113.新たな精霊-2
まず僕はスノーマンの抜けた穴を補うために、新たな精霊を呼んだ。
その精霊に求めたのは電気を操る力。それとシュケーと同等かそれ以上の精神年齢であること。
僕の願いは叶い、ペレが僕の元へ現れた。無事に顕現も果たして、今目の前に存在する。
僕の予想としては、霞の生み出した茜やマリンと同様な存在。僕が新たに生み出してしまった精霊がペレだ。
複数の魔力を持つ存在は在り得ないのだと、夜霧とルーは言う。ペレが複数の魔力を持っているのは、僕も確認している。これが一つ目の問題点。
ペレは人語を解している、その上で精霊たちとも意思疎通が出来ている。そして何より、ペレは日本語と思われる言語を普通に話している。これは後で確かめる必要があるが、言語理解スキルを持っている可能性を示唆する。これが二つ目の問題点だな。
二つ目の問題点を踏まえると、ペレが僕を『父さん』と呼ぶことの信憑性が増す。
そして一つ目の問題点までもが解決してしまう。
要するにペレは、僕の生み出した精霊で間違いないということになる。
「ありがとう霞、結論は出た」
霞の稼いでくれた短い時間で、僕は答えに辿り着くことが出来た。
「もうびっくりしちゃった。で、どういうことなの?」
「ペレは僕の知識をある程度持った、僕の子供だ。茜やマリンが霞の子供であるようにね。だからペレから見れば、霞は叔母さんなんだよ」
「やっぱり叔母さんであってるんだね、父さん」
結婚もしてないのに、相手もいないのに、子供が出来るという何とも不思議な状態である。しかもだ、ペレの容姿は僕と大差がない。
「じゃあ、茜くんとマリンちゃんからすると、お兄ちゃんは叔父さんなの?」
叔父さんと呼ばれることにはかなりの抵抗があるけど、叔父さんで間違いはないのだろう。
「……そうなる。それとペレの話す言葉は、多分だけど日本語だろう」
「ああ、やっぱり! なんか懐かしい感じがしたんだ。それにお兄ちゃんの言葉遣いによく似てるもんね」
そう言われてみると僕も父を父さんと呼ぶし、ジルヴェストみたいな話し方をしている気がする。なら、ペレは僕を真似ているということか。
「霞は仕事に戻って良いよ。僕は精霊たちに明日からの作戦を伝えないといけないからね」
「じゃ、がんばってね。お兄ちゃんとペレちゃん」
「はい、霞叔母さん」
叔母さんと呼ばれ、ガクッと肩を落とす霞。14歳で叔母さんは辛いな、茜は僕を兄上と呼ぶけどそれとは著しい差がある。
「あいつらの所に戻るぞ」
「はい、父さん」
僕もちょっと辛い。
他の精霊たちに僕とペレの関係を説明しておく。
「……ということで、ペレは僕の子供ということになる。夜霧を除いてだけど、お前たちも似たようなものだと僕は考えている。だから問題なくやっていけるよな?」
「改めて、よろしく」
当初とは異なる紹介となったので、ペレはもう一度頭を下げた。
「何故儂だけ除け者なのかの? 儂とて名を貰い、旦那様の魔力を貰っておるのじゃぞ?」
「夜霧は完全に実体を持ってこの世界に存在していたのだろ? そして僕から名前と魔力を得ても大して姿は変わってないだろ」
「私を含めた実体のほぼ無い精霊たちは、変異が顕著ですからね」
ルーの説明が一番分かり易いな。
そういえば、ルーって実体無いのに人化してるよな? 人化するのに半実体とか、本当は関係ないだろ。まあ、ルーのアレを人化と呼ぶのであれば、だけど。
「むむむ、それでも同じ扱いが良いの」
「わかったよ。それじゃ夜霧も僕の子供で、皆は僕の子供たちだ」
そうしてしまっても何も問題は無いし、その方が気楽で良いや。
「よーし、じゃあ、明日からの作戦を説明する。
ガイアとシュケーは変わらない、前と同じで亀の魔獣をひっくり返してもらう。
