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168.アイザック村、再び

 あの集落の名は何と言っただろう?

 確か、アイザック村……そう、そんな名前だったはず。


「お兄ちゃん、おじさんが……」


 霞はアイザック村の位置を夜霧に確認して特定した。移動中に目に留まったから立ち寄っただけの村であったはず。

 冒険者ギルドと商業ギルドの出張所にはヘンデルさんが居て、ペトラさんが村長のように君臨している町だったと思う。


「秀次叔父さん、ペトラさんを連行するんだ……」


「どうするんだろうね?」


「さあ、どうだろう?」


 僕としては何が秀次叔父さんの琴線に触れたのかが、理解できていない。それでも霞のスキルの話をしていた手前、道とか門とかいう単語が絡んでいるに違いない。

 まず道という単語の意味は不明だが、門という単語に関してはある程度見当はついた。


「秀次叔父さんは霞の『魔物の女王様』スキルに関して、道や門という単語を使ったんだ。憶測でしかないけれど、門を開けるとか、そういった関連の話だと思うんだ」


「私のスキルに関することなの?」


「少なくとも、この場所で霞は茜とマリンを呼んでいるのだし、何かしらの関係があると思ってもおかしくはないだろう?」


「うーん、そうなのかなあ」


 茜とマリン、それに日は違うけどモーも全裸で現れた者たち。それと最終的にはラヴリュスが出てきて、問題が提起された鎧たち。ゴブリンたちに関しては、もう問題しかない。主に霞のスキルに対しての疑念だが……。

 この本の冒頭にある地図で見守っている限り、秀次叔父さんはペトラさんをどこかに連れて行くようだった。


「霞の女王様スキルの話をした際、ペトラさんの話題が出ると秀次叔父さんは即座に反応したからな」


「おじさんと何か関係があるのかな?」


「どうだろう? あのクソガキとか言ってたから、以前から知り合いなのかも」


 ペトラさんは姿こそ幼女ではあるけれど、夜霧曰くヴァンパイアであるとすれば、その寿命は恐ろしく長いのだと思われる。秀次叔父さんも元女神である婆ちゃんの息子であると考えれば、何かしらの関係があったとしてもおかしくはなかった。


「あれがリリンちゃんかな?」


「白いドラゴンか、夜霧が前に言っていた通りだね」


 ペトラさんを夜霧の妹さんであるリリンさんの背に乗せている。

 リリンさんは真っ白く綺麗なドラゴンだった。それはもう漆黒そのものである夜霧と相対するかのように純白である。


「飛ぶよ? おじさん、もう魔王都には行ったのかな?」


「どうだろ? 先に誰かに会うとか言ってなかったっけ?」


「ふむ、我の解説なしにここまで使いこなすとは。やはりヒデツグと同様に、エルサに連なる者であるな」


 僕と霞の会話に、突然加わってきたのは時の精霊クロンだった。あまりに突然のこともあり、僕も霞も驚きを隠せない。


「先ほど、ヒデツグより連絡をもらった。血吸いの小娘を連れ、時期に戻ってくるであろうよ。

 お主たちには、何やらヒデツグが用意しておった物が多々あるでな。その受け渡しを頼みたい」


「物ですか?」


「うむ、我もよくは知らぬ。この世界には存在せぬ食物や衣服など、ヒデツグが持ち込んで居るでな。お主らに与えた部屋の対面に、大量に保存しておる。

 何かと場所をとるので、早めに回収してもらいたいところであるな」


 時の精霊クロンに促され、僕たちの寝泊まりする部屋と対角にある部屋へと赴いた。そこは台所のような設備が整った部屋なのに、大きな木箱が幾つも並んでいるという異様な光景が広がっていた。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、大変! お米があるの。

 っていうか、冷蔵庫の中には納豆も入ってる!」


「お米! 納豆!」


「お兄ちゃん、ヨダレ、ヨダレ!」


 夢にまで見た、お米が……。どうしても食べたいからと、シュケーに頼ってまで探し、それでもこの世界では存在を確認できなかった代物が……。しかも、納豆まであるなんて! 納豆は特に好きというわけではないけれど、たまに無性に食べたくなるのだ。それがセットで、ここにあるなんて!


「あれ? 冷蔵庫はなんで動いてるの?」


「お兄ちゃん、そんなこと気にしちゃダメだよ。絶対におじさんが何かしているんだから」


「ああ、そうだな。考えたら、負けだ。

 霞! 炊飯器を探して、早くご飯を炊くんだ。お兄ちゃんは納豆を希望する」


「大丈夫、納豆はちゃんと3パックあるから」


 秀次叔父さん、お米をありがとう。

 いや、ちがう、納豆もありがとう。


「この木箱、霞の下着だと思う」


「あっ、ブラジャーだ! でも、サイズが合わないよ?」


「そんなこと僕に言われても困るし、叔父さんも困ったんじゃないかな? 大は小を兼ねるっていうから」


 霞は木箱に入っていたブラジャーを手に取っているけど、あからさまにサイズがあっていない。木箱に入っているもののサイズが大きすぎるのだ。

 霞はまだ成長期の最初の方なのだろうし、今後に期待するべし。


「お兄ちゃん、炊飯器は家と同じやつがあったんだけど……。コンセントも、一応みつけた」


「ん、何か問題があるか?」


「ないんだけど、あるのかな? コンセント……」


 霞が指さす先には、コンセントが普通に壁に設置されていた。

 ペレみたいな存在がここに存在する? そうは考えられなかった。


「地下にドワーフが居るとか言ってたろ? 発電機でも置いてあるんじゃないのかな?」


「あぁ、そっか。発電機で良いんだよね」


 霞のその疑問に対し、僕は確かな答えを持ってはいない。だけど、久方ぶりに味わえるご飯には変えられなかった。

 秀次叔父さんのことだからと発電機があってもおかしくはなく、ドワーフも精霊の言葉を借りれば、確かに地下に存在するという話だもの。

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