182.久方ぶりのニール
夜が明け、少し早めの朝食摂ると出発の準備に勤しむ。
荷物は……大したことはないが、お米は是非にでも確保しておきたい。
フィグは保留するとしても彩霞の能力次第では、ここに一瞬で戻れる可能性はあるのだけどね。日本人である以上、お米を魅力には逆らえないのだ。
え~と、点呼というか確認を。
チビ共は居るな。ジル、オンディーヌ、夜霧、ルー、ガイア、シュケー、ペレも僕の傍に居るから大丈夫、と。
フィグはシュケーが抱いているから良いとして、あとは誰だ?
「霞と彩霞!」
「「はい」」
「誰か忘れているような……そうだ、ラブリュース!」
「そんな大声を出さんでも居るわ」
あ、居た。どうやらラブリュスはガイアに背負われているようだ。
自前で浮けるんだから、横着するなと言いたい。
「私を忘れてもらっては困る」
「あぁ、うん」
出来ればここに忘れていきたかったペトラさんまでもが既に揃っていた。
秀次叔父さん曰く「地球人でもあり未来人でもある」ということだけど、僕にとっては扱いが非常に難しい相手になるんだよね。
今は、秀次叔父さんのあの言葉が冗談であることを祈るしかない。
「了、準備は出来たな? 忘れ物はないよな?」
「たぶん」
「たぶんって、まあいいか。
俺はリリンで先導する。まずはニールに寄るんだったか?」
「うん! みんなを迎えに行かないといけないもんね」
僕が返事を返す間もなく霞が返答した。
後でも良いような気もしないではないが、秀次叔父さんがそれで良いというのであれば、その方が良いのだろう。
「じゃあ、出発だ」
「はい」
神殿がそこに見える位置で秀次叔父さんは、夜霧の義妹であるリリンさんの背へと登る。
僕たちも遅れないようにと夜霧の背に乗り込むのだが、数が多いこともあり、時間が掛かるのは大目に見てほしい。
秀次叔父さんが僕たち全員が夜霧に乗り込むのを確認し終えると、リリンさんは静かに浮かび上がった。
リリンさんは夜霧のように闇の大精霊という訳ではなく、長命な高位ドラゴンでしかないはずなのだが、夜霧と似通った飛行能力を有しているように思える。
いや、この場合は夜霧がリリンさんに似せたのかもしれないな。
「ほら、あっちを見てみろ!」
夜霧の横に並ぶように、僕たちに向けて秀次叔父さんが叫ぶ。
距離の問題で叫ばないと声が届かないからだ。
僕はというか僕たちは、秀次叔父さんの指さす方向を見た。
「あっ、新しく島が出来ているんだね」
「本当だね。あの地図で新しく置いた島だね」
秀次叔父さんが設置したであろう新たな島を僕たちに確認させたかっただけらしい。僕たちが島の確認を終える頃には、秀次叔父さんはリリンさんと共に夜霧の前方へと移動していた。
そのまま特に何か発言することもなく、秀次叔父さんとリリンさんは夜霧を先導していく。
◇ ◇
「降りるぞ!」
先導していた秀次叔父さんは振り返りつつ、大声で呼びかけてくる。勿論、叫び声だ。
まぁ、元々空に浮かぶ島に来る時もそれほど時間が掛かった訳でもないのだ。すぐに到着することはわかりきっていた。
但し、秀次叔父さんが降りようとしている場所が問題だ。
「秀次叔父さん、練兵場に降りる気だ」
「大丈夫なのかなぁ?」
「どうだろ?」
珍しく霞が心配している。僕も心配だ。
夜霧が現れた時の魔王都みたいにパニックになるんじゃないのか? と。
僕や霞の心配などどこ吹く風の秀次叔父さんは、リリンさんをそのまま降下させていく。仕方なく、夜霧にもその後を追わせた。
「なるようにしか、ならんじゃろ」
「いや、まぁ、その通りなんだけどさ。
霞、この距離ならモーに繋がるだろ? 僕たちの姿が見えても領主館には来ないでゴンドラの傍にいるようにって伝えて」
「あっ、うん、わかった」
モーに伝えれば、あとの連中も一緒にゴンドラの前で待っていてくれると思う。
茜やマリンよりもモーの方が大人っぽいから安心も出来るってもんさ。
案の定というか、想定の範囲内でニールの街は大騒ぎになっている。
練兵場に至るまで街の上を飛んだのだから当たり前か。
聖獣を誤って討伐してしてしまったこともあるし、秀次叔父さんは神様みたいなものだし、流石のリエルザ様も秀次叔父さんを非難するような真似はしないだろう。たぶん、ん?
まず、リリンさんが練兵場に降りた。それも夜霧が降りるスペースを十分に確保した位置に、だ。
その気遣いのお陰で、夜霧もすんなりと練兵場に降り立つ。
この練兵場に来るのは久しぶりだけど、リリンさんと夜霧が並ぶとかなり狭く感じる。もっと広かったイメージがあるんだけどな。
練兵場には既に多くの兵士を連れたリエルザ様の姿と、アニタおばちゃんが付き添われたギネスさんの姿があった。
しかも臨戦態勢にしか見えない状態だが、先制攻撃を仕掛けてくるつもりはないようで少しだけほっとした。
リグさんの姿はない。門の辺りでそれらしき姿は見たので、今日は通常業務なのだろう。
「何者か?」
「何者か、か? ふうむ『王の使いである』と言えば良いか。正確には違うがな」
誰何してきたのは領主であり、あの団体さんの代表者でもありそうなリエルザ様だ。
秀次叔父さん、一言多いよ!
「魔王様の使いだとぉ?」
あぁ、良かった。語尾の部分はどうやら聞き取れていないらしい。
まぁ、この反応はギネスさんなんだけどさ。




