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110.ルー先生の魔法講座-1

 朝食は兵士さんたちと同様の学校給食みたいに並んで受け取り、適当な場所に座って食べた。昨晩のご飯は美味しかったけど、朝から食べるには重すぎて辛いからね。

 雑炊が残るようであれば、朝ごはんとしても良かったけど、残念ながら食べ尽くしてしまったのだ。


 食後にモカル少佐が僕達の元を訪れ、マイデル大尉とハチ軍曹という二人を紹介された。マイデル大尉は部隊に於ける兵站の責任者だそうで、ハチ軍曹は調理を担当されているそうだ。

 調理に関しては霞に一任しているので、二人のこともその中に含めてしまおう。

 今日のお昼は昨晩話した通り、心臓と胃しかないけどホルモン焼きになる予定だ。本当は腸も食べてみたいところだけど、処理の仕方が分からないのでは仕方がないので我慢しよう。


 今日から僕率いる精霊たちは、本格的な討伐を開始する。あくまで食肉として提供する為の討伐なので、数は稼げそうにない。

 それでも正面を相手取っている正規軍と冒険者に比べれば、十分な討伐数となるだろうね。

「昨日と同様の手順でやっていこう」

「お兄ちゃん、茜くんも連れて行って」

「何しに連れて行くんだ? こう言っちゃなんだが、やらせることなんて無いぞ」

 連れて行くのは構わないけど、戦闘も片付けも精霊任せで参考にならないと思われる。第一、茜に魔法が使えるとは思えなかった。

「見学させてあげて、必要ならお兄ちゃんの手伝いをさせて良いから。マリンちゃんには私の手伝いをしてもらうの」

「兄上、よろしくお願いします」

 頭を下げられてまで駄目とは言えない。仕方なく、連れて行くことにした。

 人化を解き本来の姿をとった夜霧に乗り、左翼の最前線へと向かう。


「では、始めよう。ガイアとシュケー、よろしく頼むな」

 昨日と同じ手順、ガイアとシュケーでまずは亀の魔獣を逆さにひっくり返してもらう。

「次、スノーマンとジルヴェスト」

 スノーマンは昨晩の内に見つけておいて良かった。下手をすれば、この場に居なかった恐れもある。

 スノーマンには亀の甲羅と地面を凍結させて固定してもらい、ジルヴェストが身動きの取れなくなった亀の魔獣の四股を切り裂く。

 ここまでを終えたら、戦闘組は次の獲物へと取り掛かってもらう。


 しばらく待ち、失血死した亀の魔獣は夜霧が前線基地へと運ぶ。

 夜霧が運び出した亀の魔獣が大地へと残した痕跡である血液、その洗浄と乾燥がオンディーヌとイフリータの仕事となる。

「運ぶかの」

『早く退けるのじゃ』

『おばちゃん、はやくあらって~』

 夜霧をオンディーヌが煽り、オンディーヌをイフリータが煽る。喧嘩しないで仲良くやれよな。


「茜はどうするかな?」

「通常のオーガは魔力で身体能力を向上させることが出来ると思われますが……。彼はどうなのでしょう?」

「どうなんだ、茜?」

「やり方がわかりません」

「僕は茜はオーガではないと思うんだよね。

 その見た目から僕たちの世界の昔話に頻繁に出てくる、鬼という種族だと思うんだ」

 茜はこの世界の法則こそ守ってはいるようだけど、オーガではなく霞によって生み出された鬼なのだ。それにまだ子供でしかない。


「僕の場合は精霊たちに語り掛けることで、意思の疎通を図るだけだからな。身体強化的な魔法の使い方は分からないし、教えようがない。

 ルー、お前が茜の先生になって教えることは出来るか?」

「私がですか? どうでしょう、簡単な魔力の操り方であれば教えられるでしょうけど」

 出来るなら、僕も一緒に教わりたい。僕は基本的な魔法の使い方も知らないのだから。

「お前次第なんだけど、僕も一緒にご教授願いたいね」

「ご主人様にも教えるのですか! わかりました、やります」

 急にやる気になったぞ、こいつ。


 それから時々戦況を観ながらだけど、僕と茜はルーに魔力操作や簡単な魔法を教えてもらっていた。

「ではまず、自分の中にある魔力を感じ取ることから始めましょう。

 ええと、ご主人様であればお腹の辺りを、アカネは胸の辺りですね。その辺りに意識を集中し、探ってみましょうか」

