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160.枯れた大地のエルフ

 夜霧たちの見つけた集落らしきものの元へと、少しだけ足早に進んでいた。それはこの大地で初めて遭遇する者たちへの期待が僅かながらにもあったからだろう。

 そしてようやく到着した僕たちのその期待は、淡くも薄れていくことになる。

 

「あの? こんにちは」


「……」


「すみません、道をお訊ねしたいのですが?」


「……」


 ルーの発言の通りに、肌が青白く耳の長いエルフたちが集落を形成していた。

 だが、彼らは僕の言葉に一切反応を示そうとすらしなかった。


「時間の無駄じゃの。何ゆえかは知らぬが、瞳から意思が感じられぬ」


『生きてこそいるようだが、活きているとは言えねえな』


 とても不思議な光景が広がる。

 意志、自我というものを一切持たないかのように淡々と動き、そして去っていくエルフたち。その目には僕たちの存在すらも映ってはいないようだ。


「参ったな。何かヒントが得られるかと思ったんだが……」


「ちょっと気色悪かった。どこを見ているのかもわからないんだもん」


「我の眼には精神干渉を受けているようにも見えぬ。元よりこの状態なのではあるまいか、な」


 ラヴリュスの眼がどこに付いているかは置いておいても、その意見はどうだろうか。空の上にある大地、そこに住まう者が意識のあるのか無いのかすら不明なエルフだけとは考えにくい。

 結界を開き、迎え入れてくれたと思われる時の精霊。彼の存在は一体どこに在るのだろうか?


「ジルヴェスト。この大地、広いと言っても下の大陸に比べれば遥かに小さい。

 なんとか現在の位置関係を確認してくれ」


『俺たちが侵入した場所は西端のはずだ。ただそれは外からの眺めと、今の景色の違いのように何らかの影響を受けていなければ、の話だ』


「なんとも不可思議な環境にあるからの」


「ジルヴェストは探るだけでも探ってほしい。ルーがこの調子だからな」


 軽く撫でたり、とショックを与えれば元に戻るのだけど、ルーはすぐにまた考え事の方に意識を向けてしまう。きっと何か感じる部分があるのだろう。だから、少しでもそのままにしておいてやりたい。


『結界に覆われているのが問題だな。相対位置はなんとか……掴めそうではあるぜ』


「少しくらい間違っても気にはしないさ。今のところは、食料もあるからな」


「お兄ちゃん。ここは気味が悪いから、もう少し進もうよ」


「あのエルフたちが何かしてくるとは思えないが、確かに気分は良くないか」


『今は西から中央に向かい進んでいるのは間違いないぜ。ただこの速度だと、あと二日は掛かりそうだ。それと中央に何か反応があるが、正体はわからねえ』


 エルフの集落から少し距離を取り、昼食を挟んで再び移動を開始する。

 歩きだとしても一日ずっと歩くとうのはかなりの距離を稼げるはずで、この大地の大きさもそれなりなのだろう。外側から眺めていた時の想像よりも、大きいのではないだろうか。


「景色に変化があまりないからといって寝るなよ、霞」


「歩きながら寝れるわけないじゃん。バカなの? お兄ちゃん」


 人間、極限まで追い詰められれば何かできるかもしれず、霞なら寝ても歩けるような気がした。それだけなのだが、実際に霞は眠気を堪えるかのように瞬きを繰り返していた。


「草も木もない割に遠くが見通せぬの。どうだ、ルーよ」


 ルーはずっと何かを考えているようだが、夜霧の言葉に反応して僕はルーを軽く叩いた。


「……ご主人様?」


「ルー、何か考え事があるようだけどさ。中央部を見てほしいな」


「申し訳ございません。中央ですね、わかりました」


 夜霧も思うところがあるのだろう。ルーの姿を捉えながらも、口を挟むことはなかった。

 ルーは方向を迷うこともなく、その視線を光として伸ばして行く。

 たぶんだけど、ルーはここに何があるのかを知っているのではないだろうか。ただ、そんな気がした。


「神殿があります。ドワーフが数名、慌ただしく動き回っていますね」


「そう、ありがとう。やっぱり、中央に居るんだろうね。このまま進もう」


 一つ、違和感を覚えた。

 ジルヴェストは城か神殿かと、決して断定することはなかったのに対し、ルーは神殿だと確かに答えた。そこにドワーフという種族の者たちが動いていると、も。

 確実にルーは何かを知っている。僕たち、僕にか、話すべきか迷っている?

 猶予はそうない。ジルヴェストの予測は、睡眠や休憩を挟むことを考慮していると思われる日数で二日だ。

 その間にルーは、何かを僕に語ってくれるのだろうか?


「お兄ちゃん」


『主様、置いていくのじゃよ?』

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