156.ニールにて-5
「今日はテルムさんの所で武具の受け取りを行い、明日一番で森の上空を目指すことにしよう」
「じゃあ、準備だね。食べ物の買い出し!」
「それと下着の類だね。カッツベルたちも着替えは持っていないようだから」
追加の鎧たちとしゃべる奇妙な斧ラヴリュスが僕たちの元に現れてから、早三日。
その間、何も起こらなかったといえばそうでもない。
ラブリュスには目にするものすべてが珍しいようで、町中の探索を強制された。
勿論、付き添いに選ばれたのは僕だった。霞が原因なのに、僕にやたらと付き纏うラヴリュス。その理不尽さを前に僕は愚痴を零すことくらいしかできなかった。
大体ラヴリュス、あんた目なんてどこにあるんだよ? と訊きたい。目はともかくとしても、口に関しては斧の中心部に針金かピアノ線のようなものが二本あり、それが振動して音を発しているようなのは確認できたけどさ。
「本日は買い物であるか? ふむ、我も無論同行するぞ」
「あんた、何を買うの? 第一、お金持ってないよね? それ以前に必要ないよね?」
「必要がなかろうと、観光だ」
この通り、だった。何をするにも付いてくる。
それは僕の日課となっている訓練の時も然り。あの大爆発以来、魔法の訓練というか魔力操作の練習は欠かしていない。それに加え、数日に一度の割合で『同調』の訓練も行っている。
同調に関してパートナーとなるのはルーのみである。まあ、今のところ、ルー以外には不可能だろうと考えられ、それは他の精霊たちも納得している状況だった。
しかし、この同調に関してもラヴリュスは絡んできた。しかも、ルーに対し適切なアドバイスを齎すという結果をみせた。
お陰でというのは何だか釈然としないのだが、同調終了時の分離に於いて魔力をごっそり抜き去られるという同調最大の問題点が解決したのであった。
「槍はこれだ。町中で使うこともないだろうから、穂先は取り付けていない。訓練であれば胴金と石突だけで事足りるだろうからな。
で、穂先はこの革袋に入れてある。ねじ込み式だが、この金具でしっかりと固定するんだよ。ねじ込むだけだと振動で緩んで外れることもあるからね。数は替えも含め、多少多めに作っておいた」
「ありがとう、お姉ちゃん」
頼んでおいた武器の受け取りにテルムさんの元を先に訪れた。デニス爺さんの所にも向かうので好都合ではあったのだ。
出来た槍をそれぞれのゴブリンへと配布する。革袋に入った金属で出来た穂先は代表してカッツベルに預けることにした。
穂先と分離出来て、手入れも簡単に行えるという構造には感心するばかりだ。
「次はこれ。この坊主と嬢ちゃんはまだ成長途中みたいだから、出来る限り継続して使い続けられる形状にした。
グローブは魔獣の皮とインパクト部分はジジイに融通してもらった魔法金属でできている。魔力による身体強化でインパクト部分も強化が施されるようにしてある。
手甲は腕と肘の守護及び強化を前提にしてあるぞ。脛あても脛と膝をだな。これらも魔法金属で作ったからな、身体強化に伴いそれらも強化されるという具合だ」
説明を聞きながら茜は幾つものパーツに分けられたそれを装着していく。多少面倒に思えるが、長く使い続けられるというのはとても有難い。
テルムさんは見た目よりも細かな気遣いのできる女性であるようだ。そういったところはモーにも通じる部分だな。
「で、嬢ちゃんの剣だ。体に合わせて剣の長さは調節したよ。
今は振り回すのにもそのくらいの方が良いだろう? で、これがちょっと長いタイプだ。成長したらこれに持ち替えな。その場合、短い方は予備にすればいい」
マリンが希望した剣は二振り用意されていた。僕から見れば短剣と呼ぶに相応しい剣と、一般的な長さの剣が一本ずつ。成長に伴い持ち替えが利くようにと、二振りであるらしい。
マリン、鞘から抜いて振り回さないで! 危ないから。
「最後にこのメイスなんだが、……そこの浮いている斧の方が色々と良さ気ではないか?
ま、なんだ。刃を立てることに気を割く必要もないから、こちらも悪くはないだろう。特に珍しい金属は使っていない。思う存分、振り回してくれ」
「ふむ、確かにこのタウロスであれば、我を振るうに相応しい体躯ではある、か」
ラヴリュスをモーの武器にするには、モーが嫌がるわ! でも、イメージとしては妙にしっくりとくる気は否めない。
モーが手にしているメイスも、それなりに似合っている。ラヴリュスとの二刀流でも良い気がしてきたのは内緒だ。
「材料代で足が出たから、そうだね。槍が金貨8枚、坊主のと嬢ちゃんので12枚、メイスは3枚ってとこか。合計で金貨23枚銀貨40枚、頂こうかね」
「ちょっと待ってね。お兄ちゃん、私の持ち分足りないから貸して」
「お前、銀貨は持ってるよな。金貨23枚でいいな」
「じゃあ、これで」
「はは、本当に即金かい。領主様でもツケばかりだってのに……」
いつもニコニコ現金払いなんだけど、何かこの世界の人々とは違うのだろうか?
どこでも似たようなことを言われるので不思議に感じる。
僕の認識としては主に金銭感覚が異なるのだろうけども、あるのだから払うのは当たり前だと思うのだ。
「またニール寄ることがあれば、頼むよ。既にお得意様だからね!」
「うん、手入れの問題もあるし、絶対来るね。ありがとうね」
「この後、デニス爺の所に向かいます。ありがとうございました」
三日という短時間でよくもこれだけ仕上げたものだ。奥の方から物音も聞こえてくるし、他の従業員なり何なりも一緒に作業したと考えれば普通なのかな?
だが、これであの暗雲の先に挑めるというもの。ラヴリュスの言う空中城塞なのか、それとも違う何が待っているのか不明だが、これで僕と霞以外の武装は整ったことになり、何があっても対処することは出来るだろう。




