奴隷を買うのも一苦労である
私が購入を検討するのは、借金奴隷の中でも『血』を売る性奴隷
下世話な話、種付け料を払って一定期間飼うので、返却可能な奴隷である。相性が合わず孕まなければ所有していても意味がないので、奴隷商人へと返品できるのだ。その期間の性奴隷の生活費は性奴隷自身の借金に加算される為、余計な金を使わない分、子ができなくとも種付け料は返還されることはない
何とびっくり、この仕組みはきちんと国が定めている法律だという
優秀な『血』の祝福を得た人間の保護という観念の元、繁殖目的以外の購入は禁止されているのだ。それが本当に順守されているかは知らぬがな!
「極端な話、奴隷商人のところから『通い』でもいいという事だろうか?」
「男性奴隷の場合はそれも可、でございます。女性奴隷は他の種混入を防ぐため、屋敷へと留め置かれるようですが」
そしてその性奴隷を気に入れば、さらに追加料金を払い身柄自体を買う事もできる。借金奴隷の証である首輪の『鍵』を買う……と言うらしい。こうなるとその性奴隷の身柄とその借金全てを買う事となり、かなりの高額となるそうだ
「そうだな、もし人格者でわが子の良き父親となってくれるのであれば、『鍵』の購入も検討しよう。資金はあるだろうか?」
「勿論です、姫さま。王妃陛下の贈って下さった支度金が、丸々残っておりますゆえ。ついでに王太子殿下から贈られていますものも、丸々」
と言うことは、公爵家の資金繰りは私個人の資産を使わずとも回っているのだなと感心する
「そうか……、あの夫モドキはやはり優秀なのだな。今まで私が苦労することはなかったぞ……」
そんな風に言うと、侍女はぷりぷりと怒りながら言う
「それは姫さまの日常生活レベルの値が、王族出身なのに低すぎるからでございますわ!!食事内容だって使用人と同じですし、ドレスも最低限、装飾品だって女公爵として最低限ですし、どこにも出かけませんし、変な収集癖もありませんし……」
「王城でのわずらわしさがない分、今の生活に不便はない。不満が無いといったら嘘になるが、好物である杏子ジャムを食べられるだけでいいのだ……」
こんな私でも王族だったので、毒見が用意した冷えた食事ばかり食べていたのである。好きなものが出てくる事は稀だったし、侍女が温かいものを用意いたしましょうかと言ってくれたが、彼女が叱責を受けクビにでもなったら私が困ると断っていた
お茶以外の温かいものなんて、臣下に下るまで食した事が無かったのだ
「……おいたわしや、姫さまは貧乏性なのです。向こうの品の無いド派手生活を見たら、どっちが王族なのかわかりませんわ!!」
「……」
侍女の言うド派手生活を向こうがおくれているというのであれば、やはり夫モドキは領地経営者として優秀なのではないかと思ったが、また怒られそうなので心の中にしまっておいた。そんな感じで話がわき道にそれてしまったのを、家令が先に進める
「で、姫さまはどのような『血』をお望みでしょうか?カタログによると『奏者の血』持ちの男、『智者の血』持ちの男、『騎士の血』持ち……は売れてしまったそうです。そもそも女性なので、姫さまには関係なかったですな」
「そうか。……で『智者の血』とはなんなのだ?王妃陛下の『賢者の血』と何か違いが?」
「それほど違いはありません、とカタログには記されております。奏者よりは姫さまのご希望に近いのではないでしょうかね」
確かに芸術系よりは頭脳系が望ましい。これは私が出向いて見極めなければいけないのかもしれない。見極められる目を私が持っているかどうかはともかく、持って生まれた性格の相性というものは重要だからな
目の前には育種家と自称する奴隷商人。派手派手しい応接間に通され、座りやすいがゴテゴテとした謎装飾過多なソファーをすすめられた。私と家令が座る前の椅子に奴隷商人が座り、その後ろに穏やかな笑みを浮かべた紳士が立っている。その首には奴隷だと一目でわかるように、首輪がはめられていた
とても身ぎれいな奴隷だ。というか性奴隷という性質上、身ぎれいにしているのは当たり前か
それにしてもまとう服はかなり上等なもの、高位貴族並みのオーダーメイド品に見える。夫モドキよりも良い衣装だ(もちろん私よりも、だ)。背も高いし、顔も美形すぎない高貴な雰囲気の好男子(個人の感想だぞ)。そんな風にじろじろ眺めていると、奴隷商人が話を進めてきた
「どうしますか、王女殿下。少しお話されてはいかがでしょうか?これは性技だけではなく、話術もなかなかのものですよ。殿下を退屈させないと思われますが、相性というものもありますし」
「私はもう王女ではない」
「それは失礼しました、姫公爵閣下」
姫公爵ってなんだそれはと思ったが、成人したとはいえやり手の奴隷商人から見たらまだまだ小娘。皮肉なのだろう。家令親子も姫と呼ぶが、こちらは愛称である
