15.リエルザ像
今日は朝一で領主館に向かっている、昨日ギネスさんにお願いされた例の件だ。
道中にある商店は相変わらずまだ朝方とあってか、開店準備をしている店舗が多くみられる。
基本的に僕たちが訪れるような店ではないので興味も薄いのだが、霞にとっては別のようだった。
霞は何やら果物屋のおばちゃんと話をしている、その片手にには何故かバナナのような果物を握っている。
霞の小遣いは欲しい時払いなので、お金を持っていないはずなのにムシャムシャと食べている、一体どういうことなのか?
不安になり果物屋の店主に尋ねようと近寄ると、
「あんたも食べて行きな、これから仕事なんだろ?」
犬耳のおばちゃんは僕にもバナナのような果物をくれた。バナナ?を持ったまま尋ねる。
「妹が食べていたので、代金を払おうかと……」
「ああ、気にしなくていいんだよ。これは余りものだからね」
気にしないで食えというので、試供品みたいなものかと納得することにした。味は若いバナナみたいだ。
「ごちそうさま、お姉さん!」
あの霞がお世辞を言ったのか!思わず2度見してしまった。
「僕もご馳走様でした、ありがとうございます」
軽く頭を下げて店の前を離れた。
「微妙に美味しかったね、お兄ちゃん」
やはり霞は霞だったようだ、一安心だ。それ褒めてないからね、妹よ。
「何か貰ったら、次からはちゃんと報告するんだよ。吃驚しちゃったからね」
「うん、わかった」
マジで兄の胃を頼む。
色々話しながら歩いていたら、領主館の門前に辿り着いた。
先日手紙を配達した時の門衛の兵士さんが居たので、領主様の依頼で来たと伝えた。
一人の兵士さんが館へ走っていくと、直ぐに戻ってきて館の扉まで案内してくれた。前回は執事さんが迎えに来てくれたけど、今回は違うようだ。
兵士さんが扉を開くと、メイドさんが後を引き継いで案内してくれるのだそうだ。
執務室の前に到着すると、メイドさんはノックした後に要件を話し扉を開いた。以前執事さんは勝手に開けてたよな。
「よく来てくれた、アキラ、カスミ。待っていたのだぞ」
笑顔だ、それもう笑顔だ。
「着いたばかりで申し訳ないが、早速移動しよう」
「待ってください。ここで話を詰めてから行きましょう」
僕は間髪入れずに止めた、色々と準備が必要なのだ。向かうのは練兵場だと思うが、ここで纏めて計画した方がいい。
「まずは材料に何を使うのかやポーズを試行錯誤をここで話し合いましょう」
主導権を握ってしまわなければ、ギネス像とあまりにも違うとまたギネスさんが作るとか言い出しかねない。なるべく波風を立てないような造りを提案しなければ!
「そういえば、そうだな。よし、ならば考えるとするか!」
やはり何も考えてなかったようだ…。
「まずは材料を決めましょう。
ギネス像は青銅を用いましたが、リエルザ様は何を使いますか?
物によっては、使用できない物もありますので、まず確認をしたいのです」
ガラスはやめてほしい、危ないし、加工が難しそうだ。
「ふむ、青銅で構わないぞ、ただ表面をなんとか出来んかな?」
「なんとかというと、メッキみたいに違う金属で覆うとかですか?」
質問を質問で返してしまった、しまったな。
「そうだ!銀でも使えないか?」
「どのような手法と使いましょうかね?厳密にメッキを施すことは技術的に不可能ですが、最終的に似たようには出来ると思います」
本格的なメッキは無理だけど、溶かして被せたり、吹き付けたりなら出来るはずだ。
「ならそれで頼む、次はポーズか?」
「ええ、ある程度は考えてあるのですよね?」
何か他にあったはずだが、ど忘れしてしまった。
「霞、ちょっとモデルを頼む。リエルザ様は霞と一緒にポーズをとってください」
霞をモデルにして、客観的にリエルザ様に観てもらおう、後から違うと言われても困る。
リエルザ様がポーズをとると霞が真似をする。そこでリエルザ様にはこちらに戻ってきてもらう。
「多少違和感はあるでしょうが、ご自分の目で確認するのが一番です」
リエルザ様は細かく指示を出し、霞のポーズを調整している。
「こんな感じだな、やはりこうして観ると分かり易いな」
「では、これを覚えておきましょうか。現場でも少々ならどうにかなるでしょう」
大まかに決めたので、時間を取られることもないだろう。
「材料の買い付けや、荷運びの人員の確保はどうですか?」
「あぁ手配せねばならないな、すっかり悪れておったわ」
こんなことだろうと思ったよ。
「青銅は安価なものだ、直ぐにでも集まるだろう。銀はどうだろうな?」
「銀が間に合わない場合は、後日でも構いませんよ。軽く磨いてからなら何とかなるでしょう」
「ん、そうか、すまんな。至急手配させる」
リエルザ様は執事さんを呼んで、材料と人員の確保を急がせた。
時間が大量に余ったな、これを現地でやるつもりだったのだろうか?
「昼食の用意もさせている、食事が終わる頃には集め終わるだろう」
「では、ご厚意に甘えさせていただきます。良かったな、霞」
霞は笑顔で頷いたが、少し疲れているようだ。モデルの仕事は過酷だったのか。
昼時になったので、豪華な昼食をいただいた。相変わらず、何だかよく分からない料理だったが美味しかった。
食後のお茶を嗜んでいると、執事さんがやってきた。どうやら準備が整ったようだ。
「よし、それでは行くとするか」
リエルザ様のその言葉で僕たちは移動することになった、裏の練兵場なのですぐそこだ。
現場についてど忘れしていたことを思い出した。大きさだ、像の大きさを訊いていなかった…。
練兵場には、それはもう大量の青銅のインゴットが山のように積まれていた。銀だって相当な量がある。
迂闊だった…でも、像にしたら重すぎて運べないよね?どうする気なんだろう?
「リエルザ様、あの、これ全部使っても構わないのですか?かなりの大きさと重さになりますが大丈夫ですか?」
「うむ、大丈夫だ。やってくれ」
僕は知らないぞ、重くて運べなくて練兵の邪魔になってもね。




