155.魔物の女王様-7
「ここはヴァルグラッド大陸の南東にあるニールという中規模な街、そして領主はこの私リエルザ=アートバーグだ」
「ヴァルグラッド大陸、ニール? 聞いたことがない地名であるな。
我はラヴリュスという。天空城塞ゼルダニアの城主しておる」
斧のしゃべる言葉はリエルザ様にも理解できるようだった。
但し、ラヴリュスと名乗る斧が語る天空城塞ゼルダニアというものは理解できない。もしかするとだけど、あの暗雲の先にある結界の要のことかもしれないけれど。
「夜霧、どう思う?」
「わからぬ、儂も知らぬ。そんなことよりも、早よ、ルーを呼び戻さぬか」
「えっ?」
「えっ? じゃないわ。儂らは旦那様と常時繋がっておるのじゃから、いつでも呼び戻せように。……忘れておったわけでは無かろうの?」
ああ、すっかり忘れてたよ。夜霧に白い目で見られるなんて新鮮だ。
確かに今は一大事だから、呼び戻すとしてもルーに小言を言われることはないだろう。
『ルー、大変なことが起こったんだ。早く、帰ってきて』
『どうなさったのです?』
『ルーに居てもらえると助かるんだ。とにかく一大事なんだよ』
「もう本当にご主人様はしかたありませんね」
「お前、こんなに早く帰ってこれるなら、もっと早く帰って来いよ!」
「とにかくじゃの、ルーよ。大変なのじゃ」
『ルー殿、今頃お帰りか? やはり主殿の補佐はルー殿でなければ、な』
ガイアの嫌味の籠ったセリフにルーが目を逸らした。こいつら、感情表現が豊かになったもんだわ。おっといけない、現実逃避している場合ではなかった。
「ルー、霞の女王様スキルに致命的な欠陥があったんだ。で、あれが被害者の代表みたいなもんだ。詳細はイメージで送るから」
「あぁ、やはりそのような効果がありましたか、納得です」
「問題はあの斧の天空城塞という単語だな」
「儂は何か違うのではないかと思うがの。そも、この大陸の名や町の名を知らぬというのはおかしかろうの」
「そこは実際に辿り着いてみなければ何とも。それよりも問題は、彼らをどう扱うかでは?」
僕の精霊召喚とは違い、霞の魔物の女王様には元の場所に戻す的なものは存在するのかどうか?
「霞! 鎧たちの存在は惜しいけど、送り返す方法はわかるか?」
「ううん、呼ぶ方法しかわかんないよ。どうしよう、お兄ちゃん」
「何とか説得して同行してもらうしかないな。一応、森の上空に何かあるっぽいし、それが彼らの言う天空城塞である可能性もあるからな」
「よーちゃんたちは残るって言ってるから、説得を手伝ってもらうね」
僕には鎧たちの言葉はわからない。どうもしゃべっているかどうかすら怪しく、言葉が発せられていなければ、サボりがちな言語理解スキルは何の役にも立たないのだ。
リエルザ様と斧の会話は聞き流していたが、どうやら終わったようだ。それに続くように今度は霞が説得を開始したと見える。
最初こそ、剣呑な態度であった斧だが、よーろーいーたちの説得の甲斐もあったのか態度を軟化させていった。
「お兄ちゃん! 斧さんはお兄ちゃんに付いて行くってさ」
「は? なんで僕なの、霞が面倒見ろよ」
「だって、斧さんがお兄ちゃんのこと気に入ったって言うんだもん」
「クハハハハハハッ、そんな細腕では我を使うには無理であろうが、我はこの通り自由に動けるでな。大船に乗ったつもりでおるが良いわ。
しかし、地上世界がこのようになっておったとは楽しみであるな」
ラヴリュスだったっけ、なんで馴染んでんの? ちょっとおかしいよ!
僕が疑問を抱いている間、ルーや夜霧は何かを探るようにラヴリュスを凝視していた。
「旦那様よ、これはちとマズいの。此奴、若干だが神気を宿しておる」
「本当に少しですけどね。どこぞの神の眷属かもしれませんね」
「いや、神様とか出て来られても、僕にどうしろと?」
もう本当に霞は碌なことをしない。どんな話をしたのか、斧のラヴリュスは好意的だし、その上神様絡みだとか訳の分からないことをルーたちは言い出すし。
「あの空の彼方に我が城があるという話である。お前たちもそのつもりで居れ、それまでその者たちに協力するが良い。
我も早う、海とやらに潜ってみたいものぞ」
『吾輩も海に向かうのは賛成である』
『妾も海に行きたいのじゃ。魚介じゃ!』
「行かないよ! 海には今のところ行く予定はないから!
次の予定は、あの森の上空だからね」
「地上を堪能することなく、我に帰れというのか。
勝手に呼び出しておいて、あんまりではないか!」
霞もラヴリュスのことは呼び出してないと思うんだけどな。
どちらにしても海には向かうつもりは無いのだ。
注文した武具の完成を待って、森の上空にある結界を超える。結界の薄いところを探すのが先になるけどな。
「アキラ、強き武具には意思が宿るのだな。ラヴリュス殿やその配下など、珍しい者たちに会えて私も嬉しく思う」
「それ、僕じゃなくて霞に言ってください。すべての元凶は、あいつですから。
本当、丸く収まってよかったですよ」
「一触即発であったろうに、上手く説得したものよ」
今でこそ大物ぶった態度をしているリエルザ様も、つい先ほどまで額から汗をだらだらと流していたのを僕は知っている。




