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108.亀の鍋-1

 人化したガイアはイケメンだ。

 その姿は、魔王都の冒険者ギルド本部でクリスさんの補佐を務めるティエリさんによく似ている。少しガタイの良く背の高いティエリさんといった感じである。

 顔の造りなど、完全にモデルとしたとしか思えない。でもさ、こういうのって普通、僕をモデルにするべきではないだろうか? いや、確かに、ティエリさんは良い家柄の御曹司でハンサムだよ……。


 そんなガイアも含めて、今は霞の調理した鍋を食している最中である。

「塩とヒルダお姉ちゃんに貰ったコレだけの味付けだけど、とっても美味しいね」

 討伐した魔獣の視察に訪れたヒルダ大佐とモカル少佐ではあったのだが、鍋料理に興味を惹かれたらしく、現在は共に亀鍋を囲んでいる。

「形は全然違うけど、唐辛子に似た感じだね」

 胡椒はもう無い。昨日のバーベキューを最後に使い切ってしまったのだ。

 塩だけというのもシンプルで美味しそうではあるが、調理担当の霞は納得できなかったようで、何か無いかと探していた。

 そこへ丁度視察へと出向いてきたヒルダ大佐により齎されたのが、この餃子の形をした唐辛子であった。


 街中ではアーミラさんの作る魔獣の肉を用いた料理は、とても美味しく僕のお腹を満足させてくれていた。しかし実際にその魔獣の姿を確認した今となっては、少しも抵抗がないとは言い難かった。父がすっぽんを食べた話を霞に説いた僕ではあるけどさ、亀を食べることに抵抗があるのはしょうがないよね? だって亀なんだよ?

 それでもパンだけで済ますという訳にもいかず、結局は恐る恐る口に入れることとなった。

 一度口に入れてしまえば、その美味しさに抵抗は薄れてしまう。美味しいのは知っていたが、まさかこれ程とは……。


「この亀のお肉はお鍋が大正解だったね。やっぱりお兄ちゃんは凄いね」

 何を言っているんだ、この女王様は?

「確かにそのような話を妹御にしておったの」

「ご主人様は流石です」

 何か僕の意図と異なる解釈をされている。でも僕は今、食べるのに忙しいから、もうそれでいいよ。


「この肉、ちょっと食感が違って旨いな」

 鳥の砂肝のような食感で歯応えがあり、また違った味が楽しめる。

「それはね、亀の心臓だと思うよ?」

 魔獣って魔力から発生する謎の生物だけど、当然のように内臓もしっかり存在するんだよね。心臓が存在するからこそ、血抜きが出来ているのは承知していたけど、不思議だよな。

