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149.目指すは暗雲の先-3

 ニールの町を望める位置まで飛んで来た。

 ニールの町は僕たち兄妹が初めて訪れた町で領主のリエルザ様とも知己はあるが、さすがに夜霧で乗り付けるには抵抗があった。これがミュニレシアであれば、どれほど楽だっただろうか。

 町からの視点で、夜霧が点にしか見えないであろう場所へと着陸した。ここからは歩きだ。


「カッツベル、ゴブリンたちをちゃんと纏めてくれよ? モーは殿を頼むぞ」


「はい、殿下」


「兄上、私たちは?」


「お前たちは霞の供回りだ。鎧たちはそれぞれが纏うように。ミュニレシアの審査でもそういう立ち位置だったろ?

 大体、こういった指示は霞が出すもんだろうに……」


「そうなの? いつもお兄ちゃんがやってるじゃん」


 ああ、もう! 僕の精霊たちにはこんな指示など出す必要すらないというのに、特に茜、お前もしかして忘れてるんじゃないだろうな?

 オンディーヌとペレがイフリータとスノーマンを引き受けてくれ、ガイアはシュケーを担当する。

 シュケーに限っては、最近めっきりと大人びてきたところもあり、一安心ではあった。それはガイアの教育の賜物ということにしておきたいが、物理的に吸収したともいう側面もあったりする。


「ジルや。お主はあの町に訪れたことがあるのかの?」


『ああ、あそこで初めて呼ばれたんだぜ。でも最初は俺じゃなくてチビだからな。ヤキモチなんからしくねえぞ、婆さん』


「ふむ」


 ルーが留守なので、ジルヴェストと夜霧が僕の供回りとなっている。夜霧は何やら思うところがあるようだが、特に気にする必要もないだろうさ。


「みんな元気かな?」


「そりゃ、元気だろ。僕たちは色々な場所を転々としていたけど、期間として考えるとそう長くもない訳だしね」


「そうだ! お爺ちゃんにお兄ちゃんが壊した盾を修理してもらわないと、ね」


「霞、そういう嫌味はやめてほしいな。お兄ちゃんは悲しい」


 あの大爆発は、忘れてしまいたい過去なのに。


「みんなの装備も確保するんだよね? カッツさんたちは担当のよーろーいーちゃんが居ないから、防具も用意しないとね」


「そこは追加で鎧を召喚しようよ。空気が読めないとは、霞らしくないぞ」


「また数が増えるとお兄ちゃん、怒るじゃん!」


「鎧に関しては怒らないよ? だって、あいつらご飯いらないもの。それに着ることで場所とらなくなるし、デメリットがあまりにもないんだから」


 最初こそアンデッドかと思い若干引き気味ではあったが、彼らは至って優秀だったのだ。何よりも食料を必要としないというのが素晴らしい! 夜霧曰く、大気中の魔力を吸収して活動しているらしいのだ。

 それに自己修復機能のある鎧にもなるというのだ。防具の購入費用や修繕費用を節約できるとなれば、僕には文句のつけようがない。お願いですから人数分、来てくださいとでも言いたい。言い切りたい!


「そうなの? じゃあ、後で頑張ってみるね」


「あ、でも、変なのは呼んじゃだめだよ。あくまでも鎧ちゃん限定だからな」


「わかってるよ」


 釘は刺しておく必要がある。こいつ油断すると、とんでもないことを平気でするからな。僕とは色々と感覚が異なるのだ。血の繋がった実の妹ながらに恐ろしいところがある。


「行きますだよ、殿下。陛下は既に出発されておるでよ」


「お、おぅ」


 思慮を巡らせている間に、僕だけ置いて行かれた。カッツベル、お前良い奴だな。




「おっ、おおぅ。久しいな、お前たち」


「こちらこそ、久しぶりですね。リグさん。

 僕と妹の分のタグです。こっちにいるのが僕の精霊たちで、妹の後ろに居るのがその護衛たちです」


「また随分と大所帯だな。しかも見慣れぬ亜人種が多いが、お前たちの連れなら問題あるまい。通っていいぞ」


「親方! 本当に良いんですか、領主様にお伺いをたてないとならないのでは?」


「構わぬ、こいつらは領主様の知り合いでもある。

 すまぬな、こいつは新人で融通が利かぬのだ」


「いえ、こちらも突然訪れたわけですし、仕方ないですよ」


「しかし、ここまで大所帯ではうちに泊めることは出来そうにない。宿を手配したほうが良かろう」


「ええ、そのつもりです」


 宿を手配するにしても、これだけの数だから大変だろうな。精霊たちは僕と同部屋でも特に問題はないけど、霞の方はちょっと難しいかも。

 ただ寄っただけだというのに、面倒になってきた。


「お兄ちゃん、リエルザ様の所に行こうよ。きっと部屋を貸してくれるよ」


「霞、集る気満々だな。だが、良い案ではある」



「おまえら、図太くなったなぁ。先にギネスの所に寄ってから行けよ!」


 門を潜り、町へと入ると後ろからリグさんのそんな叫び声が聞こえてきた。


「じゃ、先に冒険者ギルドに向かうか」


「そうだね。あの銅像、どうなったのか楽しみだね」


「どうもこうもないだろ? 銅像だぞ」


 ギネス像とリエルザ像、この町でイフリータとジルヴェストで作り上げた僕たちの大事な資金源。材質は銅だし、中身が空洞ということもない。そんな簡単に壊れたりはしないはずだった。はずだったのだが……。


「あら、あなたたち、懐かしい顔ぶれね」


「ご無沙汰しております。アニタおばちゃん」


「お兄ちゃん!」


「あっ、アニタさん、こんにちは。ギネスさんはいらっしゃいますか?」


「……まぁ、久方ぶりの再開だし、良いでしょう。ギネスなら、執務中よ。

 呼んでくるから、酒場で待っていなさい」


 いや~すっかり忘れていた。アニタさん、おばちゃん呼ばわりは禁句だったのだ。


「もう、お兄ちゃん、気を付けようよ。アニタさんの眼つきヤバかったよ?

 それにコレ、見てよ!」


「なんでギネス像の腕、折れてんだろうな? 折れ曲がっているんじゃくて、千切れてるじゃないか」


 表面がうっすらと腐食してエメラルドグリーンになっていた。霞が言いたかった変化とはこのことなのだろうが、銅像の変化はそれだけに収まってはいなかった。

 あたかも捩じ切ったかのように右腕の付け根部分の形状がおかしい。


「これは私も予想外かな」


「予想外、以前の問題だろ。どうやったら、捩じ切れるんだよ。てか、誰だよ、そんな怪力の持ち主は!」

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