118.温泉郷ミュニレシア-6
「こちらが領主からのもの、こちらが駐留軍からのもの、そしてこちらが当冒険者ギルド支部よりの報酬と魔獣の買取料金になります。ご確認願います」
ここはミュニレシア冒険者ギルド支部の執務室。そこにある応接セットに集った支部長と補佐、迎えられる形で席に着いた僕と霞。椅子が足りないので精霊と鬼は立ったまま。
「グスマレヌさん。えーと、その、これ、多過ぎではないですかね?」
僕たちが討伐に参加していた日数は一週間程度に過ぎない。それなのにこんな金貨の山を頂戴するというのは、気が引けてしまう。
魔獣の討伐数を考慮すれば、僕たちは軍や他の冒険者を圧倒するだけの数を討伐しているのだろうけど。それにしたって貰いすぎだ。
「グスマレヌは勿論のこと、軍や領主からも相当な活躍をされたのだと伺っております。これらはその成果を正当に評価したまでのこと、受け取って頂けなくては困ります」
えーと、何支部長だっけ? ああ、もう支部長だけでいいや。
支部長にまで念を押されてしまっているが、この金貨の量は異常だ。軍と領主からそれぞれ200枚ずつ、そして冒険者ギルドからはなんと870枚。金貨だけの合計でも1,270枚もあり、銀貨の枚数まで数える気にはなれなかった。
「お兄ちゃん、折角だから貰っておこうよ? その代わりにこの街でたくさん食料を買い込めばいいじゃん」
食料やら備品やらを買い込むとしても、精々20ゴールドもあればお釣りが来そうなんだけど……。多すぎる報酬に悩むのは久しぶり、贅沢な話だが僕は頭を抱えたいほどに苦しんでいるのだ。
「カスミさんの仰る通りに街にお金を落として頂けるとならば、街の発展にも繋がりましょう。是非お受け取りください」
霞の言葉を好機ととったグスマレヌさんに、半ば強引に報酬を押し付けられてしまった。
「報酬の話はこれで終わりですが、お二人のランクアップ査定の報告が残っています」
「えっ、ランクアップってどういうことですか?」
寝耳に水もいいところだ!
ニールでギネスさんに強引にランクアップさせられた後は、魔王都でも何もなく平穏に過ごしてこれたというのに。
「本来であればあれだけの能力を示したアキラさんはランクSでも問題ないのでしょうが段階を経る必要もあり、またランクSに至っては私たちの権限で決定することは適いません」
「そこでミュニレシア冒険者支部 支部長の権限によりアキラ殿をランクB、カスミ殿をランクCへと昇級させることに決定した」
グスマレヌさんの説明を補足するかのように支部長が新たなランクを発表した。
だが、待ってほしい。高ランクの冒険者は確かニールのアニタおばちゃん曰く、国や冒険者ギルドの意向に左右されやすいとか……。
僕としては冒険者登録証が便利な身分証明書になるからと、割り切っていた部分がある。それが僕の都合に悪く作用するのであれば、冒険者を辞めるという選択肢を選ばざるを得なくなる。
「質問です、高ランクとされるのはどのランクからですか?」
「魔王都と近隣の都市を含む中央ではランクA以上を差し、それ以外の地方ではランクB以上が一般的に高ランクとされていますね」
これはマズい、非常にマズい。
「僕は冒険者稼業に拘りというものは特にないので、国や冒険者ギルドに必要以上に拘束されるのであれば、冒険者を辞めようと考えています。なので、ランクCに留めてはもらえませんか?」
なんとも独善的な考え方だとは思う。だけど、そうしないと自分たちの時間がなくなってしまいそうなのだ。それにやりたくもない仕事に従事するというのもね。
「そのことでしたら問題はありません。すでに本部に確認し了解も得ておりますが、お二人に関しての招集命令は本部の許可が無くては出せないものとなっているようです。あちらの補佐の話ではお二人は何やら特命を帯びているそうですし、心配する必要はないと考えられます」
本部の補佐ってティエリさんだよな? 特命って、まさかペトラさんのアイザック村で吐いた嘘が本部まで伝わってしまっているのか? 時間的に考えると、魔獣の肉と共に情報が流れたと考えるべきか。
ティエリさんがその嘘を肯定してくれたお陰で、僕たちは今後も自由に動けることが可能となった訳だ。余程のことが無ければティエリさんも強引に招集することは無いだろうから、ここはティエリさんの采配に甘えさせて貰うとしよう。
