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24.旅路-1

 ニールの街を発ってから早くも2日が過ぎた、北の森林地帯までは街から5日程の距離があるのだという。

 これまでの道中は順調そのものだ、平原を真っ直ぐ進むだけなのではっきり言えば何もない。

 方角は太陽の位置から割り出しているのだとダイモンさんは教えてくれた、この世界に方位磁石は無いのだ。

 一度ジルヴェストを呼び出して方角を尋ねてみたけど、はっきりした答えは得られなかった、彼らにそういった考えは通じないのだ。

 森には向かっているという物凄く曖昧な返事が返って来ただけで、以降呼び出すことはなくなった。


 食事は朝昼晩と三食摂り、夜は一人が見張りに立ち交代で眠っている。

 食事に関してはダイモンさんが豪快な手際で準備をしてくれている、道中たまに見掛ける小動物はご飯のおかずに早変わりだ。

 最初は霞が可哀そうだとか言っていたが、ダイモンさんの料理が殊の外気に入ったらしく見付けては捕まえているほどだ。


「あそこに何か居るよ!」

 今もまた何か見付けたようだ、おかず確保に霞が躍起になっている。

「あれは駄目だな、ロクに食うところがない」

 小鳥だ、雀のように小さな鳥で確かに肉が少なそうだ。

 霞はとても悔しそうにしている、食い意地が張り過ぎだろう妹よ。


 森に入るまではこんな感じなのだとダイモンさんが言っていた、あと3日もこんな調子なのは平和でいいな。

 先日見たような魔獣などは滅多に遭遇しないものなのか気になるが、ダイモンさんが何も言わないので恐らく平気なのだろう。

「カスミ、疲れたのなら馬に乗っても構わんぞ」

「ううん大丈夫、歩けるよ」

 霞は初日に馬に乗ってグロッキーになったを思い出したのか、嫌な顔をしたが気を取り直して歩き出す。

 何事も無い野原をただ歩くというのも、結構疲れるもんなんだね。


「もう少し進んだら、野営の準備をしようか」

 日が傾くのを確認したダイモンさんが言った。

「では、あの岩の辺りが良いですかね、霞あと少しだから頑張りなさい」

 霞は疲れた表情で小さく頷いた。

「森が見えてくれば事情も変わってくるだろう、明日一日は我慢することだ」

「森の近辺には何かあるのですか?」

「森には動物たちが多く暮らしている、たまに魔獣も現れるだろうしな」

「お肉食べられるの?」

「ああ、上手く捕まえられればな」

 お肉を食べられるという言葉で息を吹き返した霞、食べ物に反応し過ぎだろ。



「ついたー、疲れたね」

 目指していた大岩に辿り着いたので、テントを張り野営の準備をする。ダイモンさんは食事の支度に入った。

 馬の腰に括り付けた鞄から薪を取り出し火を起こす、火を点けるのは霞の仕事だ。正確には精霊の仕事だ。

 本来なら薪に火を点けるのは苦労するところなのだが、精霊がちょちょいとやってのける。便利過ぎるだろ。

「昼からは何も獲れなかったからな、持ち込んだ食料だけだぞ」

 硬いパンとチーズのようなもの、それと干し肉でダシを取ったスープだ。


「贅沢な話ですが、このパンはもう少しなんとかならないのでしょうか?」

「うむ、旅というとこのパンなんだよな。慣れというか何というか、俺もあまり好きではないな。しかもギルドの選別にたんまりと積み込みやがって」

 ダイモンさんが嫌な表情をして馬に積んでいる食料を見る。硬すぎるんだよ、このパン。

 ミランダさんの話にあった食料は全てこの硬いパンだったのだ。

「こうやって薄く切ってこれを乗せてっと、焚火で炙ると美味しいよ?」

「霞、ジルヴェストにパン切らせてるの?」 『中々難しいのだぞ』

 よく考えついたと褒めるところだろうか? 呆れるところだろうか。

 チーズ乗せて焼いても硬いのは更に硬くなるんだけど、香ばしいだけだよね。

「一応スープでふやかして食べるのが普通なんだがな。これは旨いな、もう一枚くれ」

 ダイモンさんの言う通りにするのが一番なのだが、このパンは本当にどうにかしないと食事が辛すぎる。


 食事が終わると辺りは暗くなっているので、順番に休むことになる。見張りの順番は霞、僕、ダイモンさんの順だ。

 霞は精霊たちと楽しそうに会話をしながら暇をつぶしている、周辺の警戒に関しても精霊にお任せしているそうだ。

 時計も無いので適当な時間に僕を起こす霞、大体3、4時間くらい感覚で交代だ。

 僕も交代したら精霊を顕現させてお任せなんだけどね、呼び出したら寝てても良さそうだけど。

 昨日はイフリータを呼んだので、今日はオンディーヌを呼んでみた。


「問題はないよね?」 『何もないぞ、主よ』

 会話が単調で続かないのが難点だな。

「オンディーヌは綺麗だよね」 『ふふ当り前であろう、もっと褒めよ』

 ちょろいんだけど面倒くさい性格なんだよね。

『今、妙なことを考えたじゃろ?』 「何のことだい」

 察しが良くて困る。

「オンディーヌのその体の水は飲めるのかな?」 『喉が渇いたのか? ほれ飲んでみよ』

 僕の口の中に手を突っ込み、水を流し込んでくる。

「冷たくてとてもおいしい水だね」 『妾の水を飲めるとは主も幸せじゃの』

「僕だけ特別みたいな言い方だね」 『特別じゃよ、他の者には直接飲ませはせん』

「なんだ可愛いところもあるじゃないか」 『か、可愛いなどと…』

 オンディーヌの方から漂ってくる風が、先程まで冷たかったのに急に温くなった。容器があればお風呂にも入れそうだな。

 くだらない話をしながら適当に時間を潰せたので、ダイモンさんと交代して休むことにした。



 街を発って3日目も特に何が起こるということも無く過ぎた、そうして4日目の朝を迎えた。

「今日このまま進めば昼頃には森が見えてくるだろう」

「お肉だね?」

「ああ肉だな、それと森に入れば木の実も手に入るだろう。そうでは無く!森が見えたら注意することだ、いいな」

 ノリツッコミという高度なテクを披露したダイモンさん、霞に乗せられているだけかもしれない。

「わかりました、森が見えてきたら注意しておきます。霞もいいね」

「はい」

 漸くこの暇な道中に、何かしらの刺激が齎されることになるのだろうか?

 ここ数日は歩きながら居眠りしそうだったので、正直な話助かるといったところだ。

 それに食事の内容が豪華になるなら、少し気合を入れるのも良いかもしれない。

 

 こうして街を発ってから4日目の道程を進んでいくことになった。

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