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171.ヴュルワーデ-1

「何から話すべきかしらね? それとも何か訊きたいことはある?」


 不思議な存在の曽爺さんと曽婆さん。今は曽婆さんの担当する時間帯らしい。

 秀次叔父さんにもわからないことはこの曽爺さん婆さんに訊ねるしかない。実際にそのために連れて来られたはずなのに、お二人は単に僕と霞に会いたかっただけだと言う。

 僕たちが曾孫であることを考えれば、会いたいと思うこと自体自然ではあるのだろう。しかし、なんといえば良いものか、僕にはその実感はない。

 それでもこの機会は逃せないので、質問をすることにする。


「僕たちは帰れるのですか? そしてその方法は?」


「何もしなくても時間が来れば勝手に地球へ戻るわよ」


「クソババアもお前たちの晩飯を作っていると言ってただろ?」


 曽婆さんと秀次叔父さんが答えた。秀次叔父さん、知っているなら最初から教えてくれればいいものを!


「ここと地球側の世界では時間軸が異なるの。何か時を示すものを持っているかしら?」


「霞のスマホがあります。僕のは電池切れで」


 霞はポーチに入れているスマホとをりだすと、軽くタッチしてロック画面の時計を見た。


「これ、壊れているのかと思ってた」


「お前たちが放り込まれたのは……確か14:30くらいだろう?」


「今は15:24だよ?」


「まだ1時間しか経ってない?」


「それが答えね。ここの時間は地球側よりも早いの。

 それでも、あなたたちの体の年齢は地球側の理に縛られている。しかし、生活のリズムはここの理が優先されてお腹は空くし、眠たくもなるの」


 僕の感覚としては特別何か変だとは気付きもしなかった。ただ、以前に霞が時計が進まないとか言っていたようなことを思い出した。


「だから、向こうの晩御飯の時間には帰れるってことですか。でも、1年は経っていないにしても、それくらいの時間はこちらで暮らしていると思うのですが……。1時間相当でこれだと、晩御飯が18時としてもまだ2時間半もあるわけで」


「安心しろ。もう帰り道を探す必要はなくなったんだ。余った時間は俺の手伝いをしてもらうつもりでいる」


「やったー! お米のご飯食べ放題だよ、お兄ちゃん」


 霞、そういう問題ではないと僕は思うんだが……。だからといって、何ができるというものでもなく、秀次叔父さんに従うしかないのだろうな。


「じゃ、それは解決ね。カスミちゃんは何かある?」


「私のスキルってどうなってるのかな? 権能だっけ?」


「カスミちゃんの権能ね。それは恐らくレオに近いのだと思うわ。それに、アキラちゃんの権能もちょっと不思議なのよね」


「ちなみに俺のは婆さんに近いんだぞ」


 霞の質問のはずが何故僕の話にまで発展するのか? いや、知っておいて損はないか。

 秀次叔父さんは霞のスキルを先祖返りだとか隔世遺伝だとか言っていたはずだ。僕の場合も元はお婆ちゃんのものなのだから隔世遺伝でも良いはずなのに、実際はそうでもないらしい。よくわからないということしか、わからない。


「カスミちゃんの権能は道か門のどちらか、またはその両方が特別製なのかもしれないわね」


「この世界を最初に形作ったのは爺さんだからな。それを踏まえれば、霞の権能もある程度は理解が及ぶだろうよ」


「それを説明するにはこの世界の生い立ちに触れないとダメね。……これを観なさい」


 曽婆ちゃんが二本の腕で合掌し、その掌を離す。すると、家にある地球儀のような大きさの黒い球が掌の間に現れた。


「レオがやったことを順を追って説明するわ。

 この黒いものは虚無を現しているの。それは何もないからこその虚無。

 ここにレオは光の大精霊を投じた。その光でも虚無を払うこと出来ないけれど、ある程度の広さを見通すことができるようになったわ。

 光で照らされたことで、そこには相対するように闇が発生した。その闇は虚無を包み込み、あの子になった。闇の大精霊の誕生よ」


 『あの子になった』と曽婆ちゃんが指し示したのは夜霧だ。

 確かに時の精霊クロンも夜霧のことを虚無を内包する闇の大精霊と言っていたっけ。

 黒かった玉が透明になり見通せるようになった。玉の中には光の大精霊と思われる光の玉と夜霧だと思われる黒い点が見える。


「闇の大精霊が虚無を包み隠したお陰で、そこには世界を構築するために必要な空間が発生したの。

 そこに最初に置いたのは深い森。闇の大精霊に敬意を表して、あの子が住むことのできる森を進呈した。その場所はもう知っているわね?」


 エルフたちと出会った大陸中央を横断するように存在する森のことだ。そして、その森の最も深く暗い場所で夜霧は暮らしていたと聞いている。

 それはルーを呼び出したあの暗く闇しか存在しない森のことだろう。

 ぽつんと曽婆さんの手元にある玉の中に森が設置され、夜霧を示していた点は森の中へと消えた。


「小さな大地と森を置いたあと、光の大精霊はその身を二つに分けた。

 ひとつは月に、残るひとつには炎の大精霊を加えて太陽としたの」


 玉の中心にして対角に位置するように、月と太陽が配置される。


「次はここ、エルサが住むための場所を。空となる部分に緑豊かな大地を浮かべ、宮殿を建てた。

 最後に森以外の場所に海を敷き詰めた。それでレオのやったことは終わり」


 海を領域全体に配置したことで、夜霧の住む森と空に浮かぶ大地以外に何もない寂しい世界が完成した。


「では、今現在この下にある大地や夜霧が住む森のある大地の広さは誰が?」


 訊くまでもなかったかもしれない。でも、訊いておきたかった。


「下の大地を配置したのはエルサ、あの子の森の大地を広げたのはヒデツグよ」


「アイツには悪いと思ったが、あそこしか選べる場所がなかったんだ」


 僕はてっきり両方ともエルサリオーネ、婆ちゃんが行ったことかと考えていたけれど、それは間違いだったようだ。

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