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159.暗雲の先の大地

「ちぃぃぃ、厳重なことよの」


「ご主人様、ここから望める大地もまた結界に覆われています」


 暗雲を超えた先にあった土色の塊。その上空まで迂回して上昇した。

 だが、その大地もまた結界に覆われているという。


『さすがに婆さんのアレを地面に向けて撃つのはマズいぜ』


「先ほど全力を出したばかりで、撃とうにも撃てんがの」


「どのようにいたしましょう? 戻るにしても既に結界が再生し掛かっており、ヨギリでは通り抜けることは困難かと」


 状況はとても逼迫していた。戻るに戻れず、進に進めないのだ。



『――聞こえておるか?』


『聞こえておるな、小僧? 久しいな。

 我はクロン。そなたの於ける黎明の時、幾許かの言葉を交わしたこと、覚えておるか?』


「お前たち、ちょっと静かに! 声が聞こえる」


 突然に聞こえてきた声に耳を傾ける。今この状況にあっては、この声の主の話を聞く必要があると判断する。


「お兄ちゃん?」


「霞も黙っていろ」


『あなたはどちら様ですか?』


『ふむ、忘れてしもうたか。少々、残念ではあるな。我はクロン、時の精霊をしておる者だ』


 時の精霊はニールでのスキル実践の折に、勧誘しようとして断られた精霊だ。

 その精霊が今、僕に語り掛けてきている。

 その事実に驚きつつも、このタイミングであることに何か意味があるのだと考える。


『ここの結界まで破壊されることは叶わぬ。よって、道を示そう。

 そこを抜け、こちらまで参られよ』


「ジルヴェスト! 結界が開くらしい、場所の特定を頼む」


『なんだか知らねえが引き受けた』


 僕の頭の中に直接語り掛けてきたクロンと名乗るときの精霊の言葉を信じ、ジルヴェストに探査を頼んだ。言葉の通りであれば、空に浮かんだ大陸を覆う結界のどこかに入り口があるはずなのだ。



『見つけた! 婆さん、あそこだ』


「では、旦那様よ。そこに降りるのだな? 誘われているように思えるが、問題は?」


「問題は、恐らくはない。時の精霊、クロンと名乗った相手だからな」


『『ジジィだ』』


 幼少組が騒ぎ出すことで、何故か相手が時の精霊であることが間違いないのだと認識できた。以前にも確か、そんなことがあったはず、そんな気がする。


「……時の精霊、原初の精霊の一体ですね。本物であれば、よろしいのですが」


 ルーは先ほどから何か態度が妙で、この大地のことも知っているかのよう。


『婆さん探知は任せろ! そのまま、突っ込んでくれや』


「ルーが役に立たぬ。任せるぞ、ジルよ。旦那様よ、このまま降下するの」


「ああ、うん、頼む」


 僕たちは天を覆っていた結界の先にあった大地に降り立つことになった。

 確かに、誘導されているという懸念もあるが、それに従う以外に今は道がなかった。


『結界が閉じたぜ』


「閉じ込められたということじゃの」


『囚われたともいうのじゃ』


 ジルヴェストの宣言により、大地を覆う結界が閉じられたこと知った。夜霧やオンディーヌは何かしらの危険性を主張している。

 ただ僕はそのようなことはないと、直感的に感じることが出来ていた。


「お兄ちゃん?」


「大丈夫だよ、霞。心配はいらない」


 そうだ。僕は妹を守るのだ。

 例えその守るべき妹が毒入りであったとしても、だ。


「飛行は制限されるようである、の。歩くしかあるまいよ」


『何らかの理が作用しておるようじゃ』


「ルーよ。好い加減にせよ」


「……私は何を? いえ、問題ありません、ご主人様」


 ルーの調子が至って悪い。それこそ、何かに囚われいるかのようだ。


「気掛かりでもあるのか?」


「……私はこの大地のことを知っているのかもしれません。ですが、はっきりとはしないのです」


「わからないなら後回しにしよう。今はこの先に進むことを考えないとね」


「はい」


 小さく頷くルーは、やはり元気がなかった。夜霧もそのことを気にしている。


『しっかし、あれだな。結界の外と中で景色が違う、婆さん飛べないことも考えると手間だぜ』


「ジルたちにも何やら掛かっておるの。高く飛び上がることは出来ぬか?」


『そのようじゃ。妾らにも効果を齎しておるようじゃ』


 ジルヴェストやオンディーヌだけでなく、普段浮遊しているイフリータやスノーマンにまで不思議な効果が作用しているようだった。


「我も、だ」


「ラヴリュスもルーもダメか。夜霧、ラヴリュスを頼む。僕にはちょっと重そうだ」


「仕方あるまいよ」


 精霊形態で不自由するものは人化後に、歩いてすすむことにした。


「とはいえ、僕には重力が過剰に掛かっているようには思えないんだけどな」


「うん、普通だよ?」


 霞と僕には特に何も効果がない。しかし、精霊たちとラヴリュスには厳しいようである。そう考えると、ラヴリュスも精霊みたいなものなのだろうか?

 降り立った大地は圧倒的に草木が少なく、礫砂漠と呼ぶような小さな石や岩がごろごろと転がる大地であった。


「何かあるとすれば、中心部かな?」


「かもしれぬの。外からはそれらしきものは確認できておる」


 結界の外から眺められた景色では緑豊かな大地の中心に、城というか神殿のような建物が存在していたように思える。現実として今、目の前にある景色は荒野に近いのだけど。


 指針としては中央部を目指すことに。

 近隣には特に目立ったものもなく、不安に駆られつつも歩みを進めていくしかない。


「集落があるの」


『人型の何かがにいるぜ』


「あれはエルフ? しかし何故あれほどの数が。ご主人様、注意が必要です」


 降り立った場所から中心部に向かい歩みを進める。夜霧やジルヴェストには集落らしきものが確認できているらしい。そこに住まう者たちがエルフなのだと、ルーはそう答えつつも警告を発するのだった。

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