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【裏話】蛇足的な紳士の独白2

「君は何時も深刻そうな顔をしているね、もう少し気楽に楽しんではどうかな?」


おやっさんの店の性奴隷専用待機室に居たのは、私よりも少し年上の銀髪女性。彼女の首には真新しい借金奴隷の首輪がはまっていて、こんな真面目そうな子も奴隷に堕ちてしまうのかと胸が痛んだ。せめてもう少し気楽にと思ったが、男の性奴隷と女性のそれとはだいぶ違うのだろう


はっきり言って種を撒くだけの男に比べて、それを育まなければいけない女性とでは深刻具合が違うのは想像に難くない。あえて軽く言ってみると、近くに居た別の女性が割り込んできた


「酷い男ね、女性と男性じゃ違うでしょう?男は愛情が無くてもデキるけれど、女の子は繊細なんだから」


その人は豊かな濡れ羽色の艶やかな髪を持つ、少し垂れ目がちの煌めく瞳、ふっくらとした赤い唇の女性。こちらも借金奴隷の首輪をしているが、とても借金を抱えているような感じがしない高貴かつ妖艶な(ひと)。その正体は『魔術姫』と呼ばれる国王陛下の公妾の連れ子、仮の『姫』となっている方


勿論、私と同じ偽物の奴隷である


「それはどうかな?男だって繊細だよ」

「あなた以外はそうかもね。初めまして、私は『魔術師の血』が強く出ているの、仲良くしてちょうだいね」


魔術姫は銀髪女性と接触したかったらしい。どんな理由かは知らないがおやっさんが協力しているので、私も話を合わせて銀髪女性に話しかける。少しでも和やかな場になるようにと


「言葉を交わすのは初めまして。私は『智者の血』が強く出ているんだ、君は?」


そう自己紹介をすると戸惑ったようなそぶりを見せたが、当たり障りのない自己紹介をされた


「『騎士の血』です」

「それは珍しいわ、だから引く手あまたなのね……。何か困った事があったら言ってね、力になるわ」

「確かに珍しい。だからおやっさんが嬉々として売り込んでいるのか……」

「ハァ」


なんて気のない返事をして、少し世間話をした後自室へと戻って行った。なので部屋には魔術姫と二人きり。非常に居心地の悪い空間となってしまった


「彼女は何者なのですか?」

「かわいそうな子よ」

「可哀想じゃない奴隷なんているのでしょうか

「私の目の前にいるじゃない、貴方自分の事欠片も可哀想なんて思っていないでしょう。遠い未来に希望を夢見ている」

「……」


『遠い未来』……、それは私に取って重要で大切な言葉。何故知っているのかと、眉をひそめると魔術姫も似たように眉をひそめた


「私も貴方と似た様なものよ。……いえ、似たような立場なだけであって、貴方の希望の光とは違うからね!」

「私も違った方がありがたいです。もし姫が私の光であるのなら憤死してしまうでしょう」

「失礼ね!」


彼女いわく、この人身荒れ果てた国に灯が灯る……女神様の従属神の降臨があるらしい


彼女は降臨なさる従属神に使える聖職者(女性なので神官と呼ばれる)、そう夢のお告げがあったらしい。普通夢なんて本気にしないだろうが、余りにも何度も見る夢、そして彼女の魔術師としての感覚が真実だと告げていたそうで。実際に王冠の女神神殿へと出向いたら、女神様から直々にお言葉をいただいたらしい


確かに聖職者にして魔術師……私と似たような立場だ。まぁ、彼女は奴隷とは縁遠い王族(仮)だが


「まぁ、そんな訳で貴方とは共同戦線を組みたいとは思っているの」

「私に何ができるか……、魔術姫さまにはとてもとてもかないますまい」

「いちいち言い方が失礼だけれども、まぁいいわ」


スッと姿勢を正し、改めて私を見て


「私は貴方の『光』であろう人物の居場所を知っている。貴方に彼女を支えて欲しいとも思っている」

「!」

「ただし今はまだその時ではないし、今出会ったら恐らくその光は消えてしまうわ。だから来たるべき時まで待っててあげて」

「……貴女に言われないでも、私はずっと待っています」

「怒らないでよ。その時の為さっきの銀髪の騎士ちゃんには突っ込んじゃ駄目よ、と忠告に来たの」


魔術姫いわく、『騎士の血』を持つ銀髪女性はある魔法属性(ギフト)を賜っているのだという。本人はまだ気が付いていないが、それは『愛ノ産屋』といって、愛情があれば子供を授かるらしい。むしろ愛情が無いのに私に種付けをしようとすると、……不能になるという属性


