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154.魔物の女王様-6

 練兵場で訓練に励んでいた騎士や兵士たちは、既に僕らを取り囲むようにギャラリーと化している。先だって許可を得たはずのリエルザ様もギャラリーの中心にあり、その横にはリグさんの姿までもが何故か見える。

 このギャラリーたちの視線、僕を見る目だけがやたらと厳しいのが不思議でならない。


「ゴブリンさんたち、14人分の鎧ちゃん。お兄ちゃんも必要だよね?」


「えっ? 僕は必要ないよ」


 食料の必要もなく、自律行動が可能で、更にはサイズ合わせも不要。その上、自己修復機能まであるのにとても従順で大人しい鎧たち。

 これから、霞の女王様スキルによる召喚を行うつもりだ。

 先のゴブリンの一件でその効力がとても怪しいところなのだが、それはそれ、これはこれ。防具の購入費用や補修などの維持費をケチるのに最適な選択だったのだ。


「今一度確認するが、実施するのはカスミでアキラは何もせんのだな? 間違いあるまいな?」


「しつこいですよ。僕は何もしません、出来ませんから」


 リエルザ様の確認がウザい。練兵場に入る前からだから、もう何度目かもわからないほどだった。


「やります! うーーーーーん」


 霞は踏ん張るような声を挙げながら魔力を一点に集中させるていく。盾を修理や点検に出してしまったのは失敗だったかもしれない。少し時間が掛かりそうなのだ。

 僕は前回のよーろーいーちゃんの召喚に立ち会ってはいない。いつの間にやら、召喚されていたからだ。

 で、今回はというと。霞特有の魔力色である暗い感じの色合いをした魔力が溢れ出している。主に青や紺といった落ち着いた色合いが多く見られ、他は少ないながらも黒や紫がちらほらと見えた。


「モー、カッツベルたちを召喚した時はどんな感じだったんだ?」


「はい。カッツベルが先陣を切るように現れ、その後に他の者たちが続々と」


「時間としてはどうだった? 数としては同数の14だが、今回は補助する道具もないだろ?」


「いえ、特に長いと感じるほどではありませんでした。今回も平気なのではないでしょうか、ご覧ください」


 モーが指し示す方向では、霞の魔力の集中している個所からは次々と鎧たちが現れ始めていた。1、2、3、4、5、6、とりあえず6体と、その後も順調に数を増やしている。


「旦那様よ、安心するのは早かったようじゃの」


『また、スゲーのが混じってるな!』



「クハハハハハハハ、なんだここは? 我が家来を連れ去るは、どこのどいつだ!」


 霞の魔力の最も集中した辺りから、ガイアのように重厚な声音をした何者かの高笑いと誰何が響き渡る。


「霞、余計なことするなって、あれほど言ったろうに!」


「違う、お兄ちゃん。私じゃないよ! 向こうから勝手にやって来たの」


 霞の濃い魔力は未だ晴れずに視界が利かない。魔力色が見えることの弊害か、相手の姿を捉えることが出来ていなかった。


「どこだ、ここは? 妙な精神干渉を受けたかと思えば……貴様が拐した犯人か?」


『ちぃっ! 妹御よ、妾の陰に。そのまま、下がるのじゃ』


 魔力の霧から姿を現したのは両刃の斧だった。宙を舞うように浮かびつつも霞へと近づいていく。それを庇うようにオンディーヌが動くとイフリータとスノーマンも追従した。

 3体の精霊たちが壁になるように霞を守りつつ、謎の斧の動きを牽制している。


「旦那様よ。ねじ伏せるよりあるまい」


「いや、誤解を解く必要があるだろ。怪しさ満点の霞のスキルをあてにした僕がバカだった」


「しかし、どうかの? 誤解では済みそうにないが」


『吾輩も防御に回ろう』


「ガイア頼む。モー! 霞を回収しろ」


「直ちに。お前たちも女王陛下をお守りせよ」


 霞のスキル行使を見守っていたギャラリーも臨戦態勢を整えつつある。匿われた霞もすぐにモーが回収してくれるはずだ。

 こうなるとやはり僕の出番だよな……あぁ、気が重い。それでも前に出るしかない。


「夜霧、付いてきてくれ」


「何かあれば、実力行使じゃからの」



「あ~、えーと、申し訳ないが刃を収めてはもらえないかな? 少々、誤解があるようだから」


「貴様は何だ?」


 さて、どうやって説明しよう? この浮いている斧の言い分を考えると、悪いのは完全にこっちなんだが……。いや、はっきり言えば、誤解でもなんでもない。

 霞のスキルにより連れ去られる現場を押さえ、こちらに怒鳴り込んできただけだと思われる。ただ、こちらは霞の『魔物の女王様』というスキルの効果がそういうものだと認識していなかったがゆえの事故でしかない。


「僕は、あなたの言い分を聞く限りでは、あなたの家来たちを攫った者の兄に当たります。ただ、こちらとしても認識不足なところがありまして、どうか話を聞いていただけないかと」


「罪を認めるとは潔いことだ。で、話とはなんだ?」


 怒り狂っているのかと思えば、それなりに冷静な相手で助かった。

 

「妹のスキルに『魔物の女王様』というものがありまして――」


 しゃべる斧は宙に浮きながらも、僕の話に耳を傾けてくれた。

 本当のところは誤解でも何でもないのだけど、それを正確に汲み取ってくれたのか、はたまた誤認してもらえたのかはわからない。こちらには最初から悪意があるわけではないので、その辺りは特に強調してみた。


 斧の周囲には今回召喚した鎧たち14体とよーろーいー3体が集まっており、どのような方法かは理解不能だけど会議をしているようだった。


「ふむ、先に失踪した此奴らもあの妙な精神干渉は受けておらぬ。

 我が城が余りにも退屈であったゆえ、こちらの生活の方が心地よい、と。

 帰る気もないと申す始末、どうしたものか」


「こちらとしても待遇には気を使っておりますし、そう言っていただけると有難いかな」


 この斧、精神干渉がどうのこうのと最初に現れた時から口にしていた。

 その精神干渉という言葉、僕はひとつ思い当たることがあった。

 それは『魔物の女王様』によって召喚された者たちが、揃って霞を女王と慕うという洗脳に似た何かのことだ。

 これ以上、このスキルを使わせるのは危険だ。自主規制の範囲をでないが霞には封印させるしかない。

 でも今はそんなこと、何の解決にもならないんだよな。


「ところで兄とやら、ここはどこなのだ?」


「ここはニールという町です。僕たちもこの世界の生まれではないので、詳しくは……リエルザ様、お願いします!」


「これ、アキラ!」

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