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102.討伐隊への合流-1

 一通りの説明を聞き終えた僕たちは冒険者ギルド支部を後にし、再びアーミラさんの宿屋へと帰ることにした。

「お兄ちゃん、私が夜霧ちゃんたちと行ってくるよ。お兄ちゃんは調べものをするんでしょ?」

「いいや、今回は僕も同行するよ。茜とマリンの戦力評価もしたいからね」

 勿論それだけではなく、精霊たちを霞に預けておくのも心配なのだ。ある程度は霞の言うことも聞くだろうけど、僕が居た方が良い気がするんだよね。


「あなたたち、もう戻って来たの?」

「ええ、事情が変りまして、魔獣の討伐に正式に参加するつもりです」

「そういう話だったわよね?」

 うーん、微妙に違うんだよな。どう説明したものか、難しい。

「まあ、そんな感じですね」

 説明に時間を取られるのが勿体ないので、そこはもう適当でもいいや。アーミラさんは部外者だから細かく説明する必要も無いだろう。

「で、数日留守にしますけど戻ってくる予定ではありますので心配しないでください。それと、一応10ゴールド置いて行きますね」

 この街にも宿にも戻ってくるつもりではあるが、どうなるかわからないので迷惑料も込みで宿代を支払っておくことにした。


「ちょっとこんな、多すぎるわよ! まだ一泊しかしていないのよ」

「それでは無事に帰って来たら、そのお金は返してもらいます。もし僕たちが戻らないようでしたら、お金はアーミラさんが受け取ってください」

「縁起でもないこと言わないの! 預かっておいてあげるから、ちゃんと帰って来なさいよね」

 アーミラさんはテンションの高さに反比例して人が良すぎる。もう少し欲をかいてもばちは当たらないと思うんだけど。

 受け取る、受け取らないは別にしてもお金を託すことには成功した。


「お兄ちゃん、荷物は全部持っていく?」

「ああ、そうしよう。何があるか分からないからな」

 持って来た荷物をそのまま持ち出すだけなので、大したことは無い。

「お姉ちゃん、お昼ご飯お願いしてもいい? 食べたら出発なんだ」

「そんなに急ぎなのかい? 待ってな、すぐ用意するよ」

 急な話なのに、アーミラさんは食事の準備をしてくれるそうだ。

 昼食は外で済ませた方が良かったな、今更遅いけどさ。


「簡単なものだけど、しっかり食べて行きな」

 全く以て簡易な料理などではない。手の込んだ煮物やスープが所狭しとテーブルを埋め尽くしている。

 両手を合わせ、いただきますをして食べ始める。こんなに感謝して食べるご飯は久しぶりだった。


 アーミラさんのご飯を鱈腹食べて、ちょっと体が重い。残すのが申し訳なくて、全部食べ切ったのだ。

 グスマレヌさんとの待ち合わせもあるので、いつまでも休んでいる場合ではないな。

「それでは行ってきます。お土産に魔獣のお肉を持って帰りますね」

「土産なんて気にしなくて良いから、ちゃんと帰って来るんだよ!」

 たった一日の付き合いしかないのに、ここまで心配してもらえるなんてな。嬉しいくて涙が出そうだ。

 一度挨拶を済ませた後は、振り返ることなく宿を後にした。


 街の外へ出る門の内側でグスマレヌさんを待つ。何時としっかり決めなかったことが原因だろうか、30分余りも待ちぼうけを食らってしまった。

「お待たせしましたかな? 外出の手続きは私の方でやりますよ」

 僕たちが早すぎたのか、それともグスマレヌさんが遅かったのかはイマイチわからないが、手続きをしてくれるだけでも十分すぎる。

 ここの兵士さんはそんなに厳しくはないけど、手続きが面倒なことには変わりはないのだ。

「北の応援に行ってくれるんだってな、よろしく頼むぜ」

 手続きを終えたグスマレヌさんと共に門を潜る際、兵士さん達に声を掛けられた。

 同僚の兵士さんが北へ布陣しているのかもしれない。皆、心配なのだろう。

 僕たちは口を開くことなく会釈だけで返し、街の外へと出た。


「ところで移動手段というのは、どちらでしょうか?」

「ここでは街に近過ぎるので、もう少し離れましょうか。壁を壊してしまっては大変ですし」

 移動手段が夜霧であることは伝えていない。恐らく僕の言葉の意味すら、理解できていないだろう。


「この辺で良いか、夜霧頼む」

「街に近いが良いのかの?」

「構わないさ、やってくれ」

 急ぎなのだ、街から観えない所まで歩く時間が勿体ない。

 夜霧が人化の魔法を解除する。不思議な色をした魔法の膜が徐々に膨らみ始め、そして弾けた。

 突然その場に現れ出でた巨大な龍を前に、グスマレヌさんは腰を抜かしてしまった。しかし時間が勿体ないので、僕たちがそれに構うことはない。

「驚いているところ申し訳ないですが、早くこちらへ来てくださいね」

「酷い、酷すぎるよ、お兄ちゃん」

「ゴ、ゴフッ、ゴッフォフォ」

 グスマレヌさんは驚きの余り言葉も出ずに、咳き込んでしまっていた。


 夜霧の首を登り、慣れ親しんだ背中へと座る。

「皆、乗り込んだかの?」

『うむ、木娘もちび共も大丈夫じゃ』

 こいつら、本当に仲良いよな。オンディーヌの掌返しが凄いけど。

「向かう方向はグスマレヌさんの指示を仰ぐ。グスマレヌさん、お願いしますね」

「は、はい。取り乱してしまい、すみません」

「それはしょうがないよ。私だって最初見たときは驚いたもん」

 霞も驚いたんだ? あの時、素っ気ない態度だったから平気なのかと思ってたよ。


「方向を指示してほしいの?」

 前方から聞こえてくる夜霧の声に、グスマレヌさんは困惑していた。

「夜霧が喋っているだけなので、気にしないでください。それより方向を」

「はい、北はあちらです。あちらの方角へお願いします」

 あちらと指さすグスマレヌさんの姿を、イメージで夜霧へと伝える。

「うむ、そちらじゃの」

「ルー、何か見えるか?」

「兵が展開している場所は真北という訳ではないでしょうし、もう少し近付かなければ判りませんね」

 そう言われてみると、そうだよな。

「とりあえず、あっちに行ってみよう。速度は控えめにな、通り過ぎたら大変だ」

「行くかの」

 軽い衝撃と共に夜霧が飛び立つ、街の上空へと上がり北の方角へ旋回するようだ。


「僕は昨日も冒険者ギルドを訪ねたのですが、こんな話は一切されませんでしたよ?」

「はははは、飛んでます、ね。ああ、すみません。

 研修中の娘と支部長が対応したと聞き及んでおります。お二人に出会えたことで興奮し、それどころでは無かったようです」

 空を飛ぶということに感動していたらしい。僕も初めて飛んだ時はそうだったので、気持ちは十分に理解できる。でも、もう慣れちゃったんだよね。

「大きな声では申せませんが、本部長も含め支部長は知名度を優先して選ばれますからね。仕事に向かない方が多いのですよ」

 それ、グスマレヌさんが言っちゃマズいでしょ? あっ、だから最初に断ったのか。あー、びっくりした。

 真面目な人かと思ったら冗談も言えるんだね、この人。

 本部長のクリスさん、ニールのギネスさん、ここの支部長は確かにそんな感じだよな。


「見つけました」

「そうか、それならルーに夜霧の誘導を任せるぞ」

「はい、ご主人様」

 ルーは北に展開ている兵士たちを発見できたようだ。これで間違いなく現地へとたどり着けることだろう。

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