18.魔獣-1
僕たちは今、街の外は森の中に居る。
僕もなんで?と問いたいくらいだ。薬草採取の依頼票を掲示板で発見し、カウンターにて受けようとしたところ横槍が入ったのだ。
例によって例の如く、ギネスさんである。
「よう兄妹!すまねぇが仕事を一つ頼みたいぃ、ガイドも付けるぜぇ」
何の仕事かは知らないがガイドが付くというのは魅力的だ、仕事を教わることが出来る。
「はぁ、何をすれば良いのでしょうか?」
「話がぁ早くて助かるぅなっと、コイツがガイドを務めるぅダイモンだぁ」
熊だ! ガイドに熊を紹介された。背が高くガタイのいいダイモンさん、丸っこい耳が特徴的だ。
「オレは羆の獣人族ダイモンという。今回お供することになる、よろしく頼むぜ」
ヒグマってことは、ツキノワグマや白熊の獣人族なんて人も居るのだろうか?
「妙な情報が入ったのでなぁ、街の外周の警戒にあたってほしぃのだぁ、まぁ哨戒といったところかぁ」
僕は首を捻る、街の警戒なら領主の管轄ではないのか?
「領主の方からこちらに回って来た依頼だな、平地ではなく森の中ならオレ達の方が動きやすい」
わかりにくいギネスさんに代わり、ダイモンさんが教えてくれる。
「仰ることはわかりますが、何で僕たちに声が掛かるんですか?」
「お前たちはぁ、もう中堅だからぁなぁ。こういった仕事にもぉ慣れていた方がいいだろうと考えてなぁ」
一応フォローをするつもりがあるのだろう、強引にランクアップさせなきゃいいのに。
「色々考えているようだが強制の依頼だ、オレが付く理由もそういうことだ」
ああ、そういうことですか。
そして現在、森の入り口で確認した地図に従い獣道を進んでいる。足元が悪いので大変だ、僕もだが霞もこんな道は歩き慣れていない。
僕たちはリュックにポーションや非常食を入れているくらいの軽装だ、元々薬草採取の予定だったからね。必要なものはダイモンさんが背負ったリュックに納まっている。
それでもゴツゴツとした岩だらけで歩き辛い、ダイモンさんは跳ぶように進んでいく。慣れたものなのだろう。
「情報があったのはこの先だな、警戒を怠るなよ」
「「はい」」
僕と霞は声を揃えて返答した、情報というのが気になるよね。
目的地らしき場所に着いたが、何かあるようには思えなかった。
「ふむ何もないな、無いなら無いに越したことはないが気になるな…」
「どのような情報だったのですか?」
「大型の魔獣が現れたという話だった」
大型の魔獣。どの程度大きいのだろう、そして魔獣とはどんなものなのだろう?
「お兄ちゃんたち! 木の上!」
ぐるぐると周囲を観察していた霞が吠えた、霞の指の先を追う。
「なっ! なんだあれ」
距離があるはずなのにかなり大きく見える、ヒョウのような姿だ。
「お前たち!奴がどう動くか分からん、すぐ動けるようにしておけよ」
「はい」
僕は返事をし、霞は頷いた。ダイモンさんはリュックを降ろし直接背負った大きな盾を構えた。
「あれを放置しておくわけにもいかんな、先制出来ればいいのだが…。
精霊を使えるという話だったな、何とか出来ないか?」
「それは攻撃しろってことですか?」
「だが、まだ距離があるがどうにか出来そうか?」
あの魔獣とやらに恨みはないのだが、見た目肉食獣だし放置はできないか。
「森に被害が出てしまうかも知れませんが出来なくはないです」
ジルヴェストを呼べば森は酷いことになりそうだけど、なんとか出来るだろう。
「熊のお兄ちゃん、私がやるよ」
「霞、火は使えないぞ」
「わかってる。…うん…そう……お願い、やっちゃって!」
霞の盾がかなりの光を放っている、何をする気かと見守っているとパキパキと変な音がした。
魔獣の居る場所が猛吹雪に襲われている、スノーマンと話していたのか。
「そう…そのまま………凍らせちゃえ」
霞の言葉に合わせるように、盾の光が明滅する。
「ふうう、終わったよお兄ちゃんたち」
僕とダイモンさんはずっと様子を見守っていたが、何が終わったのか分からずに顔を見合わせた。
「終わったのか?」
「みたいですね。霞、何が終わったの?」
「凍らせたよ」
本当に素っ気なく答える霞。
「見に行ってみましょうか?」
「あ、ああ、そうだな」
「私も行く」
3人で恐る恐る近寄って行くと木の上に居たはずの魔獣は、バランスを崩して落ちたのか地面に横たわっていた。しかもガチガチに凍り固まっている。
「援軍を連れてこないと素材も取れそうにないな」
「スノーマンおいで」『よんだ~』
「これどのくらい保つ?」『芯までカチカチだよ~』
僕は猛獣の置物を指さしながら尋ねた。
「そうかわかった、ありがとう戻っていいよ」『じゃあね~』
「辺り一帯、数日凍ったままでしょう。一度帰りませんか?」
「うむ、それが良いだろうな」
「もう帰っちゃうの?」
「帰ろうよ霞、僕ちょっと疲れちゃったな」
まさか倒してしまうとは、驚きだ。
大規模破壊を起こそうとした僕より霞の方がずっと凄いな、これだけの被害に収めたのだから。
僕たちは来た道を逆に辿り、街に帰ることにした。




