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111.ルー先生の魔法講座-2

「ご主人様、私の指示と違う意思を込めましたね? 込めましたよね?」

「はい」

 もっと速く、もっと力強くと願ったのは失敗だった。制御不能に陥って、オンディーヌの所から戻る距離の三倍に近い距離を走り抜けてしまった。

「アカネ、先程のご主人様は悪い例です。力を求めたが故、自らの感覚で制御できなくなったのでしょう。今回はただ走るだけでしたが、これがもし戦闘中であれば大変なことになるのですからね!」

「はい、ルー先生」

 項垂れる僕を横目に、茜はルーに従順な生徒となっていた。

 力を得ると試してみたくなるのは、世の常だよ。仕方ないんだよ!

 と思うけど、流石にそれを口に出来ないことは分かる。


「今回は運良く悪い例も見れたので良かったですが、次からはしっかりと指示に従ってくださいね!

 これで身体強化の魔力操作の訓練は終わりです。あとは込める意思そのものと加減の調整ですが、それは自主訓練で慣らして行くしかありません」

「要するに応用するにしても、慣れるしかないと?」

「その通りです、ご主人様。ああ、警告を忘れておりました。

 ご主人様やアカネは強化し過ぎないことを念頭においてください。実体を持つ生物には限界がありますからね、体が壊れて死に至るとも考えられます。私のような精霊であれば、その限りではありませんが」