「それならそのランクアップで構いません。我儘を言って申し訳ないです」
「それでは登録の書き換えがありますので、カウンターの方へお越し願えますかな」
今日は全員揃って冒険者ギルド支部へと来ているため、ぞろぞろと大人数を連れて移動することとなった。
「グスマレヌさんが担当してくれるですね?」
「うちの支部もそれなりに賑わっておりますのでね。お待たせするのも失礼ですし」
僕と霞の冒険者証明タグをカウンターへと差し出し、更新を待つ。
待っている間に思い出したことがある。ペレのスキルを調べたいということを、だ。
「あの作業中に申し訳ないのですが、スキルの鑑定をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「スキルの鑑定ですか? それなら隣のカウンターへどうぞ。
ミルアくん、スキルの鑑定は出来るね」
初めてこの支部にやって来た時に僕たちを迎えてくれた、研修中という女性がスキルの鑑定をしてくれるそうだ。
「どなたの鑑定をなさいますか?」
「この子なんですけど」
ペレを呼び、カウンターの前へと進ませた。人化したペレは人間や魔族とそう変わらない姿をしている、夜霧のように角があったりはしないのだ。
だからだろうか、研修中の女性ミルアさんはペレが精霊だと気付いてはいない。
「はい、ここに手を翳してくださいね」
初めて僕たちがスキル鑑定を行った時と同じように、ペレは簡易的な小さな魔道具へと手を翳した。
「言語理解ですか? 研修中の身ではありますが、初めて目にするスキルですね。
他には、えっ、なにこれ? 補佐!」
ああ、やっぱりこうなったか……。
簡易的な魔道具では読み取れないスキルがあったのだろう、魔道具が赤く光っている。僕たちの時も同じような反応を示したので、よく覚えていた。
「お兄ちゃん、茜くんとマリンちゃんも見てもらっても良いかな?」
「いいよ。今日は特に用事もないから時間が掛かっても関係ないしね」
茜やマリンもペレと同様とはいかないだろうけど、面白いスキルを持っている可能性は否定できない。
そしてペレは僕の予想通りに『言語理解』スキルを持っていた。これでペレは完全に僕の生み出した精霊だと証明された訳だ。
「何事ですかね? ランクの更新は終わりましたので、先にこれをお渡ししますね。
えーと、この方は精霊ですよね。うーん、どうしましょうか?」
何を悩んでいるのだろうか? あのカウンター内の隅に置いてある大きな魔道具で鑑定してもらえれば終わるはずなのに。
「珍しいスキルをお持ちだというのは理解できるのですが、あの魔道具は冒険者のみにしか有効ではないのですよ」
「あっ、そういえば僕たちの時もプレートに書き出されたような……」
「そうなんです、冒険者登録の際に細かく調べるために用いられる魔道具でしてね」
そうか、盲点だったな。言語理解スキルの所持だけは確認できたので良しとするかな。
「必要な情報は得られましたので十分です。ミルアさんもご迷惑をお掛けしました」
研修中のミルアさんは、魔道具の発した赤い光にパニックとなってしまっていた。
詳細が不明なのは少し気になるけど、使えないというのなら諦めるしかない。
「あの、この子たちもその小さい魔道具で構わないので、スキルの鑑定をお願いします」
霞に背中を押され、茜とマリンがカウンターの前へと出てきた。
正気を取り戻したばかりのミルアさんには申し訳なかったと反省する。茜とマリンはレアスキルしか持っていないらしく、魔道具は最初から赤く光るだけだったのだ。
「私共としても興味はありますが、申し訳ありません」
グスマレヌさんの謝辞に僕と霞は恐縮するばかり。
「こちらこそ、何度も申し訳ないです」
「ごめんなさい」
ミルアさんに至ってはもう落ち着いたものだった。彼女の研修の役に立てたと思えば、少しだけ気は楽になるよね。
「それではまた御用があれば、いつでもお越しくださいね」
「何もなくとも、街を発つ前には挨拶に来ますよ」
魔獣討伐という大きなイベントも済んだのだし、冒険者ギルドへ来ることはまずないだろうと思うんだ。
報酬として得られたお金は全てATMに預け、僕たちは宿へと帰ることにした。




