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158.目指すは暗雲の先-4

「さあ、行くぞ、夜霧」


「力んでおるところ申し訳ないのじゃがの。

 この数で移動した上、ブレスを用いるとなるとの、無理だの」

 

 そんな話は一切聞いていない。

 前日に準備を完璧にこなし、しっかりと体を休めた。そして今日この日を迎えたというのに。


『婆さんのブレス、見たことはねえが凄いんだろ? 余波のこともあるし、突入は最小限にしようぜ』


「ジルの言う通りですよ、ご主人様」


「そういうことは先に言ってくれないとさ。全部台無しじゃないか!」


「まあまあ、お兄ちゃん。でも、ジルヴェストちゃんの言うことは正論だからね」


 どいつも、こいつも最近反抗的だ。

 霞は勿論のこと、精霊たちも何気に容赦がなくなってきている気がする。


「ふむ、立派な姿だの。内に秘めたるものに気付いてはおったが、よもや龍とは思わなんだわ」


「感心しているところ悪いんだが、ラヴリュスは突入班ね。他は僕と精霊たち全員にしようか」


「お兄ちゃん、私は? 置いていくの?」


「本当は霞を置いていきたくはないんだけど、そいつらの面倒を看る必要があるからな」


 僕としても霞を置いていくことは心苦しい。

 だって、こいつ放置すると何仕出かすか分かったものではないからな。


「殿下、これらの統率は私にお任せを。是非、カスミ様をお連れください」


「いつも済まないな、モー。じゃあ、そういうことで霞も一緒だ。

 茜、マリンにカッツベルも留守を任せるよ」


「我が配下も残そうぞ。必要であれば再び運べばよい」


 選んだ面子もスノーマンとペレについては、必要かと言えば首を傾げたくなる。でも、こいつらだけ仲間外れにした場合に拗ねられても困るので一緒の括りにしたまでだ。

 ゴンドラを置いていけるので、皆は夜霧の背に乗り込む。

 シュケーによって固定され、滑り落ちるという心配もない。あとはいつもの配置だ。ジルヴェストには風防、イフリータには暖房、ルーの千里眼、ガイアはシューの土台とそれぞれの役目を担ってもらう。おまけで、オンディーヌは軽食後の手拭い役だ。


「ブレスを吐くときは体勢を変える必要があるでの。しっかり掴まっておるようにの」


『だいじょうーぶ! シュケーが捕まえてるから』


「我も固定されておる心配は無用じゃろう」


 シュケーはラヴリュスもしっかりと確保してくれた。夜霧のブレスがただ息を吐くのとどう違うものなものか想像もつかないけれど、何とかなると思いたい。


「ジル、ルーよ。先導は任せるでの」


『おうよ』


「はい、ヨギリ」


 夜霧は軽く翼を羽ばたかせると上昇を開始した。

 向かう先は森の上空だが、狙い目はジルヴェストの示した雲の切れ間。


『俺の感覚ではあそこが一番薄いんだが、どうだ?』


「儂もそのように感じるの」


「問題ないようです。ヨギリ、任せますよ」


「木娘、全力で確保しておくのじゃ。いくでの!」


 夜霧がブレスの予備動作に入った。胸一杯に空気を貯めるかの如く、背を反らし胸を張った。

  

「うわ、マジかよ。垂直より酷い。コワイコワイコワイコワイ!」


「お兄ちゃん、うるさい!」


「ご主人様、しっかりと掴まっておりませんと危険ですよ」


――グアアアアアァァァァ


 夜霧の咆哮が響くと同時に、真っ黒でいて所々が黒き光を放つ激流がその口から流れ出るように迸る。

 

――キーーン

 

 思わず耳を塞ぎたくなるような甲高い音を鳴らし、結界が夜霧のブレスに抵抗をしている。結界に弾かれたブレスは、外側の結界に沿うように散らされ消失していった。

 またそれに対抗するように、夜霧はブレスを吐く口をさらに大きく広げる。

 すると、ブレスの勢いが瞬間的に増大した。

 その間ずっと激流は絶えず流れ続け、天を貫かのように黒い一本の柱が立つのが見えた。


「ふうぅぅ、久しく全力を出したの」


「ヨギリ、休んでいる暇などありませんよ! 結界が再生され閉じる前に、突入を」


「全く、人遣いの荒い? 龍遣いの荒いかの」


『もう再生し始めてるぜ。婆さん、急げよ』


 物凄い爆音ややたらと甲高い音に、黒く光る稲妻のような激流を目撃した僕はただ呆然とするしかなかった。目がシュパシュパするし、耳も痛い。平衡感覚も失いつつあるのか、頭がぐるぐるとする。


「ご主人様、惚けている場合ではありませんよ! 突入します」


「……ああ、うん、任せた」


 やっとのことで一言だけ絞り出せた。

 その僕の言葉を合図にしたように、夜霧が破り去った結界を潜り、その先へと飛び込んだ。



『おい、なんだこれ。婆さん、ぶつかる! 廻りこもう』


「あれは、どこかで……」


「下からではわからぬ。真上にあがるかの」


 結界の先にあったのは、土色をした大きな塊だ。とても巨大で視界がその土色で埋め尽くされている状態だ。

 ルーは何やら額に手を当て考えこんでいる。ジルヴェストが迂回できる道行きを示し、夜霧は添えに応えるように土色の何かを迂回するように飛ぶ。


「これは我が城ではない」


「これは島かの?」


『島にしちゃちょいとデカいがな』


 それは大地だった。

 暗雲の先、強力な結界の先にあったものは、宙に浮かんだ大地そのものだった。

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