 ルーは僕と茜をじっと観察し、腹や胸を指定してきた。

 僕には夜霧に借りている眼があるので、魔力の源は掴めてはいる。それに対し茜は、頭の上に疑問符を浮かべているかのような表情である。

「確かに何か良く分からない塊みたいなものがある気がするよ」

「ご主人様の魔力量は莫大ですから分かり易いでしょう。アカネも決して少なくはない量を内包していますから、必ず感じ取れるはずです」

 茜は首を傾げつつも、何かを捉えたようで目を丸くした。

「この少し温かい丸いものが魔力でしょうか?」

「今、右手の下にある丸いものがそうですよ」

 やるじゃないか茜、僕みたいに反則を犯してはいない。


「では、それを動かしてみましょう。動くものだと考え、それを望むのです。

 ちなみに私たち精霊は魔力の塊ですから、そうすることで体を動かしているのですよ」

 例えがとても分かりにくいよ。だが、動くものと考えなければ、動かないのかもしれない。要は先入観を払拭しろということだろうか。

 難しいな、ちょっと茜の様子でも……。

「アカネは出来ていますね、問題はご主人様です。全く動いていませんよ?」

 ルーも魔力が見えるっぽいな、こいつの場合は見通すのか。

 動け、動け、ん? 盾に流し込む要領で掌に出してみるか。右手の掌を上に向け、そこへ魔力を溜めるつもりで。

「ご主人様! 体の中だけで動かすのです」

「難しいんだって」

「駄目です。出来るまで、許しませんよ。

 アカネは動かすことが出来ていますから、今度は全身へと魔力を延ばしていきましょうか?」

 早くも茜に置いて行かれている。

 それなら、外に出ないよう手の中に収める感じで、どうだ!

「及第点ですが、良いでしょう。次は、アカネのように延ばしてみてください」

 空中に踏ん反り返えっているルーに怒られながら、次の訓練へと移る。

 伸ばす、引き伸ばせば良いんだな。

「アカネはそれで良いでしょう、十分に出来ていますよ。ご主人様は呆けていないで、早くやってください」

 知ってはいたけど、ルーは性格がキツいわ。

 両の掌と足の裏に魔力を流すイメージで外には流さないっと。

「私の指示したやり方と若干違う気もしますが、まあ良いでしょう」

 バレてやがる。


「次に移りますよ。今度は全身に延ばした魔力に意思を伝えます。

 ……そうですね、『俊敏に』と『強靭に』としましょう」

「二つもか?」

「この二つが必要なのです!」

 まずは魔力を全身へと延ばすところから始める。延ばしたら、速くなる、強くなる。

「お二人とも意思が籠ったようです。では、あそこで作業をしているオンディーヌの所まで走ってください」

 なんだそりゃ?

 茜はルーの指示通り、すぐに走り出した。

「うわ、なんだあれ?」

「ご主人様もです!」

 ったく、うるさいなー。これ以上怒らせるとマズそうなので、僕も走ることにする。


 なんだこれ? 人間の走る速度じゃねえよ! 300m程離れていたオンディーヌの元へ僅か数秒で辿り着いてしまった。というか、通り過ぎてしまった。

『何をしておるのじゃ?』

「……こんなことが」

「ああ、びっくりした」

 オンディーヌの質問に答える暇など無く、現状を把握するので精一杯だった。

『到着したら、同じようにこちらへと戻ってきてくださいね。アカネにもそう伝えるように』

 少しだけ冷静になったところ、ルーが僕の頭の中へ話し掛けてきた。

「茜、ルーが今みたいに戻って来いとよ」

「わかりました」

「オンディーヌは気にするな、訓練をしているだけだから」

 帰りはもっと速くしてみよう。止まれないかもしれないけど、何とかなるだろ。

 茜と僕は静かに魔力を全身へと延ばし、再び茜の方が早く走り始めた。

 僕も魔力が全身へと行き渡ったのを確認し、もっと速く、力強くと意思を込め走り出した。すぐに何かの横を通り過ぎた気がするけど、そのまま行く。

 ルーの位置を確認しようと思ったら、既に通り過ぎていたらしい。やっとのことで止まると前方にルーの姿は無く、振り返ったかなり先にルーの存在を感じた。

 ちょっと疲れたから、歩いて戻ろう。

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