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173.ヴュルワーデ-3

「アキラちゃんにカスミちゃん、この中から好きなものを選びなさい」


「うわぁ、綺麗!」


 曽婆さんが選べというのは、大玉のビー玉に似た球体だった。霞が綺麗と形容するように、それは幾つもの球体を同心円状に積み重ねたように見える。その中心となる部分には宝石なのだろうか? 個々での違いはあるものの、美しい何かが埋め込まれている。


「じゃあ、私、これ。青いの!」


「えーと、じゃあ、僕はこの黄色いの」


「これが何なのかというはな――」


 突然、曽婆さんの姿が視覚的にブレる。その横に男性と思われる姿がブレつつも浮かび上がったのだ。


「はぁぁぁぁ。もうこんな時間か、こうなると爺婆はもうダメだ。休憩だ、休憩」


「おじさん、曽お婆ちゃんが……」


「ちょっとレオ、まだ私の時間よ?」


「何を言うか、もう日が暮れる。夜はこの子たちを寝かせる必要もあり、俺が話をする時間は限られるのだぞ!」


 あぁ、うん、意味が分かった。窓から差し込む光の加減を観れば、今は夕暮れ時。

 曽婆さんと曽爺さんがお互いに体を操れる時間帯なのだろう。だから、曽爺さんが現れたことで曽婆さんは完全に体を支配できなくなった、と。


「こいつら、俺が所用でやって来ても毎回こうなんだ。諦めろ。

 それに夕飯を摂るならば丁度いいし、よ」


「うん、なんだか忙しそうだしね。お兄ちゃん、ご飯にしよ?」


「食料はこっちにもそう多くはないが備蓄はある。ドライ、すまないがこいつらの食事の支度を頼む。人化している精霊の分もとなると、足りるか?」


「まぁ、何とかなるでしょう。不足するようであれば、クロン殿に催促しますよ」


 一応、僕も食料は持参しているのだけど、ここは秀次叔父さんに任せ、ご馳走してもらうことにする。相も変わらず曽爺婆さんの言い争いが聞こえる最中、僕たちはホールを出ていく。向かう先は秀次叔父さん曰く、食堂だ。

 食堂には大きな長テーブルが鎮座しており、僕と霞に精霊たちが並んでも十分な広さが確保できた。ここで、ドライさんが調理してくれるという晩御飯の出来上がりを待つ。


「おじさん、このビー玉みたいのは何なの? 曽お婆ちゃんの説明が途切れてわかんないよ」


「それはエルフの種だ。エルフ核ともいうが、な。

 俺が3人のエルフを任意で生み出したという話はしたろ?」


「種? 核? ちょっと、どういう意味ですか?」


 僕も霞も、果ては精霊たちですら首を捻ることになった。

 言葉通りに受け取るなら、この種を地面に植えることでエルフが生えてくる? いやいやいや、少なくとも人の形をしたものが地面から生えてくるなどホラーでしかない。


「どちらにしろ、詳しい説明は明日だ。もう暗くなり始めているから、外での説明も出来ん」


「えっと、お外が明るくないと出来ないの? へんなの」


「じゃあ、失くさないように大事に持っておきます」


 詳しい説明は明日といういことで、この件については置いておくしかない。

 

「それで秀次叔父さん、依り代と言う話の続きをお願いします。婆ちゃんが何かしら関係しているとは推察できるのですが、いまいち理解に欠けるというか……」


「普通、依り代という言葉で理解できると思うんだが、な。ま、要するにエルフの体をエルサリオーネが乗っ取ることで、今の小西 絵里香という人間に限りなく近い何かになったということだ」


「そういえば、お婆ちゃんの耳って少し尖ってるよね?」


「どうだろう? 婆ちゃんの耳は髪の毛に隠れていることが多いからな」


「クソババアの話をすると思い出して腹が立ってくるから嫌なんだが仕方がないな。この件は本には記載されていない事柄だし、俺か爺婆から聞かせる必要がある。

 エルサリオーネはエルフを依り代とする際に願った。その肉体の構成を地球人に近づけるように、と。本来、神の依り代であるエルフという種は特別でな、どんな種族とも交配でき、子が為せる。

 だが、エルサリオーネは多くを望んだ。それは姿形だけではなく、親父と共にあるために、共に死を分かち合うために、エルフの体に完全に同調することでその寿命をも弄った。だから、小西 絵里香の体には少しだけエルフに近い部分も残ってはいるが限りなく地球人に近い。それでいて全てを叶えることは出来ず、ほんの少しだけ異なる存在となった。

 但し、事後にその願いを知った爺婆を含む多くの神々の怒りを買うことになる。そうしてエルサリオーネは、新たに一つの役割を与えられたのち、女神としてそれまで持ちえた全ての権能を剥奪されることになる」


 婆ちゃんは爺ちゃんのお嫁さんになるために全てを捨てた。そういうことだろう。

 その寿命までも縮めて、爺ちゃんに嫁いだことが良いことなのか、悪いことなのか、僕には判断できない。だけど、秀次叔父さんとしては憤りの対象になっていることは間違いない。その憤りが何に対してなのか、僕にはまだはっきりとはわからないし、直接それを聞き出すこともまた難しいだろうな。


「役割?」


「ふぅ……。新たに与えられた役割は、エルサリオーネ自らに連なる者の権能の覚醒と管理。その血を分けた子孫の管理ということだ。故に俺以外の、姉貴やお前たちは一定の年齢になるとこちらに放り込まれ、試練を強いられることとなった」


「じゃあ結局、私たちはこの世界に一度は来なくてはならなかったの?」


「そういうこと。ただ、事前に放り込むと伝えておくべきだと俺は思う。実際にお前らも混乱しただろ? それに帰り道を探すという、無駄な労力を強いたわけだしな」


 秀次叔父さんが僕たちの心配をしてくれているという気持ちはとても嬉しい。嬉しいのだが、事前にこのことを聞かされたとして、僕たちはそれを信じたとは思えない。何をバカな話をしているのだと、きっと一笑に付したことだろう。

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