179.エルフの産声-3
つい先ほどまで昼休憩をしていたというのに、また休憩。休憩に休憩を重ねるというのは何気に辛い行為だったよ。暇を苦痛に感じるようになるとは、僕が日本人である証明かも。
「そろそろか」
「あれ? 何か足りない……」
彩霞の元にやってきたのだが、何か物足りない。
彩霞自身は木の皮のような簡易な服を纏い、僕たちの正面で立ち尽くしている。
「木がないんだよ! お兄ちゃん」
「あっ、その穴は木の根があった跡か。でも、なんで?」
「エルフ核は樹木の持つ生命力や魔力を吸収する性質を持つの。それは名付け後の変異にも適用される。要するに、樹木に蓄えられた生命力と魔力は彼女に全て吸収されたということよ」
「木に人格となる核をブチ込んだとでも思えばいい。木人とは完全に別モノだけどな。で、どう見る? 婆さん」
木人とは人間に該当するいくつかの種類の内のひとつ、だったよね? ドライアドやトゥレント、シュケーと似たような姿をしているんだろうか。
「この感じは、ハイエルフかしら?」
「アインに似た感じだし、俺もハイエルフだと判断するよ。
で、あっちは何だろうな? 俺、あんなの初めて見るんだが……」
「成長が止まったのは核の方が遠慮したのかしら、ね? うーん、何かしらね。もしかすると12番目?」
「12番目ってことは、妖精か? だけどなぁ、なんか違う気がするんだよな。
あぁっと、いけねえ。霞、あの子を呼んでやれ! すぐに目を覚ますはずだ」
目を閉じたまま、ずっと突っ立ている彩霞へと霞が近づき、その名を呼ぶ。
「おはよう、彩霞ちゃん」
「初め、まして、私、は、サイカ」
「よろしくね」
「はい、よろしく、おねがい、します」
「その内、言葉も流暢になる。ドライを見てればわかるだろ」
目覚めたばかりの彩霞の言葉遣いはとても拙い。でも、確かにドライさんを参考にするならば、それなりに学習能力が高いのかもしれないな。
そんなことよりも問題はフィグのことだ。先ほど秀次叔父さんや曽婆さんが言ったことも気になる。木の生命力など、その存在まで根こそぎ吸収するのがエルフ核なのだと言った。それにフィグの方がシュケーから吸い上げるべき生命力や魔力を、遠慮気味に吸収したからこそ子供のままの姿なのかもしれないと。
シュケーに関しては、この豊かな大地さえあれば無尽蔵に養分を吸収できたはずなのに、だ。
「シュケー、というかフィグ」
『はーい』
「父ちゃん」
は? 今、なんて……なんて言った?
「――ププッ、父ちゃんだってさ。お兄ちゃん」
「フィグ。父ちゃんじゃなくて、お兄ちゃんと呼びなさい」
「父ちゃん! ママ」
『いいこ、いいこ』
くっ、なんということだ。これじゃまるで、舌足らずなペレじゃないか! シュケーをママと呼ぶことも、出生を思えば仕方のないことだよな?
「残念でした~、お兄ちゃんの妹は私だけなんだもん」
「良いんだ、父さん呼びはペレで慣れているから。娘がもう一人増えたと思えばそれで……」
「初めましてフィグちゃん。私はお兄ちゃんの妹の霞っていうの」
「おばちゃん! おいちゃん! ばぁば!」
「偉いぞ、フィグ。みんなのこと、ちゃんと呼べるじゃないか」
頭を撫でてやると、目を細めてとても気持ち良さそうに笑う。その表情、これがまた可愛らしい。但し、ショッキングピンクな髪が目に痛いのが玉に瑕ではある。
「微妙な空気のところ悪いんだが、少し近くで観察させてもらうぞ」
「おいちゃん!」
「お、お、おぅ」
秀次叔父さんは僕たちにとっての叔父さんだから、フィグから見れば大叔父に当たるのだけど、おいちゃんで良いのだろうか? 面倒だし、改めるとも思えないから、そのままでいいか。
「ん~~わからん! 耳が俺の知っているエルフじゃねえんだが、婆さん」
「12番目ではなく、まさかと思うけどエルサに近いのかしら? 私もわからないわ。クロンに確認しなさいよ」
秀次叔父さんの言う通り、フィグの耳はドライさんのように鋭角には尖ってはいない。彩霞の耳はちょっとドライさんよりも長く、そして尖っているというのに。僕の耳のように丸いのだけど、斜め後ろの一部だけちょこんと尖った箇所があるだけだ。
「いや、でも妖精という線も捨てがたい。供給源が精霊だからな……」
「今日でここでの滞在の期限は切れるのだから、向こうでクロンに問えば済む話でしょう? レオに替わり次第、送らせるから安心しなさい」
「あっ、滞在って今日まででしたっけ? なら、彼を引き取ってもらわないと。おーい、ラヴュルス!」
「む? 我か」
「あなたはミストの所の子よね?」
「確かに我はミスト様の配下ではあるが、まだ戻る気はないのだ! そこの小僧と共にこの世界を堪能しておきたい」
「なら、ミストにはそう伝えておくわね」
「ラブリュス、帰らないの? お城を留守にしても大丈夫なの?」
「部下たちの説得も済んでおらぬからな。そうそう何か問題が起こることもあるまいよ」
こいつ、何を言っても意地でも残る気だ。海に潜りたいとか言ってたもんな。
それに、そろそろアレだ。下に残してきた霞の亜人じゃなくて、人間たちのことも気に掛かる。一度、顔を見に行くなりしないとダメだろう。




