167.状況を整理しよう
「お兄ちゃん、ちょっとタンマ」
「どうしたの? 霞」
「お婆ちゃんのことやおじさんの話で頭の中、もうぐちゃぐちゃなの」
霞の言うことは尤もだった。
突然に現れては颯爽と姿を消した祖母然り、荒唐無稽な話を理路整然と語る秀次叔父さん然り。朝から一気に色々なことを詰め込みすぎである。
「秀次叔父さんはこの本を読んでおけと言ったけど、それはちょっと置いておくとして、だ。ひとつずつ、整理してみよう」
「まずはお婆ちゃんのことだよね」
「婆ちゃんは女神エルサリオーネで、今は元女神という話だったよね。
爺ちゃんの家に嫁に来た婆ちゃんは小西 絵里香と名乗っていて『エ』しか、合ってない……。きっと、絵里香は偽名なのだろうね」
「で、そのお婆ちゃんが私たちをこちらの世界へと放り込んだ犯人」
そう、犯人はわかったのだけど、その理由が理解できていない。何らかの理由があるからこそ、僕たちはここに放り込まれたはずなのだ。
婆ちゃんはさっさと消え去ってしまったし、秀次叔父さんも慌ただしく出て行ってしまったので、その理由については未だはっきりとしていない。
「問題はそれだけじゃない。婆ちゃんが女神だとすると秀次叔父さんは女神の息子で、僕たちは孫ということになるよね?」
「うん。お兄ちゃんはお婆ちゃんの持ってたスキルを継いでて、私のはよくわからないみたい」
「霞のスキルについては秀次叔父さんが戻ってこないと、さっぱりわからないから後回しだ。
話を戻すと、エルサリオーネのための教科書であるという世界で、僕たちも何か学ばなければならないのかもしれない」
「おじさんみたいに?」
「それはわからないけど、この本を読めばある程度は把握できるんじゃないかな?」
結局、この本を読まないと先には進めないのだ。秀次叔父さんによって教わったこの世界の話を踏まえた上で、この本を……そういえば表紙をみていないな。
「何してるの?」
「いやあ、この本の題名をね。確認しようかと……。『楽園へと至る道 ヴュルワーデ』だってさ」
「楽園?」
「うん。楽園へと至る道、ね」
秀次叔父さんはこの本がこの世界そのものだと言い、女神に与えられた教科書だとも言った。その本の題名は『楽園へと至る道 ヴュルワーデ』、この世界を楽園へと導くための教科書なのか? それとも元々ここは楽園なのか? ヴュルワーデというのは恐らく世界の名前だろうか。
「お兄ちゃん、全然整理できてないよ?」
「確かに……。この本の冒頭にある地図は、この世界の縮図。
秀次叔父さんは、飛び出す絵本にシミュレーションゲームの要素がプラスされていると言ったよね?」
「うん、覚えてる」
「だから、たぶん、こうすることが……出来た」
スマホの拡大や縮小の操作を試してみた。シミュレーションゲームの要素という部分は島を置くという事象で説明してもらったけど、飛び出す絵本の要素はまだ教えてもらっていなかったのだ。
この本のサイズは普通にA4で、見開きだとA3サイズ。少しずつ、少しずつ拡大していくと、山肌や草原といった場所の景色が事細かく映し出された。
「すごい。これでニールの町とか、魔王都とか見てみようよ」
「そうだね、試してみよう」
縮尺を少し戻して、ニールのある位置を中心にくるように据える。それから拡大をしていった。
「あっ! リグのおじちゃんだ」
「上からしか見えないってこともないだろうから、こうすると……」
「正面からも見えるんだね。お兄ちゃん、凄い」
拡大した地図の表面を撫でるように角度を変えた。もう、スマホのMAP操作とここまで酷似しているのなら、扱いには問題はなかった。
「霞もやってみな」
「うん、ミュニレシアも見てみよう? 心配だったんだよね」
「ああ、うん。すっかり忘れていたけど、ルーはちゃんと挨拶に行ったんだよな?」
「疑っているのですか? 私はちゃんとお詫びに伺いましたよ。
皆さん口々に気にしなくて良いと仰られました、から!」
「それで駄賃代わりに何か食べてて帰りが遅くなったと?」
「それは……その……なんと申しましょうか……」
冗談で言った台詞にルーは目を逸らしながら答えた。別に怒っている訳ではないのだけどな。
ルーと話している間に、霞はミュニレシアの場所を特定していた。
「お兄ちゃん、宿がもう完成してるの!」
「本当だ。綺麗に出来上がっているね」
僕が破壊したアーミラさんの宿の再建は頗る順調に進んだのか、霞の見せる地図では既に完成していた。
「これ、建物の中も入れたりしちゃうみたい」
「それは……お風呂とかトイレとか入っちゃダメだぞ」
「当たり前じゃん、お兄ちゃんのエッチ。普段ヘタレなのに、なんでこういう時だけ気付くかなぁ?」
「ヘタレとか言うなよ……。お兄ちゃんは悲しい」
その後も、知り合いの住んでいる町や都を観察した。最後にペトラさんの研究施設を見てみることに。