 もっと早く、最初に言ってくれよ。

 まあ、僕が戦闘の中に身を置くことは稀だろうから、まず使わないと思うけど。茜には絶対に気を付けて欲しいな。


「茜はまだ子供だろ? 魔法の訓練も大事だが、基礎体力の向上にも努めた方が良くないか?」

「それは当然です。基礎能力が高ければ、強化を弱めることが可能ですからね。

 アカネには魔法を用いない訓練も必要です。この辺りを走り込むのも良いでしょう」

「はい」

 茜は元気よく走っていった。魔法は使っていない、馬鹿みたいな速度は出ていないからね。

「ご主人様は特に強化には気を付けませんと、内包している魔力量が莫大なので細かい調整が難しいと考えられます」

「だから、ああなったのか」

 僕は細かい作業とか割と好きなんだけど、魔法に限っては難しいのかもしれないな。


 亀の魔獣を運び戻って来た夜霧が僕とルーの真上を飛んで行く。

『旦那様よ、魔力に揺らぎがあったが大丈夫かえ?』

 そんなことまで判るのかよ。

『なーに、ルーに魔力の使い方を茜と一緒に教わってたんだ』

『なら平気そうじゃの』

 下手すると死んでたかもしれないのは、秘密にしておこう。心配を掛けたくないもんな。

『今、何匹目だ?』

『九匹運んだの、次で十匹目かの』

 昨日のペースより早いな、一日の討伐数を上方修正した方が良さそうだ。

『あと二匹、キリの良いところで昼飯にするぞ』

『うむ、先の連中にも知らせてほしいの』

『ああ、分かってる』

 夜霧との会話を終え、ガイアを呼ぶ。

『ガイア、あと二匹で昼飯にするけど、どうだ?』

『承知した、昼食楽しみである』

 まったく、もう。


「茜はどの辺りだ?」

「あそこです」

 ルーは茜の位置を指し示す。

「あと二匹で飯にするから、迎えにいくぞ。僕とは繋がりがないから、呼べないのが面倒だな」

「それは仕方ありませんよ。そういった魔法もあるようですが、私は使えませんし」

 あるんだ? まあ、あるんだろうな、こんな世界だし。

 茜を見失わないように、先回りして捕まえに行こう。


 夜霧の背に乗り、前線基地へと戻って来た。茜も無事に連れている。

「儂は獲物を置いてから戻るでの、食事の支度を頼むの」

「手間だが、よろしくな」

 どこに置くのか知らないが、僕が知る必要もなさそうだし気にしないでおく。

「お兄ちゃん、お肉の準備は出来てるよ。バーベキューセットの準備だけお願いね」

 魔獣を捌き、食べ易い大きさにカットしてあるということで良さそうだ。

「もう慣れたバーベキューの支度だ。説明しなくても平気だよな?」

『吾輩に任されよ』

 殆どが食べることに興味津々のガイアの仕事になる。だからこそ、問題は無いだろうさ。


「午前の討伐、ご苦労様です。昨晩とはまた異なる料理と伺っておりますが、どのようになるのか楽しみです」

 マイデル大尉だっけ? 霞は何も説明していないようだった。

「私はカスミ殿の補助をしている時にお聞きしましたよ。お昼は内臓を焼いて食べるというお話しでした。内臓を食べるというのは初めてなので、そのお味には興味があります」

 ハチ軍曹という女性はコックさんのような服を着ているので、まず間違いなく調理担当の方だろうな。


「ご主人様、ヨギリも戻り、準備は整ったようです」

「わかった。お二人もどうぞ一緒に」

 見ているだけと思われるマイデル大尉は置いておいても、手伝いをしてくれたであろうハチ軍曹には食べる権利は十分にある。

「お塩と辛子だけだけど、タレ作ったからつけて食べてね」

 霞が作ったというタレは真っ赤だった。これはかなり辛そうだ。

「これはそのタレに漬け込んであるのか?」

「うん、これは胃袋だね。心臓はお塩だけの方が美味しいかもよ?」

 この表現は、しっかりと味見を済ませている証拠だな。

 お肉マニアの霞の意見だ、その辺は信用できるだろう。


「ちゃんと焼いて、火の通りを確認してから食べるんだよ。いいねー」

 亀だからな、しっかりと中まで火を通さないと食べる気は起きないよ。

 ガイアは随分と張り切ったようで、バーベキュー用の網は畳で二畳分くらいの大きさがあった。

「儂はこのタレとやらが付いたのを焼くのじゃ」

「僕はまず塩で食べる心臓からだな」

 先にタレの胃袋を食べると舌がマヒしてしまいそうだ。だって、辛そうなんだもの。

 片面を良ーく焼いてからひっくり返して、またじっくりと焼けるのを待つ。

「こんなもんだろ。……うん、旨い!」

 歯応えが良く、味も素晴らしい。それでもこればかりだと顎が疲れてしまいそうだ。そして霞の言う通り、こいつには塩だけの方が合っている気がする。

「ご主人様、噛み切れません。細かく切ってください」

「それこそ身体強化じゃ駄目なのか?」

「それでは食べた心地がしませんよ」

 そういうもんかねえ? 良いところに気が付いたと思ったのにな。

 霞にルーの焼いた肉を渡し、細かく刻んでもらった。


「これは酒に合いそうですな」

「私のテントに酒はありますが、昼間からという訳には……。惜しいですね」

 グスマレヌさんとマイデル大尉は、どうやらお酒が欲しくなったらしい。確かにお酒を飲む人たちが好きそうなメニューだと思う。

「手足の肉よりも旨味が強いですね。これは驚きです」

 ハチ軍曹は真面目に味の研究に取り組んでいた。食べてる時くらい仕事から離れれば良いと思わなくもないけど、それが仕事ならしょうがないか。


「オンディーヌよ、水を貰えぬかの」

『ほれ、これで良いかえ?』

「すまぬの、辛いのじゃが止まらぬ旨さなのじゃ」

 夜霧には霞特製のタレは辛すぎたのか。相当辛いんだな、このタレ。

 少し怖いけど、僕もタレに漬け込んだ胃袋に挑戦しよう。

「ちょっとピリッとするけど、旨いな」

 夜霧が辛いものに慣れていないだけかも。

「絶妙な辛さでしょ? 作るの大変だったんだよ、マリンちゃんは激辛でも平気な顔してるし、ハチお姉ちゃんは辛いの駄目みたいだし」

「私、ガランの実は昔から苦手で申し訳ないです。でも、それは大尉に味見して頂きますので大丈夫ですよ」

 ああ、あの餃子みたいな唐辛子はガランの実っていうのね。ハチ軍曹、自分で食べられなくても評価する気はあるみたい。

『なんじゃ、お主もか? ほれ、この水で口を洗うが良いのじゃ』

「はー、はー、助かります、オンディーヌ」

 オンディーヌとガイアは平気な顔で食べているのに対し、夜霧とルーにはこの辛みは駄目なようだな。

 ガイアは物凄いペースで食べている。生焼けっぽいから心配だが、あいつの体だし平気なような気もする。

 なくなることを心配する必要な無さそうだけど、僕も食べることに専念しようかな。

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