか不安になるな。

「僕たち明日から森に入るのだけど、何か問題あったりしないよね」 『ん~ん~ない』

 可愛らしい少女が首を左右に、コテンコテンと傾げる姿には癒されるな…。そうじゃないくて! 本当に大丈夫なんだろうか。

 無花果を食べたいばかりに、この子を呼び出したことを深く反省する。

 

 その後、シュケーに貰った無花果を何個か食べていると、ダイモンさんが起きてきて交代する。

 シュケーは無花果の実をダイモンさんに幾つかプレゼントした後、顕現時の逆再生のように土の中へと帰っていった。

 小腹が空いたらシュケーに決まりだな。心にメモを残し僕は朝まで眠ることにした。



 翌朝、街を発ってから5日目だ。ダイモンさんが用意した食事には、何故か無花果の実も並んでいた。

 霞には秘密にしておこうと思ったのに、なんてことだ!

「いやー、食べ方の分からない果実でな。お前に尋ねようと思っていたのだ」

 この世界では無花果は食べ物として認知されていないのか? しまったなー。

「お兄ちゃんたち、これどうしたの?」

 霞の質問にダイモンさんが気まずそうな表情をする。秘密にしなければ、シュケーが貪られてしまう。

「それは僕が見つけたんだよ」

 嘘は言っていない、僕が見つけたシュケーという精霊に貰ったんだ。

「ふーんそうなんだ、ありがとう」

 危ない危ない。

「ああ、そうやって中身だけ食べるのか。これはさっぱりとした甘さで旨いな」

 確かに丸齧りしたら皮はイガイガするもんな、今度から食べ方も気を付けよう。

 今日の朝ごはんは贅沢だな、デザートまでついてきたぞ。


 食事と片づけを済ませ出発する。

「さて今日はいよいよ森に入ることになる。何が出てくるかわからんのでな、戦闘の準備もしておくように」

 昨日はあんなデカイ鳥も見たことだし、本当に何が出てくるかわかったもんじゃない。装備的には毎日同じなんだけど、心構えだけはしっかりしておこう。

「はい、気を付けます」

「お肉にも気を付けます」

 お肉から離れようよ、干し肉だって食べたばかりじゃないか。

「確かに干し肉じゃない肉も食べたいよな」

 ダイモンさんまで…。

「確か、森に入ったら小川を目指すんでしたよね?」

「そうだ、アニタさんが言っていたな」

「お魚いるかなー?」

 どうかな? 食べ物から離れろよ、霞。

 締まらない話をしながら僕たちは森へと歩みを進める。



 森の中は、至って普通の森の中といった感じだ。小鳥の囀りが響き、小動物たちも多く存在するのか若干うるさい。

 魔獣でも出てくるのかと不安に思っていたが、そんなことはなかった。

 アニタおばちゃんの話していた小川もすぐに見つけることが出来た、幸先が良いとはこういうことだろうか。


「アニタさんの話だとこの水は飲んでも平気だと言っていた、汲んでいくとしよう」

「小さいお魚が泳いでるよー、小さすぎて食べられないね」

「ほら霞、水汲むの手伝って」

 水を汲みながら軽く休憩をした、馬も水を飲んで休んでいる。

「少し早いが昼食を摂ってしまおうか」

「はい」

 少し進んでまた休憩するのも馬鹿らしい話だし、ちょうど良いのだろう。

 定番の3種ご飯だ、もう皆慣れたもので黙々と食事を済ませる。パンが硬いとか言うだけ無駄なのだ。


「腹も膨れたことだし行くぞ」

 僕たちはまた北上を続ける、草原を歩いて時と違い森の中では陣形を組んでいる。

 中央に荷物を積んだ馬を置き、ダイモンさんを先頭の頂点とした三角形を形成している。大事な食料を守らなければならないのだ。

「今日からは森の中で野営もすることになる、良い場所を見付けるのも大変だろうな」

「どういった場所が良いのですか?」

「大きな岩や大木でもあれば、それを背にしてテントを構えるのが良いだろう」

 野営するのも一苦労だな、これは。


「捕まえたー!」

 声が聴こえると同時に僕とダイモンさんが振り返ると、霞が雉のような鳥を生け捕りにしていた。

「でかした! カスミ」

 どういうこと? どうやって捕まえたの?

「お肉が食べられるよ、お兄ちゃん」

「どうやって捕まえたの?」

「後ろからそーっとガバッてやったの」

 いつからこんな野生児になったのだろうか? お肉に対する執念の賜物なのか。

 ダイモンさんは霞から獲物を受け取ると、僕たちに見えないようにキュッと絞めて馬の腰にぶら下げた。


 

 結局良さげな野営場所は見付からなかった、仕方なく少しだけ開けた場所にテントを設営した。

 例の如くダイモンさんは食事の支度だ、羽を毟る手伝いを霞が担っている。お肉に対する姿勢がこの二人は似通っているな。

 僕はその間に焚火を起こし、スープ用に鍋に水を入れ火に掛ける。ただ森の中なので警戒を怠らない、オンディーヌを呼び出し周辺の警戒を任せている。

 今日の晩御飯は期待出来そうだ、ダイモンさんはどこから取って来たのかキノコを刻んで鍋に入れた。霞は羽を毟った後に火の精霊で軽く炙っていた、羽毟りが本格的だ。

 いつもの倍近く手間をかけた食事はとても美味しかった、この調子なら森を進むのも悪くはないなと思えた。

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