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115.魔獣討伐-5

 ペレが来てから早くも五日が経過した。

 魔獣の討伐は順調そのもので、一日の討伐数は30匹を下回ることがない。日によっては33匹ほど討伐したこともあった。

 不足していたパンに関しても問題は解消された。ヒルダ大佐に相談したところ、討伐の成果が予想以上ということで、一日に必要な数のパンが無料で提供されることになったのだ。

 野菜に関しては残念ながら青菜は無かった。その代わりじゃがいもに似たハーシュという芋を、僕が余裕で入れる大きさの箱いっぱいに提供されることとなった。


 そしてもう一つ、大事なことがある。

 ミュニレシアの領主自らが討伐隊の前線基地に視察にやって来た。

 そこでヒルダ大佐は以前僕が提案した件を領主へと報告した。結果、食肉としての討伐数は激減することになる。

 その要因としては内臓まで美味しく食べられることと、運搬中に腐敗することが無くなったことが挙げられた。

 明日の討伐分からはもう食肉として流用する必要が無くなる。

 そう、纏めて殲滅出来ることになったのだ。


「お兄ちゃん、明日一日で片付きそう?」

「どうだろ、明後日まで掛かると考えてた方がいいかもよ? 一日は様子見が必要だろうからね」

『何言ってやがる、一匹も見逃しゃしねえよ』

 意気込みは素晴らしいジルヴェストだけども、どうしても漏れは出ると思うんだよね。

「それでどうやるのかの?」

「森も近くにあるし、土地を痛めるから炎は使えない。電気や氷も然りだな」

『ボクもおじちゃんの手伝いしたかったな~』

「あたしも駄目なのかよ」

 お前たちがジルヴェストと組むと碌なことにならないのは想像できる。そこまで派手にやるつもりは無い。

「結局はジルヴェストに任せることになる。やり方もお前に任せるが、なるべく土地には被害を出さないよう気を付けてくれよ」

『気を付けはするけどよ』

 心配だな……。

 多少大目に見るつもりは、ヒルダ大佐にも領主にもあるようだった。被害を皆無に抑えるというのは希望でしかないらしいのだ。それはそれで無理難題だと理解しているのだろう。

「最悪、生きたまま魔獣が飛んで行かなければ大丈夫だよ」

『トドメはちゃんと差すから、それは心配すんなって』

 ジルヴェストの広域殲滅能力を疑うつもりは毛頭ない。ただ、甚大な被害を齎しそうで怖いだけだ。



『おじちゃん、応援してるからね』

『ボクもー』

 幼少組のジルヴェストへの懐き方は半端ないな。オンディーヌも少しは見習ってほしい。

『おう、見てろよ!』

 亀の魔獣殲滅の当日を迎えた。ジルヴェストのやる気は十二分に漲っている。

 僕たちの後方にはヒルダ大佐と領主が揃って部下を引き連れ、見学へと訪れていた。


「アキラ、期待している」

 ヒルダ大佐は多くを語らず、一言で済ませてもらえたのはとても有り難い。

「精霊遣いの実力をこの目に焼き付けさせて頂きます」

 ミュニレシアの領主も女性だった。リエルザ様よりも遥かに若く、見た目だけなら霞と変わらない。でも魔族なので、僕や霞よりもずっと年上だろうけどさ。

 こちらも短い言葉のみで済ませてもらえたことに感謝する。

「僕たちより前には出ないで下さいね。巻き込まれる可能性もないとは言えませんから」

 間違いなく巻き込まれる。そして巻き込まれたら、切り刻まれてしまうのだ。


「ジルヴェスト、やってくれ」

『おうよ!』

 ジルヴェストは力を溜めているのか、動こうとしない。

 僕の後ろの人々、観客たちはそわそわし始めている。

 その時、大気が震えるのが分かった。


――ドンッ!

 体の芯にまで響く、打ち上げ花火が弾ける瞬間のような大きな音がした。

 目の前に居たはずのジルヴェストの姿は消え、その先に見えていた亀の魔獣たちが大気に圧し潰されるのがはっきりと目撃出来た。

 亀の魔獣たちを圧し潰した大気の塊は天へと昇っていく、それはその途中から超巨大な竜巻へと変貌を遂げた。

『ハッハッハッハッハッ』

 声、ジルヴェストの声だ。高笑いしてやがる。

 その声は精霊の声を理解できない後方の人々には、風切り音にでも聞こえるのだろうか?