「最初はお試し……でいいのか?」
「勿論でございます。これの生活費はこれの借金に加算されますので、お気軽に。相性がよさそうならご購入を検討ください、今ご購入なさると噂の従属神様の祝福つき香油がオマケに付いてきてお得ですぞ」
軽く言うが、借金のみ加算のお試しだなんて奴隷的には死活問題ではないだろうか(しかも謎のオマケ付)。少しの間だけとはいえお試し期間なんて、と問うと性奴隷というものはそういうものですからと奴隷商人
という事でお試しでわが屋敷で共に暮らすこととなった、勿論種付け料は払っていないので、そう言う本番行為は無し。もし違反した場合は、通常の3倍の種付け料金を払う事となるそうなので注意だそうだ。わが家での生活費は商人の言った通り借金に加算されるので、豪遊するもしないも彼次第、私の懐は痛まない
「お可愛らしいご主人様」
低音の良い声、それだけで心と体(具体的に言うと下半身が……)が震えてしまうような。これがも性奴隷の技なのかと……ついジロジロと見てしまう
「そんなに見つめられたら、誘われているのかと自惚れてしまいます」
「……それがお前の手なのか?罰金の種付け料3倍で得られるお前の取り分は、一体いくらなのだ」
「ありませんよ、むしろ私にも罰金が科せられます」
屋敷の応接間、さすがにいきなり私室へ招くことはためらわれたので、無難なところへ。ソファーに小指一本分の間を開けて(ほぼ空いていない)並んで座り、奴隷紳士は私の手を取りゆっくりと撫でた。あまりにも馴れ馴れしいので、色仕掛けで違約金狙いなのかと尋ねてしまう程……魅力的な男だった(個人の感想だぞ)
正直、触られても嫌悪感はわかなかったが、利き手を取られていることにソワソワする
奴隷紳士を観察しながら、もしこれがかの夫モドキであったならばと想像した途端、背筋にゾワゾワとした嫌悪感が。急にぶるりと体を震わせた私に気が付いた奴隷紳士は、ポンポンと私の手を軽く撫でてこぶし二つ分の隙間を開けてソファーに座りなおした
私が拒否したとでも思ったのだろうか、よく気が付く男である
「あ、の、お前の事で震えた訳では……」
「いえ、少し馴れ馴れしかったですね。お話をしましょう、まずは私から自己紹介をいたしますね」
「う、うむ」
そういって微笑む奴隷紳士、奴隷なのにこんなに穏やかでいられるものなのだろうかと、変な心配をしてしまった私だった。もっとこう世の全てが憎いとか、捨て鉢とか、ガンガンと言うかイケイケというか?
ただ、演技の可能性もあるからな、油断は出来ない。……私に人を見る目があるとは思えないけれど
「生家は侯爵位ですが、私は第2夫人の子でして本妻に憎まれていました。それは何故かと問われると、本妻の実家よりも第2夫人の実家の方が高位だったからですね」
「そんな事がありえるのか?普通爵位が高い方が本妻に……、あ」
ひらめいた、私と同じような立場ならと。奴隷紳士はふんわりと微笑んで、続きを語りだす
「第2夫人の出身家は地位だけ高い能無しで、先祖の蓄えを食いつぶすだけの当主が続いて、当時後ろ盾としては最悪だったそうです。ただ愛だけはあったようです」
「愛?」
「第1夫人とは政略ですが、侯爵と第2夫人は愛し合っていたそうです。そして子が出来て引き取ることになりました、その子供が私の事ですね。……まぁ、残念ながら愛は永遠ではなかったようで、第2夫人の金遣いの荒さが愛を越えてしまったのです」
「……」
「地位の高い方だから生活の水準が高いのは仕方ないと思っていた侯爵ですが、怠惰な生活を送る第2夫人に次第に嫌悪感しか抱けなくなったそうです。結果、私を売り飛ばしその金を持たせて第2夫人を家に帰しました。私は私が売られた金額をそのまま『私の借金』として、奴隷から借金奴隷となり現在に至る……と言う感じですね」
まだそのころ『血』の力が強く出ているとは気が付かれていなかったので、すっぱり縁を切らせてもらいました。まぁ、私の『血』の事を知っていても、結局家は出されていたと思いますよ、本妻から嫌われていましたし……と奴隷紳士
「奴隷は借金で奴隷になったものばかりではありません。犯罪を犯し奴隷として罪を償うもの、この場合強力な隷属魔法と誓約を交わすこととなります。背けば死あるのみという一生奴隷タイプと言ったところですね」
「その場合金を積めばいいという訳ではないと」
「えぇ、犯罪は金で解決することは出来ません、建前上は……ですが」
高位貴族ならば、ある程度金で解決できると言いたいのだろう彼は
「もしくは私の様に親に売られ奴隷に堕ちた者や、何らかの借金を背負い払いきれなくなった者など。こちらは借金を返すことができれば解放されます、しかしその間の生活費や利子が借金として加算されていくので、なかなか大変ですよ。何か手に職を持っていれば助かるかもしれませんね」
私の『血』の力の様にと、苦笑いを浮かべた。