174.ヴュルワーデ-4
「はぁ、ノーラにも参ったものだ」
「結局、ジジイに明け渡されたのかよ?」
「まぁな」
ドライさん特製の夕食を済ませたタイミングで曽爺さんが登場した。
曽爺さんの姿は、顔と上半身が少し男らしくなっただけで曽婆さんとあまり変わりはなかった。
「で? 霞の権能について何か見当はついたのか?」
「実際に観てみんとなんともな。ただ、お主の話を聞く限りでは門が特別なのだろうよ」
「門とか道とか、よくわからないの」
「あ~、そこからか……。ジジイ、説明しろ」
「ふむ。まず道というのは望みのモノを引っ張てくる経路のことだ。そして門とは、その道の終端を指す」
モーから聞いたゴブリンたちの話を思い出した。あの時、海岸に居たはずの霞は戦時下にあったというゴブリンの集落へと、その道を繋いだのだという話。その後、彼らは霞の開いた門を通り抜けることで、海岸に姿を現したのだという。
そして門を通り抜ける際には、カッツベルの判断に従って行動している。その時点で霞を女王と崇拝しているのであれば、カッツベルの判断云々に関わらず自ずと行動したはずなのだ。よって曽爺さんの予想通りに、門に何かしらの効果があると考えられる。
「この話って私だけじゃなくてペトラちゃんにも関係あるんでしょ?」
「霞、お前……。天然はフリなのか? そうなのか? そうなんだろ?」
「秀次叔父さん、僕もその意見には賛同したいけど、今は話が進まないから」
「これは我が話すべき内容だろう。
ヴュルワーデが楽園を目指して構築された世界であることは察していよう?
我とノーラが求め、定義する楽園とはただ単に平和な世界ではない。平穏のみの世界など、いずれ腐敗し朽ちるのみ。ゆえに、常に脅威を用意することに決めたのだ」
「その脅威とは上位世界にある魔獣の巣に繋がる道と門。外敵を用意することで、進化を促そうとした。まぁ、裏目に出たがそれはちょいと脇に寄せるとして、だ。
ペトレーベルはあの場所に道が繋がっている事実を偶然にも知ったらしい。そして門の開け方を試行錯誤し、結果はお前たちも目撃した通りに実現した。
だが、それは俺や爺婆にとっては想定外の事象なんだ」
「あの道は我がイレギュラーとして排除した。脅威となるべき魔獣を呼ぶ道がよもや養殖場にされていようとは……思わなんだよ」
うーん、微妙なところだ。僕と霞も一枚噛んでいることだけに、どのような返答をすればよいものか迷ってしまう。それでも僕たちがあの集落にお邪魔した時点で既に事は為されていたのだし、助言はしたけど怒られることはないと思いたい。
「今代の王は自由すぎた。良い面も、悪い面も」
「魔王様のこと?」
「初代の王は俺の生み出したエルフが担っていたんだが、アイツ寿命があるかどうかすら怪しくてな……。二代目からは魔人を王に据えることに決めたんだ」
「その言い方だと、初代の王様ってまだ生きているんですか?」
「アインは元老に籍を置いているぞ? そもそも、あの国は姉貴が作ったもんで運営には俺が手を入れている。そういえば、冒険者ギルドの連中がアキラを王にしたいとか言ってたが……却下しといたぞ」
大門さんやティエリさんは商売に忙しそうだから、そんなことをまだ主張しているのはクリスさんだろうか? 僕は以前から嫌だと断っていたはずなんだけど。今回の秀次叔父さんの訪問で完全に沈黙してもらいたいところだ。
「あの、秀次叔父さん。母さんがどうとか聞こえたんですけど?」
「ん? うん。だから、あの国を作ったのは小西 絵里奈で、冒険者ギルドを作ったのは小西 達也だ。姉貴は行動力の塊だから以外でもなんでもねえが、兄貴はあんな筋肉ダルマで頭まで筋肉で出来ていそうなのに趣味が読書だろ?」
確かに父さんの部屋には壁に沿うように本棚がぎっしりと並び、そこにはたくさんの蔵書がある。ファンタジー小説が大量に並んでいて、鍵付きの本棚にはエッチな小説もあったのを覚えている。
そんな父が冒険者ギルドを作ったと言われても、なにもおかしいとは思えない。
「おじさん、お父さんを脳筋って言っちゃダメだよ~。お父さん、泣いちゃうよ?」
「なら、黙っていてくれ」
「だが、エリナの行動力のお陰でヒデツグも目標が出来たわけじゃからな。似たもの姉弟と言うべきか」
「ちなみに、お前らが当てにしていた過去の精霊遣いは姉貴のことだぞ?」
「へ?」
「考えてもみろ? 精霊は舞台装置で世界の根幹だ。そんなもんを人間がどうこうできると思うか?」
「あ、そっか。だから、お母さんなんだ。お兄ちゃんと同じだね」
「アキラ、その件についてなんだが……。お主、もはや手遅れかもしれぬ」
「えっと、どういう意味ですか? 曽お爺様」
「お主は少し権能を乱用しすぎておるからな。その肉体がこちら側に引っ張られておるようだ」
何、なんなの? 一体、何が言いたいの?
「俺が生まれつき半神という話はしたっけか? 了、お前も俺に近い存在に変わりつつあるってこった」
「え? いや、でも、夜霧たちは僕が秀次叔父さんみたいに神気がどうとか言いませんよ?」
「ギリギリ人間ではあるからな。もうちょいで亜神に届くだろうか、そうなれば神気も纏うようになる。俺の仲間入りだ」
「お兄ちゃん、神様になるの? そしたら私、お兄ちゃんのお嫁さんになる!」
「「はあ?」」
僕が神様になるっていう話も寝耳に水だけど、霞の発言が最もいただけない。僕は霞に対して、そんな感情を抱いたことは一切ないからだ。最近になって毒持ちになったけど、ただ単に可愛いかどうか微妙な妹でしかないのだ。
「ブラコン、ここに極まれりだ。大変だな、了」




