153.ニールにて-4
デニス爺に紹介してもらったのは、鍛冶屋を経営している曾孫のテルムさん。
今まで特に考えることもなかったけれど、デニス爺も既にいい歳なのだから家族いても何もおかしくはないのだろう。ただ、いきなり曾孫を紹介されるというのには少し驚いた。奥さんとかは、まあ、訊かない方がいいのかもしれない。
紹介だけ済ますとデニス爺は来た道をそそくさと戻ってしまった。
「で、どんなもんにするんだい?」
霞は茜にマリン、モーとカッツベルたちを前面に押し出すと――。
「この子たちの体に合ったものをお願いします。お金はちゃんと払いますから」
「こっちの子供たちはどうするか……。子供だと成長したら買い替えになるだろ?
その時はまたうちを利用してもらえたら嬉しいが、無駄にならないかね」
テルムさんの視線が捉えているのは、カッツベルたちゴブリンだった。
「彼らはそれで大人らしいんです。だから、その心配は無用ですよ。
で、背が低く、体も小さいので出来れば、長柄のものをと思うのですが」
「長柄な、通常の槍では長すぎるか。短槍サイズでどうだ? この位だが」
テルムさんは店頭に飾ってある柄の短い槍をカッツベルに渡した。
僕の目から見ても、大きさとしては丁度良い感じだ。
「本来は片手槍なんだがな、これでどうだ?」
「私らもこれでお役に立てるだよ。ありがとさんだ」
「うん、いい感じだね。さすが、お兄ちゃんだよ。
この調子で茜くんやマリンちゃん、モーちゃんの分も考えてほしいな」
僕は適当に案を出しただけなんだが……。大体、霞の言うそれは丸投げではないかな? 僕の常套手段であったはずなんだが、お株を奪われた気分だ。
「茜たちについては本人の希望に沿った方が良いだろ? 若しくはテルムさんにアドバイスをもらおう」
「うわ、お兄ちゃん、面倒くさがったよ。じゃあ、茜くんとマリンちゃんとモーちゃんは適当に選ぼう!」
僕が対応しないと知ると、個々人に丸投げしやがった。しっかり、嫌味も聞こえているからな!
店頭に並ぶ品物から茜が選んだのは小手、マリンは短めの剣、モーはあれなんて言う名前だろうか、鈍器のような何かを手にしている。
「先の短槍もだが、そこに並べているのは見本だぞ。お客人がそれを選ぶというなら、あたしゃそれを新たに作るがね」
「茜の小手やモーちゃんの鈍器は、妥当だし理解できる。ただマリンが剣を持ったのは少し意外だったね」
「殿下は私を何だとお考えなのですか? 私はアカネのように殴る蹴るだけではないのです」
「ひどいなあ、お兄ちゃん。個性だよ、個性。それが大事なの!」
僕はマリンとはあまり会話らしい会話をしたことがなく、イメージとして剣よりモーの持っている鈍器の方が合うような気がしたのだ。だってマリン、名前は可愛らしいけど青鬼なんだもの。
「ごめんな、マリン。まあ、お前たち二人はまだ成長途中だし、これからも選択肢はあるよな」
僕は茜とマリンの鈍器という選択肢が未来にあることを否定したくない。
出来るなら棍棒でも担いでほしいところだ。
「で、これで決定なのかい? 仕上がりはそうだね……三日もあれば、何とかできるよ。材料の問題で、前金に幾らかもらいたいのだが構わないかい?」
「じゃあ、はい」
「こんなに! これは貰いすぎだ。とりあえず材料費だけだから、金貨2枚もあれば十分だよ。クソジジイ、金払いが良いとはこういうことかよ……」
テルムさんは何やらブツブツと呟いているが、前金としては問題ない金額を霞ははらったようである。霞は僕よりもお金持ちなので、支払いが滞ることもないだろう。
僕の貯金はミュニレシアのアーミラさんの宿屋の建て替え費用に費やされたからな。
「受け取りに来ないと置き場に困るからよ。気をつけて帰るんだぜ!」
「出来たころにまたくるね~。ばいばーい」
「まだかなり早いけど領主館に帰るか?」
「うーん、あの兵隊さんが訓練するところを借りられないかな? よー、ろー、いーちゃんのお友達を呼ぼうと思うの」
「ああ、そうするか。リエルザ様に一声掛ければ、貸してくれるだろうしな」
「とりあえず、お屋敷に着くまでは買い食い! ね~、夜霧ちゃん」
「う、うむ、それが良いかの。のぅ、オンディーヌよ」
『そうじゃ、それが良いのじゃ』
こいつら、何かしら買い食いをしたいがために、その責任を次々に投げやがって。
オンディーヌはそういうところが少し抜けているから気付いていなそうだけどな。
まったく、ルーが留守なせいで面倒が増える。居れば、多少なりとも抑えてもらえるはずなのに。
ルーは光の精霊なのだから、その気になれば夜霧よりも速く移動できるはずだというのに、どこで油を売ってやがるのだろうか。
僕は怒っていないし、他の奴らにも何も言わせないから、早く戻ってこい!




