14.お肉三段活用
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
「どうした?霞」
「お兄ちゃん怒っちゃダメ!」
「だってなあ、ひどいだろう」
「大丈夫、霞が付いてるから…ね?」
「わかったよ」
霞が付いているからって、何がどうなることもないのだが我慢しよう。こういう時だけよく出来た妹だな、霞は。
今僕たちは、デニス爺の魔法具店に向かって歩いているところだ。もうすぐお昼時なので少し早足で移動している。
「お腹減ったね?」
「先にデニス爺の所だぞ、終わってからご飯にしような」
通りの端に出ている露天に目が釘付けだぞ、妹よ。
「露店で買い食いでもするか?それとも、どこか食堂にでも入るか?」
「お爺ちゃんの所に行った後?」
僕は大きく頷いた。
「お昼はお家で食べないと、メーシェさんに怒られちゃうよ?」
「でも、興味があるんだろう?さっきから露天ばかり見てるじゃないか」
フッフッフ、兄はちゃんと妹を観察しているのだよ。
「…3人分買って帰ればいいんだよ」
「じゃあ後で、買って帰ろうね。何にするか決めとけよ」
「やったー!」
お前の兄は妹に激甘なのだ。
「お爺ちゃ~んお待たせ~」
デニス爺の店に着いた早々、霞は店内に突っ込んでいった。本当にお腹がペコペコなのかな?
「おっ遅かったのぅ、待っておる間に綺麗に磨いておいたのじゃ」
本当にピカピカだ、飾り皿みたいになってるよ。
「これが代金の20ゴールドです、確認してください」
「………うむ、確かに。しかしお主ら金持ちじゃのぅ、ポンと払いおって」
「以前、予想外の仕事の報酬がありましてね。しかもまた増えそうなんです」
「あれじゃろ? ギネスの小倅の銅像じゃろ?」
「知ってたんですか、そうです」
「また増えるっちゅうことは、姉の方かの。忙しない姉弟じゃのぅあ奴ら」
「お察しの通りです」
「そこでじゃ!その盾を売り込んでくれんじゃろうか?それで儂もウハウハじゃ」
「これも使う予定ですし分りました、貸し一つとしましょう」
「ほう、侮れんやつじゃな。それじゃあ、くれぐれも宜しく頼むわい」
お主も悪よのぅ、ホッホッホって顔してるよデニス爺。それに、僕たちには特にデメリットの無い話だしね。
そうして購入した皿のような盾は、身に着けておくことにした。小さいけど持ち運ぶとなると、以外と邪魔なんだよね。
「また何かあれば、顔を出しますよ」
「用がなくとも顔ぐらい見せに来んかい、整備もするからのぅ」
僕は笑顔で返すと、デニス爺も悪人のような笑顔で応える。そういえば、霞はどこへ行った?
「霞、カスミー、どこだー?」
「ここだよ、お兄ちゃん」
何うぃしてるのかと思えば、手に持った万華鏡で必死に遊んでいたらしい。
「露天寄ってから帰るよ」
「あ!はーい、今行きます。それじゃあお爺ちゃん、またね~」
店を出て、リグさん宅への帰り道にある露店に寄ることにした。
「何にするか決めたのか?」
「お肉、お肉、お肉!」
お肉三段活用か? 腕を組み、う~んと唸りながら霞は選んでいるようだ。
「あれにしよう、分ければ3人分!お兄ちゃん行くよ」
あれ?霞の指先を追っていくと、デカい塊の肉を炭火で丸まま焼いている屋台があった。大きすぎないか?
張り切っている霞に腕を引かれていく。
「おじちゃん、3人分ください!」
「はいよー3人分な、75シルバーだ準備しときな」
一人前25シルバーね、中々のお値段なのか?思案しながら、霞にお金を渡す。
「霞、75シルバー落とすなよ」
「今日は客が少ないからな、これはオマケだ。75シルバーきっちり貰ったぜ」
「ありがとー、おじちゃん」
いや、うん、多過ぎないか?こんなに食べられないぞ普通。
竹のような素材で編んだ籠のようなものに、お肉がデデン!と載っている3人前って言ったのに6枚も載っている。
「良かったね、お兄ちゃん。早く帰ろう!」
良かったのか?食べ残すのは勿体ないだろう…残すなよな。
霞はルンルン気分なのだろう足取りが軽い、僕は見ているだけで胃がもたれそうだ。
まぁいい、冷めないうちに帰ろう。
結局、お昼だけではお肉を食べ切れず、夕食にも登場するハメになってしまった。




