16.お皿を売り込もう
「それでは始めます。イフリータおいで」
『はーい、なにするの~』
「この前と同じように、あれを溶かして形を作ってしまおう。少し大きいから頑張ってな」
『わかったー』
「おいで霞、スノーマンと一緒に雪像でも作って、盾の売り込みをしておいてくれないか?」
「お爺ちゃんのお願いだね、やってくるね」
霞にはデニス爺との約束である、売り込みを頑張ってもらうとしよう。霞は邪魔にならない位置に走っていった。
イフリータはもう慣れたもので、どんどん溶かしては人の形を作っていった。かなりの大きさだ、中までぎっしり詰まっているので相当の重さだろう。地面に少しだけどめり込んでいる。
『おわったよー』
「あとでもう一度呼ぶけど、一旦帰るか?」
『うん、またくるねー』
イフリータの仕事は一段落だ、メッキ作業まで休んでもらおう。
リエルザ様には引き続きポーズをとり続けてもらおう。
「シルヴェストおいで」
『呼んだかー?』
「また頼みたいがいいか?」
『ああ、あれか任せろ!』
話が早くて助かるな、本当にジルヴェストは扱いやすい。
ジルヴェストは像の周囲を覆うように竜巻を起こす、地面の土を巻き込み調整しているのだろう。
モデルを一瞥し、削り作業に入ったようだ。
リエルザ様のポーズはというと貴族のような服装のまま、両手を腰に添えるという形だった。ラジオ体操の背を後ろに反る時の格好だ。そう考えると途端にシュールな画になるな。
ジルヴェストは凄い、どうやって調節しているのか不思議だけど、細工が細かい3Dプリンタみたいだ。ただ今回は大きいので20分くらい掛かっただろうか。
リエルザ様の方もあのポーズなので疲れ知らずだったけどね。
『おわったぞ』
「うん、ありがとう。このまま少し待っていてもらえるかい?」
『いいぞー』
「ありがとう。イフリータおいで」
『はーい』
「そこに置いてある銀を溶かして、薄ーく銅像に被せることは出来るかい?」
『やってみるー』
どうやら大丈夫そうだな、やらせてみよう。
『あれで覆うのか、考えたな主よ』
「全て覆い終わったら、ジルヴェストに磨いてもらって完成だな」
『そういうことか、任せておけ』
事前に説明が終わってしまった、後でやろうと思っていたのだが。
イフリータは順調に銀を被せている、問題は無さそうだ。しかし器用な精霊たちだ。
霞の方が気になって見てみると、大量の雪だるまが並んでいた。この世界も季節は夏っぽいのに、あそこだけ雪国みたいだ。
銀の被覆は30分程掛かった、やはり大きさゆえ大変だったのだろう。
「イフリータありがとう、よくやってくれた」
『うん、がんばったー、またねー』
疲れたのか、さっさと帰っていった。
「ジルヴェスト頼むぞ」
『すぐに終わらせるさ』
ジルヴェストの作業は本当にすぐ終わった。竜巻を起こしたと思ったら終わったらしい。
『済んだぞ、確認してくれ』
「綺麗にピカピカで鏡のような仕上がりだな、流石だジルヴェスト、お疲れ様ゆっくり休んでくれ」
『またなんかあれば、すぐ呼べよ。じゃあな』
ジルヴェストも帰って行った。
「リエルザ様、確認済みましたけど、どうですか?」
「素晴らしい!私のようにピチピチだ!」
え? 僕は首を捻った、兵士さんも何人か首を傾げている、盛大にスベっている。
さて、僕も一応売り込みをしないとね。
「んん、リエルザ様。今回この作業が順調に行えたのには、この盾の性能が大いに役立ったのですが如何でしょう」
軽く咳ばらいをしてから、売り込みに入った。
「それは盾でいいのか?」
「ええ、一応盾ですが、杖のように魔力増幅効果があります。
今は僕と霞専用のものしか存在しませんが、技師であれば紹介可能です」
盾というか、皿だよね。
「ほう、試しに貸してもらえるか?」
「ええ、どうぞ」
僕は腕輪部分を外し、リエルザ様に嵌め、手でどうぞと促す。
リエルザ様は、魔力を盾に集中し始めた、盾が仄かに光る。
「炎よ、我が意に従い、我が敵を討て」
ボゥと音を立てて掌に炎が現れたかと思うと、飛んでいき案山子に当たって爆散した…。びっくりだ。
「これを作った技師を紹介してくれるのだな!本当なのだな?」
もの凄い勢いでリエルザ様が戻って来た、興味を引いたようで何よりだ。良かったなデニス爺。
僕は盾を受け取りながら、デニス爺の魔法具店を紹介する。脳裏にデニス爺の悪人のような笑顔が浮かんだ。
その後、僕と霞は帰路に就いた、銅像が無事に運搬できたのかを僕たちは知らない。




