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177.エルフの産声-1

――オギャァァ、オンギャァァ、ヲンニャァァァ


 霞がエルフ核を埋め込んだ木の幹から声のようなものが響く。それは少し篭ったような声音を奏でている。

 すると、声の鳴り響く中心部分の幹から今までに存在しなかった洞が発生し、これまで以上に大きな声を響かせ始めた。


「新たなエルフの産声だ」


「半日もすれば成体になるからね。カスミちゃんは、この子に付ける名前を考えておいてね」


 僕がどんなに鈍感野郎でも、この声が赤ちゃんの泣き声であることくらいは察せられた。しかし、たった今生まれたばかりだというのに、半日で大人になるなんて異常なことだ。それにエルフとはいえ、人の形をしたものが木から生まれるなんてことも想定外でしかなかった。


 先ほど発生した洞からは、赤ん坊エルフの姿が垣間見える。木からエネルギーを吸収するかの如く、淡い光が赤ん坊へとゆっくり流れていることがわかる。

 神秘的な光景ではあるのだけれど、感動が薄いのは僕自身の肉親ではないからだろうか? 核を埋め込んだ霞も驚きこそあるようだが、感慨深いといった雰囲気ではない。


「男の子か、女の子かわからないと名前はつけにくいな。どっちだろ?」


「洞を覗いてみればわかるじゃろう。ほれ」


「あっ、おちんちんがないから女の子だ!」


 あぁぁ、妹よ。女の子がおちんちんとか言うもんじゃありません! なぜか、お兄ちゃんの方が恥ずかしいよ。


「女の子かぁ、うん。お昼までに決めるね」


「うむ、そうするが良かろう。次はアキラちゃんだが」


「曽婆ちゃん、元気な木なら何でもいいの?」


「この大地は精霊によって活性化しておるからな。特に選ぶ必要もないと言えば、ない」


「なら、ちょっと試したいんだ。シュケー、いくよ」


 僕はシュケーへとエルフ核を投げ渡した。樹木から生まれるのであれば、シュケーからでも問題はないはず。しかも、エルフとはいえ新たに生まれる子供なのだ。誰かに世話を押し付けるに限る!

 

「あるじー、これキレイ」


「うまい事、シュケーの横っ腹に嵌っちゃったか」


 エルフ核を受け取ろうと伸ばされたシュケーの手を掠めるように、シュケー本体を挟んで右側の幹にエルフ核は吸い込まれていった。そして今、その姿はもうない。


「コラッ、了!」


「ふふふふふ、ははははは。これは初の試みじゃな」


「婆さん、笑い事じゃねえ! そいつも了の創造した精霊の一体で、どうなるかわからねえんだぞ!」


「え? 今、なんて?」


「だから、その木の精霊もこの世界には本来は存在しない。姉貴譲りの権能でお前が創り出した精霊だと言ったんだ」


「えー! そうなの?」


 僕が独自に創り出した精霊はペレだけだと思っていた。シュケーは無花果の木の精霊で、確かに奇妙な姿をしてはいるけれど……。この子、元からこの世界に居たわけじゃないの?


「知らなかったのかよ……」


――オンギャー、オンギュァァァ


「赤ちゃん、シュケーの赤ちゃん! よーし、いいこいいこ」


「「あ!」」


 赤ん坊が産声をあげた途端、シュケーが幹の部分から取り出し、優しく抱き上げてしまった。しかし、淡く光るエネルギーの粒子は留まることなく赤ん坊へと流れ込み続けている。


「シュケー、赤ちゃんはこれからお昼に掛けて大きく育つらしい。任せても平気かな?」


「うん! ガイアのおじちゃんにも手伝ってもらうからへいき」


『主殿は名を考える必要があろうからな。仕方あるまい』


「強かに育ったな、了」


「秀次叔父さんに言われたかないよ!」


 霞や夜霧たちを煽り、ペトラさんを僕に擦り付けようとする秀次叔父さんには、そんな風に言われる覚えはないのだ。僕はそのままシュケー元へ、赤ん坊の性別を確認しに向かう。


「女の子だね。さて、名前はどうしようかな?」


 秀次叔父さんはドイツ語の1,2,3なんだよな。僕もそれに習って、一子? ないわー、霞のヨーローイーちゃんより酷い。霞はどうするのだろう? 少し心配だ。


「まぁ、無事生まれはしたが、ちゃんと育つのか?」


「さあ? アキラちゃんに任せるしかないでしょうね」


「シュケー、大地からガッツリ栄養を吸い上げるんだぞ。ここはよく肥えた大地らしいからさ」


『ふむ。それならば吾輩も多少なりとも取り込んでおくとしようぞ』


「成体になるまでの時間は休憩にする。お前たちは、それまでに名前を考えておくように。エルフの名付けが可能なのは神の系譜のみで、名無しでは向こうの大地のエルフと同様に自我の薄いエルフにしかならねえからな」


 あぁ、そういうことなんだ。納得した。権能を剥奪されたエルサリオーネが生み出したとされるエルフ。彼らにはもう名付けを行える者が存在しないからこそ、どうにもならないし、どうにも出来ないということなのだろう。

 はぁ、本当に婆ちゃんは碌なことしないよな……。

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