184.おじさんと魔王都へ
雨ざらしで水が貯まっていたゴンドラはガイアとシュケーに頼み、補修してもらった。
網状の蔦もそれを固める土も多分に水を含んでいたからね。以前のように空中分解してしまうと危険なのだ。
「準備は良さそうだな? 王へ向け、出発するぞ」
霞の臣下たちの重量級は夜霧の背に、軽量級はゴンドラに乗ってもらった。
僕の精霊たちは無論、夜霧の背の上だけどね。
リグさんにお別れの挨拶を済ませると、再びリリンさんに先導してもらうことに。
▽
「ちょいと迂回する。ついて来いよ!」
なんで? と、言いかけた僕は気付いた。
この先にある森には、例の聖獣さんが棲んでいるのだと。
そりゃあ、マズいよね? 事故みたいなものだけど討伐してしまったのだから、気拙いなんてもんじゃない。
迂回するから多少到着が遅れるのかと思えば、リリンさんと夜霧が飛行速度を上げて対処することになった。
浮島までとはいかないものの、かなりの高度をとっているために寒い。その上、速度を上げたのだから、寒くて寒くて凍えてしまう。
シュケーに固定されている状態の僕と霞に荷物を漁る余裕はなく、防寒着を取り出せない。
仕方なく、イフリータを近くに呼び温まることにしたのだが――
「あー、ずるい! お兄ちゃん、ずるい! 私も」
「ダメだよ。イフリータは僕の精霊だからね。それにこっちにはペトラさんも居るんだから、諦めなさい」
まぁ、イフリータの代わりにペレでも貸してあげよう。
ビリビリするので、寒さが紛れるかもしれない。スノーマンでないだけ、兄に感謝してほしい。
「――おおう、危ないだろ、フィグ! 落ちたら大変なんだぞ」
シュケーの元からフヨフヨと僕の背に飛びついてきた、フィグ。
フィグは低空飛行しか出来ない。今も夜霧の背を地面に見立て、飛行しているに過ぎないのだ。
「あったかい!」
あぁ、うん、ごめん。お前も寒かったのね。
一日の大半を寝て過ごすフィグだから、その存在をすっかり忘れていたよ。
「もう少しの辛抱じゃの。ほれ、見てみよ」
軽く振り返った夜霧が顎で示す。
高度をとっているからこそだろうけど、魔王都の外壁や街並みが遠目に観えてきていた。
『高度を下げるようだ。主も寒さが和らぐんじゃねえか?』
「そのようじゃの」
リリンさんは翼を動かすことを止め、滑空の態勢に入っていた。それに続けとばかりに夜霧も滑空へと移行する。
「あれが王都か、中々に栄えておるようだな」
「魔王都は久方ぶりだな。父上や母上は元気でやっているだろうか?」
ラヴリュスとペトラさんの言葉だが、双方ともに自問自答みたいで僕が答えを返す必要はなさそうだ。うん、無視しよう。
僕はフィグに魔王都を景色を見せようとしたのだけど、フィグは僕の胸にがっしりと掴まったまま惰眠を貪っていた。イフリータのお陰でポカポカして、眠たくなってしまったのだろう。
彩霞とはまるで異なり、未だ赤ん坊であるようなのだ。仕方ないね。
そうこうしている内に、リリンさんも夜霧も魔王都の上空に達していた。
外壁は既に通り越している。真下は夜霧の身体が邪魔で観えないけれど、斜め下方向を見るとその惨状が露わになった。
うん、予想通りの大騒ぎなのだ。
高度がかなり下がっていることもあってか、その喧噪が僕たちの元へと届いているからね。
秀次叔父さんは全く気にしていないようだけど、僕の内心では結構ハラハラしている。また何だかんだとお説教されるのは避けたいのだ。
でも今回は平気かな? 責任者である秀次叔父さんが同行していることだし、さ。
「城の屋上に直接降りるらしいな」
「うむ。ジルよ、旦那様らをお主が降ろせ」
『おう、任せろ』
リリンさんは魔王城の屋上に降り立った。けれども、流石に夜霧の巨体が降りるのはマズイ。
それは夜霧自身にも理解できていたようで、僕たちをジルヴェストに任せるようだ。夜霧はゴンドラと背に乗っている僕たちが降りきったところで、人化するのだろうな。
まず夜霧は先に、城の上でホバリングしながらゴンドラを降ろした。
その後、シュケーが僕たちの拘束を解くと、ジルヴェストが僕たちを風で包み込む。そしてそのまま優しく屋上へと降りていく。
最後に夜霧が人化して、屋上へと舞い降りた。
「お待ちしておりました、ヒデツグ様」
「よう、アイン。ついこの間、会ったばかりだけどな」
秀次叔父さんがアインと呼んだのは、不健康そうな青白い顔色のエルフだ。
アインという名からして、秀次叔父さんの最初のエルフであるのだろう。
ただ、ドライさんとはあまり似ていない。ドライさんは利発そうな雰囲気なのに対し、アインさんは病弱っぽく見えるのだ。
「こちらが?」
「あぁ、そうだ。俺の甥と姪、ついでに愉快な仲間たちだな」
「愉快ですか? 大精霊に光の欠片が含まれているようですが……」
アインさんは僕と霞に向ける表情は柔らかい。但し、それ以外に対しては、訝しむような表情を見せていた。




