165.叔父と祖母
「クロン、用は済んだ。さっさと送り返せ」
「なによ、騙し討ちのような真似をするためだけに呼んだというの!
これじゃ私が悪者じゃないの!」
「何をほざいてやがる。悪者も何も諸悪の根源はてめぇだろうが!」
「クロン、このまま送り返すなんて酷いわ」
秀次叔父さんの対応はずっと辛辣なまま、祖母が悪態をついても一蹴してしまう。秀次叔父さんと祖母が顔を合わせると、毎回こうなるので僕と霞にとっては慣れたものだった。
「エルサよ、残りたいというなら今しばらくは考慮しても良い。
今日はあの方もお見えになる予定でな」
「なっ! ママが来るの? クロン、急いで! 私を送り返しなさい!
秀ちゃん、覚えてなさいよ」
しかし、時の精霊クロンが送り返されようとする祖母に一言告げると、事態は急変した。今まで散々、悪態をついていた祖母の様子がおかしくなる。
キョロキョロと周囲を見回し、怯えているかのよう。終いには急ぎ送り返すようにと催促する始末。
その姿や言動を確認すると、時の精霊クロンは祖母を送り返すことに。何やら少し集中した後、祖母の姿は霧のように消えていった。
「誰か来るって聞こえましたけど? ママって」
「あ? あぁ、誰も来ねえよ。クロンのハッタリだろ?」
「エルサは昔から、あの方に弱いからな。しつこいので少し脅したに過ぎぬ」
時の精霊クロンの言う、あの方が気になる。出し惜しみされると物凄く気になるんですけど!
「この世界の簡単な説明を終えたら会いに行くさ。お前たちとしても会っておいた方が良い。なにせ……まあ、あとでいいか」
「おじさん! そういう言い方はずるい、気になるもん」
僕の言いたいことは霞に代弁してもらえた。僕はひたすらに頷きを繰り返す。
「そう、言うなよ。第一にこの世界がどういうものかを理解していないと、会っても更に意味が分からなくなるだけだからな」
秀次叔父さんはそう言うと時の精霊クロンの佇む机の正面に行き、一冊の本を手にした。そして本の最初のページを開くと、僕たちに見えるように掲げる。
「俺も管理自体はクロンに任せているんだが、この本がこの世界そのものだ」
「はい?」
「おじさん、意味が分からないよ?」
「まあ、そうだろうよ。俺も最初は意味不明だったからな。
了と霞はこっちに来い、詳しく説明する。精霊共は退屈なら、外をうろつても構わねえぞ」
「儂は暫し、妹と話をしておるかの」
『吾輩はドワーフの住処を見て回りたい。往くぞ、シュケー殿』
『はーい』
「ああ、うん。みんな適当に過ごして良いよ」
『俺は残るぜ。他は勝手にしてな』
「私も残ります」
秀次叔父さんの説明は長くなると聞いてはいたため、暇になる精霊たちとラヴリュスはジルヴェストとルーをこの場に残し、周囲の探索に赴くという話になった。
「クロンは残りの精霊の相手を頼む。お前たちは本が見えるように座れ」
「では、我は光の欠片と風の相手をしよう。なんでも質問するが良い」
ルーとジルヴェストは時の精霊クロンと共に少し離れた場所に移動し、僕と霞は先ほどまでクロンが居た机の前に座る。
「さて、この地図でお前たちが最初に投入された場所はどこかわかるか?」
机の上の本には見開きで地図が描かれている。
右のページ全体と左のページの上部に掛けて大陸があり、左のページの下部には大陸と呼んでいいものか迷う大きさの島があった。
「僕が見た光景から想像するとこの島の、この辺りですかね」
「そうだ、よくわかったな」
僕はルーとの同調実験でこの世界がどのように出来ているのかを少しだけ垣間見ている。そのために西端と南端に何もなく、虚無が漂っていたのを思い出した。
「こんなにちっちゃかったんだね」
「もう少し大きくする予定ではあるが、今はこの程度だ」
「?」
「いざ説明するとなると難しいな。お前たちは飛び出す絵本は知っているか?」
「折り紙みたいになってって、本を開くと形になるやつでしょ?」
「そう、それだ。それにシミュレーションゲームの要素がプラスされていると考えれば、分かり易いかもな」
飛び出す絵本は僕でも知っている。ただ高価なので買ってはもらえなかったことを記憶していた。
そして、そこにシミュレーションゲームを足すのだというが、全く想像がつかない。
「うーん。やって見せるのが一番手っ取り早いんだが、ここが良いか……。
よーし注目! 今、お前らが居るのはこの島の上空だ。北には小島すらないのはわかるか?」
「島を覆う結界の近隣には確かに島は無かったような」
「ここにそれなりの大きさの島を置く。地図上では確認できるな?」
「あっ、島ができた! すごい」
「え、本当に?」
「今は地図上でしか確認できないが、あとで見てくればいい。
今、ここに置いた大地はあのクソババア、エルサリオーネ生誕の際に神々からの祝福として下賜されたもののストックで、草木や小動物付きの大地なんだ」
「……まさか! シミュレーションゲームって」
「ああ、そのまさかだ」
「じゃあ、おじさんが好きなように世界を形作れるの?」
「まあ、そういうことになるな」




