181.ヴュルワーデ-8
インフルエンザ以降、酷い目に遭い続けましたが体調も回復傾向にあり、少しずつですが続けていこうと思います。
「そういや、お前ら。聖獣を一体、仕留めてるよな?」
「「え?」」
『せいじゅう』とは何だろうか…? 全く以て覚えがない単語だった。
魔獣は結構な数仕留めているとは思うのだけど、『せいじゅう』とやらはその類なのかしら?
「場所はこの辺りでな。姿形としてはネコ科の魔獣ってところか」
秀次叔父さんが指し示したのは、分厚い辞書の冒頭に描かれている不思議な地図の部分。その中でも僕たちが元居た大陸というか島というかであり、付近にはニールの街がある。
「――まさか、大きなヒョウだったりしちゃう?」
思い出した! 熊なダイモンさんと一緒に初めて討伐に向かった時の魔獣のことだろう。
「思い出したか? あの一帯の森の生態系管理を任せていた個体なんだがな。死因が不明だったんだわ。本に記載されるのは、この世界に移住したものたちとこの世界で生まれたものの生死が詳細に描写されるんだが……彼女に関しては、死んだこと自体は判明しても、死因が不明でな」
あれを主導したのは霞だ。スノーマンにお願いして氷漬けにしたんだ、確か。
当の霞と言えば非常に気まずいらしく、秀次叔父さんから目を逸らすようにそっぽを向いている。向いているのだが、その顔は若干ながら青いことが窺える。
「まぁ、幸いにも魔石を無傷で回収できたのでな。彼女から事情は聞き及んでいる。
『神性を帯びた者が現れたので様子を窺っていたら、有無を言わさず氷漬けにされた』嘆いていた。よもや神の眷属に殺される憂き目にあうとは、とかなり凹んでいる」
「えっと、彼女? 聞いているって……どういう意味?」
スノーマンにガチガチに固められた魔獣はニールに運び込まれた後、解体されたはず。それなのに嘆いていたとか、凹んでいた、とか……意味が分からない。
僕が抱いた疑問に関しては霞も同様なのだろう。視線が泳ぎまくっている。
「今回は不幸な事故だ。諸侯の世代交代の際に聖獣に関しての引継ぎが為されていなかったことが主な原因として、俺とクロンがお前たちを補足できなかったこともその一因となる。ただ、そのお陰でお前たちの足取りを追うことが可能になったのは不幸中の幸いではあるかな」
「いや、あの質問の答えになってないんですけど……」
「あぁ、すまんすまん。魔石が無事だったのでな、彼女には新たな肉体を与えて再配置しておいた。俺が謝り倒しておいたから問題はあるまいが、お前らは暫く彼女には近づかない方がいいだろうよ」
「なるほど。肉体は解体しちゃったけど、魔石が無事だったから存命しているんですね?」
「あぁ、そうだ」
「良かったな、霞!」
声も出さずコクリと頷くだけの霞。反省するも何も、何らそれらしき情報を与えられていなかったのだから仕方ない。ただ、それでも、聖獣が生きていてくれたことには感謝してもし足りない。聖獣の不思議な生態に関しては、それこそ謎だけど。
霞が酷く落ち込むことがなくなりそうで、僕も一安心だ。
聖獣関連の事故について地上に戻ってから、リエルザ様やギネスさんに確認を取る必要がありそうだ。
「しかしながら現王が諸侯の統制に手間取ることや、元老が中央の官僚機構の統制すら満足に果たせていないことも含めて、綱紀を引き締める必要がでてきたのも事実ではある。
地上に戻るという話だが、お前たちには発言力の弱い現王の拍付けに協力してもらうことにしよう。所属は現王麾下として、そうだな……ペトレーベルの管理下にあった土地の再開発を頼もうか?」
「え?」
「不可抗力とはいえ、聖獣を仕留めた罰も込みだ。普段何でも疑って掛かる了としては珍しい失態だよな? 俺としてはお前もまだまだ子供らしいところが残っているのが実感できてホッとしているんだけどな。
あっと、ついでにペトレーベルの監視も頼むな! あいつも一応は現王の指揮下にある訳だから、よ」
なんだろうか? こちらに非があるとはいえ、それこそ良いように使われている気がしないでもない。ペトラさんの食肉事業は秀次叔父さん的には許されざることだったらしいけど、何も僕に押し付けることはないんじゃないだろうか?
秀次叔父さんはペトラさんを僕のお嫁さんに押し込もうとか画策していることを考慮すると、あまりにも危険な気が……。ただでさえ霞と彩霞が鬱陶しいというのに。
「クロン、結界の維持装置はもう復旧したか?」
「ドワーフたちの協力もあり、十分に回復しておるよ」
「今から地上に移動すると時間的に中途半端になる。明日一番で俺と一緒に王都に出向くとするか。アインにお前たちを直接紹介する必要もあるし、な」
曽爺さん婆さんの元から戻った直後で、ショッキングなお話もあった。僕もだけど、霞も今日はもうお腹いっぱいだよね。
明日には地上に戻ることになる。帰りは結界を強引に打ち破る必要もないのでそこまで苦労することもないだろう。でも、魔王都に行くのか……夜霧で乗り付けるのに、昼間という時間帯は大丈夫なんだろうか?