「胃の中を見たけど、草しか入ってなかった。腸はやり方が分からいから手を出さなかったけど、胃袋は洗ってから入れてあるよ」

 草食だから、この肉は変な臭みがなくて美味しいのか。

 それと以前から魔獣は食べてはいるけど、肉ばかりで内臓を用いた料理は食べたことが無い。でも、牛や豚のように内臓もあるのだから食べられるはずなのだ。

 今回は霞のアイデアにより、こうして美味しく食べることが出来た。

「鍋にするというのは確かに僕の発想かもしれないけど、霞の方がお手柄だよ。内臓を食べるという着想は、霞の物なんだからね」

 僕にとって魔獣の内臓を食すというのは、盲点でしか無かったのだから。


「本当にこの料理は美味しいですよ。こんな形の土の鍋など初めて見ますが、理に適っていますね」

 保温性に優れる土鍋の有用性に気付いたらしい、グスマレヌさん。

「いやいや、そんなことよりもですな。この調理と食事を一遍に済ませられる、調理方法こそが一番の関心ですよ!」

 モカル少佐は鍋料理の簡易さに注目しているっぽい。

「確かに、これは一度兵站担当と話し合う必要があるな」

 ヒルダ大佐まで何か気になることでもあるらしい。

「そんな難しいことに気を取られていると、煮えている分が無くなってしまいますよ?」

「そうであったな」

 そうなのだ、うちには食いしん坊な精霊が居り、更に先程一名追加されたばかりなのだから。


「話は変わるのだが、あそこの御仁はどなたなのだ? 出来ればだがな、あの、紹介してはもらえぬだろうか」

「はっはっはっは、大佐にも漸く春が訪れたのですかな?」

「うるさい!」

 ゴン! という大きな音を後、モカル少佐は地に伏した。

 しかし、困ったぞ。ヒルダ大佐は先程からガイアの方をちらちら見て、気にしているような素振りをしていた。


「えーとですね、彼は僕の精霊なのですよ。ある程度実体を持つ精霊は、こうして人の形をとることが可能でですね」

 モデルとなっているであろうティエリさんが既婚なのか、未婚なのかを僕は知らない。それにティエリさんは魔王様の血縁で、ルイン家という名門の御曹司なんだよね。

「なんと精霊であったのか……」

 ヒルダ大佐は僕の言葉を聞くと、俯いてしまった。

「早速、夢破れましたな」

 モカル少佐、やめてあげて! ヒルダ大佐が沈んでいる時に追い打ちを掛けないで!

 このままではマズい。折角の美味しい食事が台無しだ。

「実はですね。ガイアのあの姿のモデルになっていると思われる方が存在するのですよ。

 その方は魔王都の冒険者ギルド本部でギルドマスターの補佐を務めている方なのですが……」

 ぱっと顔を上げたヒルダ大佐の表情は明るい。希望はまだ残っていると考えたのだろうか?

 僕はティエリさんの家がどうなっているのかさっぱり分からないけど、丸投げすることに決めた。

「ですから、魔王都に用事があれば一度訪ねられては如何ですか? 僕の紹介と言えば、必ず会えるはずですよ」

 ごめんなさいティエリさん、あとは任せます。頭の回転の速いティエリさんのことだ、難なく事を収めてくれるだろう。

「そ、そうか。この任務が完了次第、魔王都へ報告に向かう必要もある。その時に必ず!」

 ヒルダ大佐は拳を固く握りしめ、気合を入れているかのようだ。ティエリさん、本当にごめんなさい。


 気を取り直して、鍋に取り掛かろう。いっそ、忘れてしまおう。

「お兄ちゃん、ご飯粒欲しくない? お雑炊にしたい」

「でもなあ、この世界に米が存在するのか分からないしな」

 いや、ちょっと待て、何か忘れている気がする。

「あっ! シュケーちゃん! 前に薬草見つけてくれたよね?」

 それだ!

「シュケー! 頼みがある。霞、五円玉あるか?」

「ちょっと待って」

 霞はポーチの中の財布から、懐かしい日本の五円玉を取り出した。

「シュケー、この絵の植物なんだけど知らないか?」

 五円玉に描かれているのは稲穂。その稲穂を頼りに、シュケーに探してもらう。

『うーーーーん』

 唸るシュケーは木の幹の中に完全に隠れてしまった。何をしているのだろう?

『おばちゃん、お水たくさんほしい』

 シュケーがおばちゃんと呼ぶのは、オンディーヌのことだろう。

 判っているくせに返事すらしない、オンディーヌ。

「オンディーヌ、シュケーに水を頼む」

『むむむ、わかったのじゃ』

 オンディーヌはシュケーの周りに大きな水の球を三つ浮かべると、それを大地へと浸み込ませていった。

『ありがとう、おばちゃん』

『ババア呼ばわりするでない』

 お前は夜霧をババア呼ばわりしてるだろ?


 大量の水を与えられたシュケーとその周囲の大地が緑色の光を放ち始める。今は夕方で夕日が差しているが、その夕日さえ凌ぐほどの強い光を放っている。

「何事ですか?」

 光に気付き、鍋から離れこちらへとやってきたグスマレヌさん。

「ちょっと頼み事をしたので、その影響だと思います」

 実際は僕もよく分からない。

 光を放ち続けるシュケーと、オンディーヌから水を得た大地。

『主殿、シュケー殿は素晴らしい魔法の才をお持ちのようだ』

「これ、魔法なのか?」

 そう言われてみると、そのようにしか見えなくなるもんだ。


 尚も光を放ち続けるシュケーと周囲の大地に異変が訪れた。

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