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144.同調-6

 今の今までルーとの同調には何ら問題となるべきものは存在していない。実験をするという大仰な言い回しこそが問題であったと思う。


「それではご主人様、分離を開始します。ご自身を強く保つように、心掛けてくださいね」


「うん、わかったよ。始めてくれ」


 僕の魔力はお腹の辺りに集中していて、それを管理・制御するためにルーは僕の胸の辺りを居場所に選んでいた。

 同調状態からの乖離、融合からの分離を行い、日常生活に戻る必要があった。

 日常生活といえば、数多くの精霊たちと共にあること。顕現に必要な魔力供給が断たれ消失してしまったジルヴェスト他の面子を呼び戻す必要がある。

 一旦その存在が消えてしまうと、彼らの大事さがひしひしと感じられるようになった。一番には、夜霧の背に乗った状態での移動だな。

 ジルヴェストが居ないと上空を飛び回るのに対しては寒すぎるし、シュケーが居ないと夜霧の背から滑り落ちてしまうのではないかと恐怖した。

 オンディーヌやガイア、イフリータにスノーマンも居ないと寂しいし、何より不便なのだ。


 ルーは宣言通り、僕と分離に取り掛かっている。

 何かが――まあ、ルーなんだけど――体からズルりと抜け落ちるような感覚がある。この感覚は非常に気持ちが悪い。


「――くぅぅ、だるい」


「半分ほど出かかっておるからの。もう半分が完全に抜け出るまでの辛抱かの」


 集中しているのかルーに返事はなく、夜霧が経過を教えてくれた。

 同調それ自体は特に違和感もなく簡単に行えたというのに、分離だけでこんなに苦痛を伴うとは、これ如何に?


 あぁ、なんだろう、ヤバい。

 立ち眩みに似た感じの何か、貧血を起こした時みたいだ。頭から徐々に血の気が失せていく。


「これ、しっかりするのじゃ! ……支えてやりたいのじゃが、旦那様からの魔力供給がないと人化できぬ。すまぬが、そのままゆっくりとしゃがみ込むが良いの」


「ふぅぅ、完了です。ご主人様! 無事に分離できましたよ」


 無事? 無事なのか? この状態が?


「……すまない。すぐには動けそうにない、ちょっと休憩な」


 ほんの一言を発することさえ難儀するほどの疲労感に襲われてしまった。ルーの分離に際し、僕の体の中から何かが大量に零れ落ちてしまったかのようだ。


「むむ、これルーよ。お主、旦那様から随分と魔力をもぎ取ってきたものじゃの?」


「こ……これは、お駄賃なのです!

 というのは冗談なのですけど、想定していたよりも分離自体が困難だったのです。

 ご主人様が私と離れることを拒んだのか、ご主人様の魔力に私自身が囚われる形となっておりました」


「……あ、あぁ、これ魔力が枯渇状態なのか。久しぶりだな、この感覚。

 同調中は大して魔力消費も気にならなかったのに、最後の最後にこれか……」


 ひたすらに怠い、体に力が入らず項垂れるしかない。

 こんなことになるなら、二度とやりたくはない。本当にどうしようもなくなった時だけの切り札にするとしよう。正に切り札だ。


「もうすぐ夕暮れじゃ、妹御の元に戻ったほうが良いのじゃがの」


「今すぐは無理!」


「ヨギリに乗り込むのは難しいでしょう。ですからご主人様、ジルヴェストだけでも呼び戻しては如何ですか? ジルヴェストでしたら、浜まで移動するのも簡単でしょう」


 確かに、ジルヴェストに覆われる形で運んでもらうはいい案だね。


「ジルヴェスト、お願い! 僕を運んで」


 同調中にだいぶ離れた位置で顕現が解かれたジルヴェストだけど、呼ぶと僕のすぐ脇に姿を現した。


『話は聞いていたからな。運ぶのは構わないが、大丈夫なのか?』


 姿は見せずとも、話は聞いていたと? なんとも気の利くやつだよ、お前は。


『ルーが困難という程だ。俺を含め、他の連中では同調は暫く無理だろうぜ』


「うむ、儂は実態があるゆえ無理も利かぬしの。ルーですら制御を誤るほどなのじゃ、無理はせぬ方が良いかの」


「ですが、慣れておく必要はあるかと。今回は数時間継続しましたが、短時間での訓練は必要でしょう」


「訓練しないとダメなの? かなり辛いんだけど」


「その辛さを克服するための訓練なのですよ、ご主人様!

 私も今回が初めてで上手く出来ないことばかりでした。反省すると共に今後の訓練に生かせるよう努力します」


 魔力制御能力に長けるルーが困難を極めた同調と分離。次点で魔力制御に長けるのは夜霧かガイアだろうけど、それはそれで当然のように難しいのだろうと思われる。

 地道に続けている魔法の訓練に同調の訓練も組み込むことが、半ば確定した瞬間かもしれない。


「訓練するにしても毎日は無理だよ? こんなに大量の魔力を持っていかれるとなると、ね」


「旦那様であれば、一晩で魔力も回復しようものかの」


『なら、三日に一度で良いんじゃねえか?』


「そうですね。ご主人様の体調を観つつ、適切に対応しましょう」


 僕の意見は蔑ろにされ、ジルヴェストの意見が導入されているのは何故だ?

 まあ、ルーが納得している時点で反論は意味を為さないから黙ってるけどさ。


『じゃあ、主、楽にしとけ。寝てても構わねえぞ、ちゃんと運んでやるからよ』

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