166.読書のための基礎知識
「で、次は精霊についてか。精霊とは何だと思う?」
「あまりに漠然とし過ぎていませんか、その質問」
「神様のお友達?」
「霞の答えが近いようで、近くはねえか」
精霊たちは何かしらの属性を持っている。それは光であったり、風や水であったりと様々だ。
でも、それが何なのか? と問われても、何とは答えにくい。それは僕だけに限った話ではないはず。
「精霊ってのはあくまでも舞台装置で、この世界を秩序よく機能させるために必要な存在のことだ。
ただ、了の場合は守護者として覚醒しているから、その手足にもなりえる。逆に霞や姉貴は守護者の権能を僅かしか継承していないから、そこまで強力な加護はない」
「守護者って何ですか?」
「権能もわかんない。それよりお母さんも何かあるの?」
守護者という単語や権能という単語も謎だけど、秀次叔父さんが姉貴と呼ぶ母のことも気掛かりだ。
「順番に説明するぞ。守護者ってのはエルサリオーネが持っていた権能のことだ。脱走した罰としてほぼ全て剥奪されていたはずの権能が、どういうわけか了に継承されていた。
で、権能は地上ではスキルと呼ばせている」
「僕のスキルがお婆ちゃんから継承したものなら、霞のは?」
「霞は俺と同じで、先祖返りや隔世遺伝というヤツだ。俺も詳しくはないが、わかる奴を紹介するから、今のところはそれで納得してくれ。
で、姉貴か……」
秀次叔父さんはどうしようかと悩んでいるように見える。母のことについてなのだから、教えてくれてもいいと思うのだ。
「姉貴のことは、この本を読めばわかる。この本にはこの世界で起こった事柄全てが記されているからな。
ただ、今、俺が教えているのは、この本を読むための基礎知識でしかないんだ。それに俺が語ると、先入観を与えてしまう恐れがある。だから、それは自分らで調べてくれ」
「お母さんも放り込まれたの?」
「そのくらいはいいか。そうだ、そして迷惑にも当時一番の子分だった兄貴も一緒に、な」
父さん……。
「子分って?」
「姉貴は近所では有名なガキ大将だったんだよ。兄貴は家が隣ってこともあって、姉貴の小間使いとして扱われて……って、俺に聞いたっていうなよ?」
「お父さん、普段偉そうにしているのに……。お母さんの方が偉かったんだ」
霞はショックなようだが、僕も少し悲しくなった。
あの父さんが母さんの子分だったなんて……。
「まあ、そういうことで、こちらで何があったのかは本を読めばわかる。
基礎知識としては、こんなもんかな? あとは……」
「秀次叔父さん! 霞のスキル? 権能がヤバいんだけど。それに関しては?」
「クロンの考察だと道を繋げ、門を開けていることはわかっている。それ自体もかなり危険なんだが、それだけだろ?」
「道とか、門とかのことはわからないけど、そんなの問題じゃないんだ!
召喚した者たちを洗脳しているっぽいんだ」
「はぁ、なんだそりゃ? 詳しく教えろ!」
秀次叔父さんから教えてもらえる基礎知識はひと段落付いた。そこでゴブリン、ラヴリュスの召喚の件で表沙汰になった事実を訊いてみることにした。
道や門というのは召喚に関わる文言であるらしいけど、洗脳のような精神干渉に関しては秀次叔父さんも認識してはいなかった。
「一番最初に魔物の女王様を試したのは、ペトラさんていうヴァンパイアの人の研究所のような、魔獣の召喚と食肉の流通計画みたいなことをしている場所だったんだ」
「まて、ヴァンパイアのペトラと言ったか? それはもしかして、ペトレーベルのことか? どんな容姿だった?」
「この位の背の女の子だったけど」
「で、魔獣の召喚と食肉の流通だったか? あのクソガキ、また厄介なことに手を出しやって! ルスカめ、見逃しやがったな」
「ちょっ、秀次叔父さん?」
「クロン! ルスカに会う、ペトレーベルの身柄を押さえるぞ。
了たちが絡んでいる以上、改訂は無理だろうし」
「騒々しい、何があったのだ?」
「ペトレーベルのクソガキの情報を集めろ! 俺は元老と王を招集する。リリンは……」
僕が相談していた霞の『魔物の女王様』スキルについて、最初に登場するペトラさんの名を出したところで秀次叔父さんは過剰な反応を示した。
夜霧と話をしていた妹のリリンさんも呼び戻され、それに伴い他の精霊たちも戻ってきた。
「お兄ちゃん、おじさんと私のスキルのことで相談してたんじゃ?」
「いや、そのはずなんだけど。ペトラさんのやっていた魔獣の召喚がマズいらしい」
「美味しくないお肉だから?」
「そういう意味じゃないと思うけどね」
「ヒデツグ、事態は把握した。場所はここ、アインには連絡しておこう」
「悪ぃな、クロン。了と霞はその本を読んでいろ。
リリン、話の途中で済まないが王都まで送ってくれ」
秀次叔父さんは慌ただしくも準備を整えると、リリンさんを急かして出て行く。
怒涛の展開に僕と霞はというと何がどう問題なのか、全くわからずに困惑するしかなかった。