 あの超巨大な竜巻そのものがジルヴェストなのだと、僕は瞬間的に察した。


 大気の塊に圧し潰された亀の魔獣たち、それとは別に圧し潰されることをまぬがれた残りの魔獣たちも、竜巻により天高く舞い上げられている。

 竜巻に吸い上げられ、天へと舞い上げれた魔獣たちを襲うのは風の刃。それも途切れることの無い竜巻が作り出した無数の刃。

 僕たちの目の前で風の刃は暴威を奮う。魔獣たちは断末魔を上げる暇などなく、あっという間に切り刻まれる。切られる瞬間など知覚出来はしないだろう、一瞬でだ。

 あの硬そうな甲羅までもが一瞬の内に細切れとなっているのだ。

『ハッハッハッハッハッ』

「楽しそうだな、ジルヴェスト」

「しかし、やり過ぎではないかの?」

 竜巻はいつしか、亀の魔獣の血の色で染まってしまっていた。

 しかし、ジルヴェストはその血すらも大地へと帰そうとはしない。


『主よ、海に捨ててくるぜ』

『ああ、任せる』

 竜巻は姿を変える。見上げるほど高くまで昇った竜巻は、暴風の球へと変化した。

 亀の魔獣の血の色をした暴風を宿す球、それはいつの間にやら僕たちの視界の中から消えて無くなった。

 亀の魔獣が大量に存在していた大地に残されたのは、最初の一撃に因る大きな窪みだけ。亀の魔獣の姿はその一匹ですら、見付けることは出来なかった。


 僕は振り返る、あれを見ていた人々はどう感じたのだろう? と。

 うん、予想通りだ。

 この姿ももう見慣れてしまったな。

 口をあんぐりと開けたまま、皆は固まってしまっている。彼女らが現実に帰ってくるのが先か、ジルヴェストがここへ帰って来るのが先か、果たしてどちらだろう?


『魚が喜んで食ってたぜ』

「ご苦労さん、亀の魔獣は全て魚の餌になったか」

『おじちゃん、すごかったー』

『すごーい!』

 妙な刺激を受けて、暴れ出したりしないよな? ああ、心配だ。

 ジルヴェストはイフリータとスノーマンに纏わり付かれ、困惑気味だ。

 それにしても魔獣の血まで持って行くとはね、そこまでは僕も考慮していなかったよ。


「ジルヴェストちゃん、凄いね」

「うむ、やり過ぎかと思うたが綺麗さっぱりじゃの」

『よくやったのじゃ』

『当然だぜ、俺様だからな』

「そこで調子に乗るのもジルヴェストらしいですね」

 霞や精霊たちからの賛辞を受けるジルヴェストは恥ずかし気にしていた。


 そろそろ戻ってきてくれないかな? ここで待ちぼうけというのも辛い。

「アキラ、終わったのか?」

「はい、魔獣の残骸は海で魚の餌になったそうですよ」

「そ、そうか、ご苦労だったな」

 一番最初に正気へ戻ったヒルダ大佐も一杯一杯のようだ。仕方がないかな、あれは僕でも衝撃的だったし。

「こんな所で突っ立ているのもなんですし、帰りませんか?」

「そうだな、そうしよう。お前たち! ……すまぬ、もう少しここで待機させてくれ」

 ヒルダ大佐と若干名以外はまだ動ける状態ではない様子。領主の方も無理みたいだね。


「とんでもないですね。会報にあったアキラさんを怒らせるなという記事は本当のことでしたか……、ギルドマスターの冗談か何かかと思っていましたよ」

 グスマレヌさんの言葉にショックを受けてしまう。クリスさん、一体記事に何を書いたんだ?

「あの街に戻ったら、その会報とやらをもう一度拝見させてもらっても構いませんかね?」

「勿論構いません。報酬のこともありますし、是非お越しください」

 事と次第では文句を言いに行かなくては。ヒルダ大佐に手紙を託す方が無難かな?


「精霊遣い様は本物でしたのですね。街へ戻り次第、我が屋敷へご招待します。是非ともお越しくださいませ」

「は、はい」

 面倒なことは嫌だけど、あれを見た後でそれは無いだろうな。それに資料探しの為の相談が出来るとしたら、やはり領主だろうからね。

 これはこれで良かったのか?

「では、リリィ様も後方へと戻りましょう。ここには監視の兵を残しますので問題はありませんよ」

「ええ、わかりました」

 リリィというのは名前だろうな、領主の名前は覚えたぞ。

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