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107.魔獣討伐-3

「あっ、いけね」

「どうなさったのですか?」

「いや~、ここの兵士さんや冒険者って夜霧の龍の姿を知らないじゃないか」

 戦場にいきなりあんな巨大で真っ黒な龍が姿を現したら、ね。大混乱とかなっていないだろうか?

「それはもうカスミ様とヨギリに任せるほかありませんね」

 もう既に亀の魔獣一匹を運んで行ってしまったのだから、今更どうしようもない。


『夜霧、そっちは大丈夫か?』

 呼べば通じるというお約束を思い出し、連絡を取ってみた。

『儂に多少驚いてはおったが特に問題はないかの』

 多少で済んだのか? 霞に直接繋ぐことが出来ないのが、煩わしいよな。

『なら、そっちは任せるぞ』

『うむ、これを置いたらすぐに戻るのじゃよ』

 夜霧は運搬が仕事だからな、前線基地との往復だけだ。


「問題は無いらしい。本当のところは分からないけど、夜霧はそう言っている」

「ご主人様は私たちをもう少し信用して頂きたいです」

 少し尖がった言い方をする、ルーだった。

 別に信用していない訳じゃないんだけど、感覚が異なるのが問題なんだよね。


『ガイア、五匹討伐したら一旦戻ろうか』

『了解』

 今は三匹目だ、五匹などすぐだろう。正面に展開しているという兵士や冒険者たちは、どのくらいのペースで討伐しているのだろうか?

