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12.デニス爺のお皿

 冒険者ギルドで斡旋された仕事は多岐にわたった、倉庫の改築に伴う荷物の運び出し・広いお屋敷の草毟り・ガイドの付かない薬草採取・廃屋の解体等々、色々な仕事を斡旋してもらったのだが稼いだ金額はというと、全て含めても1ゴールドに届くかどうかだ。

 報酬を貰いつつ、買い物をしたりでやっと金銭の単位が理解出来てきた。100カッパー=1シルバー、1,000シルバー=1ゴールドだ。


 今にして思うが、ギネス像の謝礼は異常に破格なのだ。冒険者は副業にして、彫刻家になった方が良さそな気がする。しかし問題がひとつあるのだ、彫刻家になると霞の仕事がなくなってしまう。

 何もしない霞に贅沢をさせるのは兄としてはありなのだが、本人が納得しないのだ「何かやりたい!」と。

 だから僕たちはこれからも冒険者なのだ、たぶん。


 謝礼の残りと冒険者ギルドの依頼の報酬467ゴールド、これは冒険者ギルドにある為替とかいう銀行みたいなシステムに預けた。このシステムは簡単に言えばATMだ。冒険者ギルドには通信の魔道具というものがあって、本部及び各支部で口座を管理できるそうだ。別に電子化されている訳でもなく人の手に委ねられているのだが、まあそんな感じだ。

 大金持って歩くのは、さすがに危ないからね。アニタおばちゃんに勧められるままお願いした形だ、冒険者登録証で一元管理できるんだってさ。

 


 今日はこれからデニス爺さんの所へ行く。今朝方、デニス爺さんからの知らせという子供が手紙を持ってきた。近所の子供だそうで、お菓子で雇われたとのこと。

 例の盾だか杖だか分からないヤツが出来上がったそうで、買いに来いと書いてあった。売る気満々だ。


 店の前に着くと、デニス爺がのっそりと顔を出した。何というか悪い笑みを浮かべている、悪の魔法使いだ。


「よし来たな小僧ども、早く入れ工房へ行くぞ」

「おはようございます。早く見てみたいですね」

「期待しておれ、自信作じゃてな」

 早く見せたくて仕方がない!といった感じだ、挨拶をしてそそくさと工房へ向かう。


「これじゃ!……こうして腕に嵌めるのじゃ、いちいち手に持つのも煩わしかろうっと思ってのぅ」

 デニス爺は盾というか腕輪?を僕の左の手首辺りに嵌めた。大きさは、メインディッシュが載るような丸いお皿といった感じだった。

 デニス爺は、霞の腕にも同じように盾を嵌めていた。

「盾を意識してみろ、力を貯めるようにじゃ」

 僕はお皿に集中する。あ! 盾か。

「そうじゃ、そうなると魔力が溜まっておる証拠じゃ。ここでも問題ないような精霊を呼んでみい」

「問題が無さそうなのは……おいで、スノーマン」

 ぐん!と気温が一気に下がった、いつもより寒い下がり過ぎている気がする。


『よんだ~』「ああ、うん、久しぶりだね」

 スノーマンは瞬時に顕現した。

「魔力を溜めると、こんなに早く顕現するんだね」

『ほんとだー、びっくりだねー』

 僕とスノーマンは共に驚いていた。


「お兄ちゃん、お爺ちゃんが凍ってるよ!」

 あ! デニス爺がガタガタ震えていた。

「スノーマン呼んだだけで悪いけど、ここまででいいや」

『そうなの、じゃーねー』

 スノーマンどこかへ帰って行った。工房の温度が緩やかに戻ってくる、デニス爺は凍死してないか?

 霞は?と見ると火の精霊に温めてもらっていたようだ、鬼火みたいのが霞の周りに浮いている。ちゃっかりしてるな。


「死ぬかと思ったわい! しかし精霊か……初めて見たのぅ。して、どうじゃ儂の作品は?」

「凄い、すぐに精霊さんが集まって来たよ」

 霞に返答のタイミングを持っていかれた…。

「素晴らしいですよ、顕現する速度と威力が増しているようです」

 僕もすかさず答えた。



「では、お買い上げじゃな?」

 いやらしい笑顔を浮かべるデニス爺。

「でも、お高いんでしょう?……冗談です、買いますよ」

 実際高そうではあるんだけど、この性能だしね。

「1つ10ゴールド、20ゴールドでどうじゃ?」

 デニス爺は両手の指を使い、計算していた様だがそう答えた。想像よりずっと高かった、でも妥当なのだろう。

「では、冒険者ギルドでお金を降ろしてくるので、昼過ぎくらいにまた来ます」

「おうそうか、では待って居るわ」

 僕と霞はお皿を外して、置くと冒険者ギルドに向かって歩き出した。

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