152.ニールにて-3
「ちょっと緩いな。膝の稼働領域は制限して、ついでに固くしようか。
あんまり簡単に変形するようでは、崩れたりして危ないからさ」
「中々に興味深い発想ですな。吾輩の身体構造も真似てみると、動作がスムーズになりましたぞ」
銅像を少し自由度の高い大きな人形に作り変えるという作業の途中に、ガイアは自分の体の構造まで弄ったらしい。しかも、シュケーの手の中にある人形まで作ったにも関わらずだ。
自分でお願いしておいて何なんだけど、指の一本一本まで精巧に動くよ、これ。腰の部分にも大きめの玉が嵌められていて、腰を折り曲げるようなことも可能になっていた。僕はそこまでのイメージを与えたつもりは無いのだけど、ガイアが自身で判断したのだろうか。
「ギネスさん、完成しましたよ。ポーズも自由自在なので、勝手にやってください。
但し、各関節には動く範囲は決められているので、それ以上は不可能ですけどね」
「素晴らしいぃぃぃぃ!」
「今回の依頼の報酬は、これだよ。マスターの小遣いだけど」
金貨が100枚も入った袋を報酬として頂戴した。ガイアにほぼ丸投げで完成したのだけど、いいよね?
改造で大量に余った青銅もアニタおばちゃんに預けたので、忘れ物もないはずだ。
「あるじー、お人形ありがとう」
「お礼はガイアに言いなさい」
「僕らはデニス爺の所へ向かいます。町に滞在している間であれば、不具合にも対応はしますから連絡してください」
「不具合よりも、また壊さないかが心配だよ」
壊されたら壊されたで次もお金を貰うだけだけどさ。ガイアの工夫の結晶なので、壊してほしくはないな。
その後昼前に引き渡しを終えると、デニス爺の店へと移動することになった。
「お兄ちゃん、あの露店。懐かしいね、食べよう?」
「あれ、ガツンとくるんだよな。霞、銀貨持ってるよな? 人数分適当に買っていいぞ」
「やった。オンディーヌちゃん、行こ」
霞はマーメイドのような姿でとても食い意地が張ったようには見えないオンディーヌを連れ、露店へと買い出しに向かう。初めてデニス爺の店で買い物をした時と同じ露店に、だ。
モーは草食なので仕方がないが、茜やマリンの霞の配下を連れていくべきだと思うのだが……。何故かいつも夜霧やオンディーヌを優先する霞だった。
霞は竹っぽい網籠に大量の何かの焼き肉を購入してきた。確か当時もこんな籠に山盛りの肉を購入したような。
露店のおじさんはホクホク顔で店じまいを始めている。その横で僕たちは地面に座り、肉を等分に分けて食した。
「旨いべな。女王陛下のお陰で食いっぱぐれる心配もないだ」
『実に味わい深いが何の肉なのじゃ?』
「知らない」
相変わらず、霞は肉であれば問題がないとでもいうのか、何の肉かを訊いてはいなかった。
「モー、サラダみたいなの買ってきたから、お前はこれな」
「ありがとうございます。本当、私は殿下にお仕えしたくなりますよ」
「いやいやいや、モーには霞の面倒を見てもらわないと困るから」
僕だけでは霞の手綱を握れそうにないからな。モーには是非ともその辺りに尽力してもらいたいところだ。それに僕には個性的で少々うるさい精霊たちが付いているから、な。
手についた肉の油やタレをオンディーヌのお腹で洗い終えると、再び移動する。
「お爺ちゃん、元気かな?」
「元気だろうさ。殺しても死ななそうだもの」
「誰が殺しても死なないじゃと? っと、小僧ではないか」
珍しくもデニス爺は店先に居た。何を? と思えば、掃除をしていたらしく箒を持っていた。
「近くまで来たので挨拶を、じゃなかった。修理をお願いしようかと」
「私のも一応、点検してほしいな」
「魔獣との戦闘で酷使でもしたのかの? 深い傷で回路が途切れておるな」
自爆しましたとは口が裂けても言えそうにない。デニス爺の勘違いをそのままにして、修理してもらうのが最も良い手だろう。幸いにも霞がそのことを口に出さないので、助かったともいえる。
「お爺ちゃん、それとね、武器が欲しいんだけど。何とかなるかな?
この子たちの分だから、結構数が欲しいの」
「なんじゃ、後ろに居ったのは連れか? 賑やかしかと思うたわ。
そういえば、熊男が魔法金属の斡旋に来よったぞ。お主らの知り合いだとか、言っておったが」
「ああ、誰さんだっけ? 魔王都で魔法金属の精製をしている人だよね。デニス爺を紹介してほしいって頼まれたんだよ」
「そうか、そうか。ま、お陰で色々と作れるようになっておるわ。
うちは魔法具店じゃからな。武器となると、さて、どうするか?
修理に手が掛かることもあるし、紹介でもええかの?」
防具類は鎧ちゃんを再召喚することにしているが、武器となると武器屋か鍛冶屋に頼る必要があるんだよな。デニス爺は魔法絡みの品物が得意だからな、仕方ない。
「うん、紹介でも良いよ。お爺ちゃんの知り合いでしょ?」
「おぅ、儂の弟子と言っても良いくらいじゃ。すぐそこじゃから、ついてくるが良い」
本当にご近所だった。三軒隣りの鍛冶屋さんで、今は昼休憩をとっていた。
「おーい、デニスじゃが居るか?」
「あ? なんだジジイ、何にしに来た?」
「このぶっきらぼうなのがテルムじゃ。儂の曾孫で女子なのじゃが、そうは見えまい」
似てない、全く似てないし、男にしか見えない。
がっしりとした上半身はまるでモーみたいだ。あっ、そういう風に考えれば、ちゃんと女性に見えてきた。不思議なものだ。
「この小僧らは儂の所のお得意さんじゃ。この間の魔法金属屋を紹介してくれたのも、此奴らじゃ。で、お主に武器の制作を頼みたくてな。
金払いも良いから、とりあえず受けろ」
「まぁ、ジジイの紹介なら構わねえが。何をどれだけ作りゃ良いんだ?」