「ご主人様。魔獣の数は五百を超えておりますが、いつまでここに滞在されるおつもりなのですか?」

「まだ五百以上も居るの? 街に肉が卸されているのを考えても、それなりに討伐しているはずなのに?」

『魔獣は魔力の塊から発生する』これはペトラさんの研究から得た確かな情報で、実際に目の当たりにもした事実だ。


「ルー、魔力が集中している場所。若しくはあの魔獣たちが進んで来る道の先を追えるか?」

 ルーは僕の後頭部から左肩へと移動し、目を瞑ると魔獣の方を向いた。

 目を閉じたまま、首を左右に動かして探しているのだろう。

「魔獣の発生源と目される魔力の高まりは存在しません。既に消費しきってしまったのではないでしょうか?」

「それなら、現在発生している分を全て討伐すれば終息するんだな」

 今も発生し続けていないだけマシか。でも、五百匹以上もまだ存在しているというのは手に余るよな。

 食肉とすることを考えなければ、ジルヴェストの最大火力で一気に終わらせることも可能なのではないだろうか? その場合の後始末は大変だろうけどな。

 今のペースは体感で一時間に四匹。一日どのくらい討伐に時間を割けるのか不明だけど、六時間としても二十四匹。僕たちだけでも二十日は必要となる。

「そんなに長い間ここに居る訳にもいかないな」

「どうなさるのです?」

 だからといって中途半端で良いという話でもない。折角参戦したのだから、綺麗さっぱり片付けたいのが心情というもの。

「難しいな、僕だけで結論は出せないよ」

 現場の責任者であるヒルダ大佐に相談してみるかな。


『終わったけどよ、次から次へとやってくるぜ?』

『他の魔獣はどうしてる?』

『避けて移動しているな』

『なら、今から向かう。合流しよう』

 五匹の討伐が早々に終わったという連絡がジルヴェストから齎された。

 オンディーヌとイフリータは三匹目の血の処理をしていて、夜霧はその三匹目を運んでいる途中だろう。


『あーるーじー、シュケー頑張ったよ?』

「偉いぞ、皆もよくやってくれた」

 本当によくやってくれている。

『主殿、魔獣の数が多過ぎではないか?』

「そのことなんだ。まだ五百は居るとルーから報告があった」

『面倒な方法でなければ、俺がやっちまうぜ?』

「それも考えてはいるよ、でも僕に決定権がないからね」

 魔獣の肉の美味しさが仇になっているよな。その肉に価値さえ無ければな。


 最後の一匹は夜霧に運搬を待ってもらい、オンディーヌとイフリータの作業を共に見守った。亀の魔獣を運ぶ夜霧の背に乗り、僕たちは前線基地へと戻って来た。

「夜霧もご苦労さん」

「運んでおるだけじゃしの」

 まあ、そう言うなよ。

「お兄ちゃん! ご飯の用意出来てるよ」

 まだ昼を少し過ぎた頃だと思うよ? 昼食を摂ってないから丁度良いけどさ。

「ちょっとヒルダ大佐と話をしてくるから、鍋とか大丈夫か?」

「鍋はガイアちゃんにお願いするの。火はイフリータちゃんね」

 ああ、食材の切り分けが済んでいるだけか。

「お前たちは霞の手伝いを頼むよ。僕は行ってくるね」

 ルーだけを連れて行くが、夜霧もオンディーヌもゴネなかった。食べ物の力って凄いね。


 最初に立ち寄ったテントを訪ねる。警備を担当している兵士さんにも咎められることなく、テントの中へと入った。

「アキラ、グスマレヌ殿の話通りに凄まじい成果だ」

「いえ、たった五匹ですし」

 なんだ? 何か話が噛み合っていない。

「何を言うか! 我々など一日に五頭が関の山なんだぞ」

 そういうことね。だが、それは大いに問題だな。

「それは困りましたね。こちらのルーの話では、まだ五百を超える数の魔獣が存在します。僕たちもずっとここに滞在するという訳には」

「危険な魔獣ではないが、我々だけでは対処しきれていないのも事実。今しばらく、力を貸してはくれまいか?」

 今日来たばかりなのに、今日帰るとは言わないよ? それでは余りにも横暴だからね。

「食肉とするものの数を限定して頂けませんかね? それでしたら、手加減抜きで一掃できるのですが」

「一掃? 五百という数のあの魔獣をですか?」

「グスマレヌ殿、アキラはエンシェントドラゴンすら従えるのです。可能でありましょう」

 夜霧の効果は絶大だな。最初は帰ってもらおうかと思ってたけど、仲間にして正解だったな。


「僕は街で調べものもあります。ここに滞在するのは、今日を含めて十日と考えてください」

 少し短めかもしれないけど、いや、十日は長いな。

「領主へ伝令を送り、急ぎ結論を出すように催促もしよう。食肉の処理をしなければ、我が兵も今より討伐数は稼げるだろうからな」

「お願いします」

 正直に言えば、現場を見て面倒になっただけなんだよな。

 自分達が食べる分なら気にならないけど、流通させる分まで処理を施すのは面倒だったのだ。それに伴い、それ相応に討伐速度も落ちるからさ。

 指揮官用のテントを出て、霞たちの元へと向かう。


 ノリがバーベキューの時と同じだな。こいつら、もう完全に食べる気満々だよ。

「見て、お兄ちゃん。ガイアちゃんが立派な土鍋を作ってくれたの」

 イメージでの会話が出来るからなのか、日本で冬に毎晩のようにお世話になった土鍋の姿がそこにはあった。

「よく出来てるな。あーっと、そうじゃなくて、ガイア人化しろ」

『吾輩もであるか?』

「そうだ。ガイアはシュケーを寄生させていた後遺症で、その体に栄養が足りていない。端部が脆いのはそのせいだろうさ」

 ガイアを構成している土は、既にスカスカでポロポロと崩れやすくなっている。

 一度帰してから呼び戻し再構成するのなら、食事で栄養補給をさせた方がお手軽だ。顕現の効果を考えなくて良いからね。

 それに男性型で人化出来るのはガイアだけなんだ。ガイアが加わっただけでは男女比は覆らないけど、今よりは多少マシになると思う。夜霧、オンディーヌ、ルーの姦しい女性型精霊を抑える役をガイアに担ってもらうのだ。


『ヨギリ殿、よろしいか?』

「うむ、飯を共に喰らおうではないか。ガイアよ」

 ガイアは今、夜霧に人化の魔法を教わっている最中だ。

『こうして、こうして、こうなると』

 ブツクサ言っているガイアだったが、人化の魔法は既に展開し始めている。夜霧のものに似てはいるけど、光り方が異なるように思える。

 魔法の膜が弾け、その中から人化したガイアが姿を現した。

「おおお、凄いな。完全に人間じゃないか、夜霧よりも精巧に出来ているぞ」

 もっとパペットぽくなるのかと思いきや、魔族のように魔力を垂れ流さない分人間にしか見えない。

『本当ですかな』

「悔しいがお主の方が、この魔法の適性が高かったようじゃの。自身で改変もしておったじゃろ」

 ブツブツ言っていたのは、それだったのか。

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