151.ニールにて-2
結局のところ、リエルザ様の了解は得られ領主館に宿泊することが出来た。色々な要件が片付くまで、滞在させてもらう予定である。
宴会場に移動した際には、そのあまりの数に仰天していた言うまでもないだろうけど。
そして今日は朝一番で、冒険者ギルドへと向かうことにした。面倒な仕事はさっさと始末するに限る、と霞との相談の上で決めたことだ。
そもそも挨拶に来ただけなのに、何故に仕事に従事させられるのかという話なのだ。
「今日はギネスの所に行くそうだな。
馬車は……乗り切れんな。すまぬ、歩いて向かうが良い」
「冒険者ギルドの用が済んだら、デニスお爺ちゃんに会ってくるの」
「ほぅ、デニス老師か」
デニス爺の話題が出ると、リエルザ様が表情を一瞬だけ顰めた。あの爺さん、がめついからな。きっと酷い目に遭ったのだろう。
「まあ、そういうことで夕方までには戻る予定です」
「気を付けて向かうが良い」
「朝も早くからよく来てくれたぁ。歓迎するぞぉ。
ところでぇ、作業はどこで行うぅ?」
「ちょっとロビーを広めに確保して頂ければ、それで構いません。
それとポーズに関しては、後で自分なりに行ってください。そのように改造しますので」
「う、うむ、任せるぜぇ!」
青銅製の銅像を溶かすのも、新たに造形を成すのも、イフリータとジルヴェストではなくガイアに任せることにした。今回はちょいと複雑になるため、ガイアの方が適任なのだ。
アニタおばちゃんが何人かの職員を連れ、ロビーに置いてあるベンチなどを片付け始めている。あの職員さんは確かミランダさんだったかな? 見覚えがある。
「さてガイア、僕のイメージは正確に伝わっているね?」
「中々に面白い発想であるな。人形の手足や関節を動くようにするなど、さすが主殿である」
「だから、そういう感じで頼むよ。誰か手伝わせる必要はあるかい?」
「特に必要はないが、シュケー殿の教育も兼ねようと考える」
「なら、シュケー。ガイアの作業を観ていようか」
「はーい」
ガイアに渡したイメージは球体関節を用いた人形のもの。但し、元々の銅像の構造も少し変える。中身が詰まったままでは重く、関節部を稼働させることで事故が起こっては困る。故に、ガイアの軽量化の手段と同じくハニカム構造へと切り替え、余った青銅はギネスさんに返却するつもりである。
要するに僕がやることはガイアへの指示のみであり、それはもう終了してしまった。後は完成後の確認くらいなものだ。
「お兄ちゃん、何もしないの?」
「うん、作業の指示は終わったからね。作業の監督でもしていようかと」
熱を加えているようには見えないのだけど、にゅるにゅると動く金属は次々とその形を変えていく。だからこそ、ロビーで作業させているともいえた。
「主殿、関節の玉はどのように?」
「それは軽量化はなしでいいよ。大事な部分だからね」
「では、そのように」
ガイアの所々で僕に確認しながら作業を進めていく。
造形そのものはイフリータ&ジルヴェストのものに若干劣るけれど、言うほどに劣っている訳でもなく問題はないだろう。
「すんごい、余ったね。今度は割れたりすんじゃないの?」
「どうだろ? 稼働部分は少し強度を上げているから、大丈夫じゃないか。
ガイア、軽量化で余った分で剣とか盾とか、適当に作っておいてよ。軽めにさ」
「あっ、オプションも付けるんだ。やるじゃん」
絶対に後から言いそうなことは先に押さえておく。また作業しに来るのなんて二度手間だからね。
「旦那様よ。ガイアに付き添っておる木娘は何やら欲しそうにしておるの」
「ガイア、シュケーにミニチュアで作ってあげても良いよ。その程度なら、文句は言われないだろうし」
「父さんはシュケーには甘いよね。私なんかよく存在を忘れられているのに」
「そんなことないよね。お兄ちゃんは私にもダダ甘だしね」
どうなんだろ? シュケーは色々と役立っているので、その礼みたいなものなのだが。少なくとも最近の毒入りとなった霞に対しては、判断を甘くしているつもりはない。
ペレのヤキモチは筋違いとも言えなくはないが、ペレの存在を忘れていることは多々あるので、何も言い返せそうにないのもまた事実だったりする。
雷や電気という能力は汎用性に劣るために、どうしても仕事の割り振りなどで漏れてしまうのは仕方がないと思うのだ。
「ペレにも何かできることを探すかな」
「スマホの充電!」
「精密機器だから、ちょっとのミスでも壊れるんじゃないか。霞のなら構わないけど」
「ぶっつけ本番はさすがに私もどうかと思うな、父さん」
「じゃ、銭湯のビリビリ」
「そうだ、そっち方面だ。電気風呂も悪くないけど、マッサージなんてどうだろう?」
実は僕、マッサージとかだと揉み返しで体調を悪くするタイプなのだけど、それを黙っていた。電化製品の存在しないこの世界でペレが活躍する場を少しでも作る為に、泥をかぶっても良いと考えた。
低周波治療器のように微弱な電気を流すような施術であれば、揉み返しもなさそうだという目論見もある。時々周囲の者たちのせいで見当違いな方向へと向かうけど、転んでもただでは起き上がらないのだ、僕は。




