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175.ヴュルワーデ-5

 秀次叔父さんの陰に速攻で隠れる。霞がそこまで病んでいるとは、思いもよらなったからだ。


「おい、了。俺を防壁にするな」


「だって……」


「お前の言いたいことは十二分に理解できるが、それとこれとは別だ。見ろ? お前のストーカーが俺を睨んでいるじゃねえか!」


 霞は僕を庇うように立つ秀次叔父さんを煩わしそうに睨んでいる。が、それに対して僕が消極的になる必要はない。身の危険が迫っているのだから。


「ふむ。旦那様が親類縁者と語るため、儂らは遠慮しておったがそうも言ってられん自体じゃの」


『妾らも参戦するべきじゃ』


「幾らカスミ様でも限度がありますね。ご主人様と番になり得る存在は私なのです」


「何を言うておる? 儂に決まっておろう?」


『何を言うか! 妾に決まっておろうに』


『大変だな、主よ』


 笑い事じゃないんだよ、ジルヴェスト。早急にこの問題を排除しないと、僕の身に重大な何かが生じるんだからね。


「お兄ちゃんは誰にも渡さないよ? それこそ夜霧ちゃんたちが出てくる前から、ずっと私のものなんだから!」


「これ、カスミや。お主とアキラは血の繋がった兄妹であろう? 人の営みの上で兄妹で子を成すなど、稀にあることではあるがな。曽爺としては勧めれるものではないし、お主たちの所属する国家でも許されざることではないかな?」


「でも、お兄ちゃんは神様になるんでしょ? なら、関係ないじゃん」


「先にも言った通り、俺にも了にも、そして霞にも確固たる肉体が存在することを忘れてはいまい。仮に了が亜神化しても、それは変わらない事実なんだ。諦めろ」


「むぅ」


 ムーじゃない! 僕の気持ちはどうなるんだ、と問いただしたいけど、今は場の空気が非常に悪すぎた。夜霧とオンディーヌ、ルーまでもが僕との関係改新を望んでいる以上、変なことは言えない。

 僕としては今までと同じ関係でいたいと思うのだけど、それは僕の我儘なのだろうか? 僕は秀次叔父さんの陰に隠れながら、事態の収束を願うしかない。


「……わかったけど、夜霧ちゃんたちにだってお兄ちゃんは譲れないよ?」


「妹御よ。それは余りにも横暴ではあるまいかの?」


「そうです!」


『そうなのじゃ! 選ぶのは主様なのじゃ』


 意固地な霞を選ぶことは万に一つも無いけれど、夜霧たちをお嫁さんに選ぶこともないよ? 僕は日本でいずれは誰かと結婚するだろうけどさ。

 今は何を言っても、火に油を注ぐことに変わりはないわけで。押し黙ることしか出来ないのだ。


「既成事実という言葉があるの! お兄ちゃんを私が押し倒せば済む話なの」


「そんな言葉、どこで学んだの? それにそんなことは起こり得ないからね!」


 あっ! 余りにも酷い霞の言い草に反応を余儀なくされてしまった……。しまった、と思うがもう遅い。


「残念じゃったの?」


「ご主人様がカスミ様とそのような行為に及ぶことはありません。それは私が……」


『何を言うか! そのような矮小な躯では物理的に不可能じゃ』


「何を!?」


「そうじゃの。そういうわけで、儂が最有力候補じゃからの」


『口惜しいが、妾は二番手じゃ』


「「ぐぬぬぬぬ」」


 霞とルーは夜霧とオンディーヌに言い負かされてしまったようだ。だが、まだ安心は出来そうにない。夜霧とオンディーヌが秀次叔父さんにのそりのそりと近づいてきているのだ。


「落ち着け。そしてよく聞け! 了は確固たる肉体を持っている。その肉体は、精霊と交われるようなものではない。あくまでも地球人とのみ、交配が可能な肉体でしかないんだ」


「フフフ、聞いた? 聞いたよね? だから、お兄ちゃんは私のものなの!」


「霞、日本の法では血の繋がりのある兄妹は結婚は出来ない。諦めろ」


 秀次叔父さんお陰で? 元を正せば、秀次叔父さんの失言が原因な気もするけど。一応の落ち着きは得られた。夜霧たちも先ほどまでの喧騒が嘘のように、大人しくしている。


「曽爺様! 仮に手遅れだとして、どうしたらギリギリでも人間でいられますか?」


「ふむ。手遅れと言ったのは、何をしても最早どうにもならぬ。という意味なのだが」


「え? 冗談でしょう?」


「お主はどのような経路を辿ったのか不明だが、守護者としての権能をエルサよりも強力に宿しておる。精霊創造など、エリナが持っていた権能までも宿してな。ゆえに、お主はこのヴュルワーデ自体に既に組み込まれつつある。そのような意味でも手遅れなのじゃよ」


 ちょっと、婆ちゃんも母さんも自分の権能を何だと思ってんの! 僕、そんなの別に望んでないのに……。あっ、婆ちゃんのは剥奪されてたんだっけ?


「まぁ、そういうこった。精霊を常時侍れせていた弊害だろう。今更、どうこうなることもない、諦めて俺と同様の存在になれ」


 如何にも嬉しそうに秀次叔父さんは言う。そんなに自分と同じ立場に、ぼくをしたいのか! したいんだろうな~。


「お兄ちゃんはいつまでも、何があっても、どんなになろうと私のお兄ちゃんだよ?」


「お前、さっきまでの台詞全部なかったことにするつもりか? 僕はもう霞すら信じられないよ」

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