114.魔獣討伐-4
「もう少し強めが良いかな? 次回から気を付けようか」
「はい、父さん」
試行錯誤の結果、流す電流の強さや量は大体決まった。
最初こそ直撃した雷で亀の魔獣が真っ黒焦げになったりはしたが、最終的には麻痺を引き起こすことに成功したのだ。
そして今は、食肉向けの討伐を再開したところである。
「今日一日は監督必要があるからね。茜は、走り込みなどの基礎訓練でもしていてもらえると助かるよ。もしルーの指導が必要なら、連れて行っても構わないぞ」
「はい、わかりました。あの、それとカスミ様から兄上を叔父上と呼ぶようにと伺っておりますが、如何いたしましょう?」
霞はペレの叔母さん呼ばわりに相当堪えたのだろう、茜に僕を叔父さんと意地でも呼ばせたいらしいな。
「今まで通りの方が良いな」
「では引き続き、兄上と呼ばせていただきます」
茜は頭の良い子だった。僕を不快にさせるような真似はしないのだ。
ルーを連れて行っても良いと告げたのに、遠慮をしているのか走り去ってしまった。
「スノーマンの代わりとして十分に役立っていますね」
「スノーマンほどの安定性はないが、初日だから仕方ないのかもな」
スノーマンは精神こそ子供のようではあるけど、魔法なのか魔力操作なのか分からないものの扱いは安定している。それに関してはイフリータにも同じことが言える。
茜とマリンが純粋な意味でオーガでないように、ペレも精霊としては少し劣るのかもしれない。これから先、鍛錬を重ね成長していく可能性もないとは言えないけどね。それはまた僕と霞にも当て嵌まることなのだろう。
スノーマンの代わりにペレを投入することで、討伐速度は若干遅くなるものと考えていた。
しかし予想は外れ、遅延は殆どなく昨日の午前中の討伐数とほぼ変わりはしなかった。
「父さん、夜霧さんに人化の魔法を教わっただけど、試してみても良い?」
また余計なことを教えたものだ。これ以上、食い扶持が増えるのは危険なんだぞ。まあ、今は良いけどさ。
「試してごらん」
こう答えるしかない。
ペレに実体はあるようでない。ルーと似たような感じになりそうだな。
ペレの魔法も夜霧のものと同様に、自身の持つ魔力色の膜を形成した。ペレの場合は黄色と水色と白色の三色がマーブルになった膜が出来上がっている。
ペレの体を覆う魔法の膜は徐々にその体へと貼りついて行く。体の大きさは一切変わらずに、体表面に流れていた電気のみが消え去り、膜は服となった。
どういう理屈か解らないが、ペレの魔法はこうなのだろう。夜霧を含めた他の精霊とは全く異なる魔法の作用である。
「出来た! これで父さんに触れても平気だね」
今までだって触れても平気だったんだよ? 少しバチバチしていたけど、それは見た目だけで何もなかったからね。
「ペレも食事が出来るようになったことだし、向こうへ行ってご飯を食べようか」
「はい」
今日の昼食は昨日と似ているけど、焼き肉だ。好きな部位を焼いて食べる、心臓も胃袋も用意されている。勿論、手足やお腹の肉もある。
好きなものを勝手に焼いて食えというスタイルだ。
昨日、唐辛子風味のガランの実で痛い目に遭った夜霧とルーは、塩味のみに徹するらしい。
「ここ暫く肉しか食ってないな。青菜が食べたくないか?」
「キャベツとか食べたいし、お肉包むのも良いけど、シュケーちゃんの次第だね」
「どうしたのですか?」
僕と霞で野菜をどうしようかと相談していると、ハチ軍曹がやって来た。
「野菜を食べたいなっと、ほら僕たちってお肉ばかりでしょ?」
「そう言われてみれば、そうですね。余りに美味しいので気が付きませんでした。
でもお野菜なら、本来の食事として支給される量であれば提供できるはずですよ?」
ああ、僕たちは朝しか兵士と同じ食事は摂っていないもんな。昼と夜の分であれば、支給してもらえるのか。
とはいえ、僕が食べたいのは新鮮な青菜なのだ。朝食に出てくる野菜なんて芋しか見たことがない。ハチ軍曹も善意から教えてくれているのだろうし、一度貰ってみるのも悪くはないかもな。
「夜の分は私が大尉に伝えて、貰ってきますね」
「お手数でしょうが、よろしくお願いします」
野菜に関する懸念は、これで一応解消される。もし駄目なら、シュケーにお願いしてみよう。
「お兄ちゃん、パンが無くなりそう」
「原因は分かるけど、予想よりもかなり早いな」
パンを買い足さなかったのは僕の責任だ。そもそもが討伐に何日も拘束されるとは考えていなかったからな。
「精霊たちには肉を食わせておけば大丈夫なはずだから、僕と霞に茜とマリンだけで大麦の粥を食べるとするか? 緊急事態だから言い聞かせれば、あいつらも聞くだろう」
最悪、命令という形にすれば聞くしかなくなる。なるべくなら平穏に収めたいところなのだが、今回ばかりは仕方がないね。
「……という訳で、お前たちは肉なら無制限に食って良いぞ。その代わり、僕と霞と茜とマリンは大麦を食べるからな」
『吾輩は肉の方が好みなので構わぬよ』
「儂もそれで良いの」
『妾は少し残念じゃが致し方ないのじゃ』
「大麦がどんなのか知らないけど、父さんの為なら我慢する」
「私には少し分けて頂けませんか? お肉よりそちらの方が……」
「協力に感謝するよ、それとルーの意見は却下だ」
ルーが少しゴネているはいるが、皆納得してくれた。
ということで僕は今、お粥を食べている。ルーが物欲しそうに、僕の眼前に佇んでいるが無視だ。それをしてしまうと他の精霊たちと差が出来てしまう。
「ルーよ、そのように見つめられては旦那様も食べ辛いじゃろうの。向こうで肉を食うのじゃ」
返事すらしないルーだが、夜霧の肩に乗り一緒にバーベキューセットの方へ去って行った。夜霧には気を遣わせたな、あとで礼を言っておかないと。
「ルー、いつまで拗ねてるんだ?」
「……拗ねてなどおりません」
拗ねてるじゃないか。
「お前たちと違って、僕は肉だけという訳にもいかないんだよ」
「それはわかっています」
なら、聞き分けて欲しいな。
参ったな。なんとかしたいけど、街まで行くにしても夜霧で半日は掛かってしまう。その間、討伐は滞ることになるしな。
やはり精霊たちには我慢してもらうしかない。
「私が街まで行って買って参ります」
「茜、気持ちは嬉しいけどな。お前は街に入るのに霞が共に居ないとマズいだろ?」
それに茜にパン屋と交渉が出来るとは考えにくい。そのままの値段で購入するとしても、大量に買う訳だし在庫とかの問題も出て来そうなものだ。
マイデル大尉かヒルダ大佐に直接相談してみるか、軍の備蓄を買い上げることが出来るかもしれない。無理かな?
ガイアたちの魔獣討伐は順調そのもので、僕が監督する必要も無さそうだった。
「もう良いです!」
逆切れかよ?
「アカネ、今日は少し魔力を用いて走ってみなさい」
「少しとはどの程度でしょう?」
「それはアカネに任せます。自分の魔力量で出来るだけ速く、そして長い間走れるように、です」
「はい、やってみます」
茜は魔力を全身へと延ばしているのだろうか、静かに集中している。
そして走り出した。
「速いな。僕もあの訓練やらなくて良いのか?」
「ご主人様では魔力量が多すぎて意味がありません」
ああ、そうなのね。