変更はスノーマンの代わりに入るペレだけだ。ペレはひっくり返された魔獣に加減した強さの電気を流し、魔獣を麻痺させてもらいたい。明日、何回か試して丁度良い強さを考えるとしよう。
その後はジルヴェストの担当、夜霧の運搬、オンディーヌとイフリータの洗浄・乾燥という流れだな」
「ペレの初陣ですね」
「ああ、ルーの言う通り、ペレの初陣となるな」
作戦会議は早々に終わってしまった。
『ボクだけ、つまんない!』
「スノーマンには大事な仕事があるんだぞ? お前にしか出来ないんだ」
『ボクだけ?』
「そうだ、スノーマンにしか出来ない、大切な仕事だぞ」
落ち込んでいたスノーマンにやる気が満ちて来た。
特にやることの無い精霊たちをゾロゾロと引き連れ、霞の元へと歩いていく。
「霞、何か手伝うことがあるなら、適当に引き抜いてくれて構わないぞ」
「じゃあ、ジルヴェストちゃんとオンディーヌちゃんと夜霧ちゃんにイフリータちゃん、それとガイアちゃんを借りるよ」
半数以上引き抜かれて残ったのはペレとシュケーとルー、スノーマンは用事があるから別だ。
夜霧が亀の魔獣を運んでいたという場所に着いた。兵站の責任者であるマイデル大尉が指示を飛ばしている姿を見て取れる。
「来てくれたのかい? 助かるよ」
「それで、どのようにしましょうか?」
打ち合わせなどは一切していない。ただここへ来てくれと言われただけなのだ。
「街への運搬は馬と人力が主力となる。若干名は魔法も使えるが、そう長くも持たないからな。なるべく軽くできないだろうか?」
難しいことを要求してくるものだ。
「ミュニレシアまでは何日掛かりますか? それも考えないと途中で溶けてしまってもマズいですよね」
「荷車なので速度は出ない。十日は掛からないとしても八日程は見ておきたいところだ」
うーん、どうしたものか? 軽くというのが問題だよな、重量を気にしないなら溶けない氷は簡単に作れるんだけど。溶けない氷は密度が高いので、見た目よりも遥かに重くなってしまうんだ。
「軽く、軽くねえ……。こういうのはどうでしょう?」
転がっている石を拾い、地面に絵を描いていく。分かり易く立体図とした。
「中を中空にして魔獣の体を収め、その周囲をそれなりの厚さにはなってしまいますけど、氷で覆うというのは?」
要は中抜きだ。これだけでもかなり重量を抑えれると思う。
「荷車を用意させる。実際に運ぶ兵も手配してしまおう」
実際にやってみるしかない。試行錯誤するしかないだろう?
その後、色々な氷の器を作り、実際に荷車に載せて短い距離ではあるが動かしてみた。
その甲斐あってか、運びやすい形態が判明したのだった。
「今までに比べると重さは仕方ないとしても、かなり楽に運べると思います」
僕たちが来る前はどのように運んでいたかというと、部位ごとに別けて運んでいたらしい。それだと何往復も必要で大変なんだとか。
でもあと500匹は居るからね。以前と似たように複数回往復し、更に重さが増している分、大変さもそれに比例するはずなんだけど。
僕が首を捻っているとそれを察したのか、若い冒険者風の男性が僕に言った。
「問題ないんですよ。街から運搬専門の連中がやって来るそうです」
だから、この人たちは気楽なのか? 500という数はその人たちが来たところで解決するような数ではないと、僕には思えるんだけどな。
知らぬが仏というやつだろう。マイデル大尉もそこら辺は把握しているはずだし、余計なことは言わないでおこう。
「スノーマンの仕事は明日からこれになる。たまに様子を見に来るからな」
『うん、任せて!』
一時はどうなるかと思ったけど、やる気を出してくれたならそれで良い。




