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180.ヴュルワーデ-7

「むぅ、我はもう少し滞在しても良いのだが」


「ジジイ、何言ってやがる? 俺たちは戻るぞ」


「ノーラばかり、ずるいではないか!」


 曽婆さんの時間から曽爺さんの時間に切り替わった。曽婆さんも多少申し訳ないと思っていたのか、今回ばかりは曽爺さんに切り替わる際に一切のゴタゴタはなかったのだが。


「いや、今生の別れというわけじゃねえんだから、な。俺が連れてくるか、こいつら自身で来るかはわからねえが、次の機会もあるって。それに爺婆も、戻らないとマズいだろ!」


「折角、可愛い曾孫に会えたというのに。気の利かん、孫め」


「あ?」


「おじさん、ダメ! 曽お爺ちゃんもまた来るからね」


「カスミは良い子だの。エルサのように小生意気でもなく、エリナのように乱暴でもなく、ヒデツグよりも思いやりがある」


「曽爺ちゃん、霞は毒入りだよ?」


「お兄ちゃん!」


 本当のことを言っただけなのに、霞に怒鳴られた。

 

「アキラとは長い付き合いになるだろう。遠慮などせずに、会いに来るのだぞ」


「ここに住んでいるのではないのですね?」


「我らはここの下も管理してはおるが、それはあくまでもヒデツグが成長するまでの代理。我らには本来守るべき世界が別にあるでな。

 アキラが今のヒデツグの立場を継げば、ヒデツグはこちらを治めることも出来ようぞ。是非、協力してやってほしい」


「残りの時間を使い考えてみます」


「うむ、それでよい。惜しいが、と~っても名残惜しいが、送るとしよう」


「女々しいぞ、ジジイ! ほら、お前ら集まれ、置いていくぞ」


 クロンに転送された時と同じ魔法だろう。でも、魔法陣の出来上がる速度が全く違う。一瞬で出来上がって、待機しているようだ。

 精霊たちとラヴリュスに彩霞とフィグ、それにドライさんも僕たちの元に集う。

 全員が集まり終えると、完成後に待機していた魔法陣が眩い光を放ちながら回転を始めた。


「約束だぞ。絶対に遊びに来るんだぞ!」


「しつけえよ!」


パンッと弾けるような音が聞こえると、一瞬で視界が切り替わった。


「戻ったか」


「あぁ、ただいまだ」


「ただいまー、クロンちゃん」


 帰ってきた場所はクロンの目の前。クロンは僕たちを向こうのお城の前に送ったというのに、曽爺ちゃんはクロンの眼前に。流石と、褒めるところなのだろう。


「おぉ、そうだ! 戻って早々、質問なんだがな。クロン、あの元エルフの正体はわかるよな?」


「む? また生み出したのか、懲りん奴め」


「ちがう、俺のじゃねえよ。こいつらの、だ」


 クロンはぺらりと、あの本を捲る。


「ふむ。妖精と人間の中間、と記されておるよ。とても珍しい個体。半妖と呼ぶべきだろう」


「はぁ? 了、とんでもねえもん創ったな。全責任はお前が取るから良いけど」


「え? どういうこと?」


「元エルサリオーネ、クソババアよりも高度な変化と断言できる。俺がまだ学んでいない事柄に含まれるっぽい。詳しくはクロンに聞け」


「半妖の存在事例は極めて希少である。エルサの兄、ミスト殿の元に1体。我の元主、アルスヴェニル様の元に1体を確認しておる。他にも何例かあるが、そのどれにも共通項は皆無である。この度の発生も恐らくは……」


「何もわからないってこと?」


「うむ」


 彩霞は母体とした木の生命力やら何やらの存在全てを吸収し尽くし、エルフからハイエルフに変化を果たした。フィグは母体のシュケーの全てを吸収することなく、半妖となっている。僕が今、わかっているのはそれだけだ。



「アキラ様、お慕いしております」


「へ? ちょっと待て、抱き付くな! 霞、なんとかしろ!」


「ちょっ、ちょっとぉぉ、彩霞ちゃん、私のお兄ちゃんに何してんのよ!?」


 クロンの返答を受け、フィグの出生を思い返していた。すると突然、彩霞が正面から抱き付いてきた。抱き付く前に何か口走っていたような気がするが……。


「やっぱ、こうなったか」


「秀次叔父さん? 何か知ってるの、教えてプリーズ! っていうか、離れろ」


「エルフ核は使用した者の個性や権能をある程度引き継ぐんだ。霞はほら、了のストーカーじゃないか、だから、な」


 意味はわかる。わかるけど、何か腑に落ちないのだ。

 僕は秀次叔父さんとドライさんの顔を何度も繰り返し見た。


「ドライは俺の真面目な部分を引き継いだ、らしい」


「なんで、自信なさげ?」


「ヒデツグ様はお仕事に関してだけは真摯ですから」


「俺、褒められてる? 貶されてないか、それ?」


 僕は一つ頷く、深く納得できたのだ。でも、そうするとフィグもということになるよね? いや、どうなんだろうか、フィグは母体としたシュケーの影響の方が大きいような気がするんだけど。

 霞が彩霞にお説教を垂れているのを横目に、ちょっとフィグを観察してみる。


「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなんだから、彩霞ちゃんにはあげない!」


「母様はアキラ様とご兄妹であらせられます。ご兄妹では婚姻を結べませんので、私が代わりに――」


「ダメ! お兄ちゃんは誰にも渡さないの!」


 霞は我が妹ながら、相変わらず痛々しい。僕は確かに霞の兄だけれど、霞のモノではないのに。彩霞が霞のヤバい部分を引き継いだとなると、それは倍化したということか? やめよう、考えてはいけない。

 シュケーは枝で器用にハンモックを形作り、その上にフィグを寝かせていた。どうやら、フィグはオネムの模様。ドライさんや彩霞が引き継いだであろう性格は把握できた。フィグは僕から一体どのようなものを得たのだろうか? 考えても、全くわからないのは仕方ないよね、自分のことだし。

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