なんて恐ろしいギフトなのだろう、それなのにどうして繁殖目的の性奴隷なんてしているのか


そう言うとおやっさんはその事を最近知った(と言うか魔術姫が告げた)との事。それ以降はわざと嫡男がいるのにもかかわらず、『血』を望もうとする馬鹿貴族に売っているらしい。おやっさん、それは商人としていいのか?誇りはどうしたと思ってしまっても仕方がないと思われる


「この国には男にも女にも『一粒種』の祝福が施されているから、避妊はした方が無難よ?もう遅かったかしら?」

「一粒種と言うと一人しか子供が授かれないと?」


もしそうならば、祝福ではなく呪いだと思うが……


「まぁ、その所為でさらに不幸な出産が増えそうだったから、ご降臨することになったみたいよ。まだ先の話だけれど、司祭であるあなたなら口をつぐんでいて下さるでしょう?」

「……実子はいません、私は遊びとしか見てもらえないようです」

「それは貴方から愛そうと思っていないからでしょう」

「奴隷を望む人なんか愛せないですよ」


愛なんていまだわからない





そして望む『光』に出会えるまでには、まだまだ時間が必要だった






新たに興された女公爵家、女公爵閣下は国王陛下の第4子第3王女殿下。伴侶からは放置され地味に日々をおくっていると言う。白い結婚のまま過ごしていたが、伴侶の愛人が子を産んだことによって、自分も自分だけの家族が欲しいと子を望んで性奴隷購入を検討している……と公爵家の家令は言う


「まさか本当に繁殖目的の客が来るとは……」

「お前さんに関しては初めてじゃないか?そもそも奴隷の子を嫡子にしようなんて、他の貴族から見れば狂気の沙汰だろうに」

「それほどにお困りなのでしょうね」


顔合わせの日を決め、家令は帰っていった。おやっさんと2人しみじみ話す、本当に繁殖目的ならば力になってあげたいのだが……。一粒種の呪いはいまだ健在のようで、一人っ子の貴族がほとんどの状況(多くて2人まで)。その女公爵閣下の伴侶が気まぐれをおこし彼女を抱いたとしても、彼女は絶対(・・)に孕むことはない


良いか悪いかはともかく、彼女の望む家族はできないのだ


「とりあえずお会いして、本当に繁殖を望んでおられるのであれば、奏者君をおすすめしてあげてください」

「そうだな、まずはお会いしてからにしよう」


なんて話していたのだが


扉が開かれ入室したのは成人したばかりだという年若い姫。その艶やかな髪をゆるく編み、露出の少ない落ち着いたドレスをまとっていた。その地位から言えば非常に地味な格好なのだが、私には輝いて見えた。というか明らかに後光がさしている(物理)


むしろ輝き過ぎ……、女神様やりすぎです……


姫だというのにその立ち姿はまるで騎士の面影を映している、体つきはそれほど鍛えている様には見えないから『騎士の血』が出ているのかもしれない凛々しいひと


……王家に『騎士の血』が入っていただろうか?


おやっさんが姫本人から詳しい事情を聞いている時、私はこっそり合図を送る


私を売れと


彼女こそ私の『光』、必ず現れる私と似て非なる立場の姫。あの輝けるさま(しかも私にしか見えていないようだ)は『光』だと思われるのだが、似て非なる立場の姫とはどういう意味なのだろう。まぁ、事情など人それぞれだ


気にすることはない、私の『光』にご奉仕するのみである






「……今、ちょっと考えついたのだが」

「何でしょう、姫さま」


姫さまこと姫公爵閣下は、白き結婚を理由に無事円満に伴侶とお別れをした。その際姫さまは私まで手放そうとしたので、司祭の特殊魔術である『探索』を応用したほぼ隷属魔術をかけ、彼女の永遠の下僕である事を望んだ。「探索じゃない!」と魔術姫さまこと、愛と出産の神の大神官様にはすごく怒られた


姫さまが不要と言った途端に即死する魔術。祝福である、誰が何と言おうとも呪いではない


「おまえ自身、血を分けた子はいるのか?」

「いません……、種目当てと言うより私目当ての客ばかりだったので」


顔は整っていて技術もありましたので、よく売れましたと言う。そしてぼったくりましたと心の中で


「他に隠し事は無いのか?本当に言えない事はいいが、言える事だけは今言っておけ。後でわかったら無視するぞ」

「……あ~、そうですね。私の持っているのは『知者の血』では無い……です、すいません」

「では何の『血』を持っているのだ、まさか何もない訳ではないだろう?」


何せ魔術師で司祭で奴隷で商人だ、騎士でもあるとか言われても驚かないぞと姫さまは言う


「私が持っているのは『策略の血』です」

「なんだそれ?」

「そうですね、要するに悪賢いのでしょうか……。女神様いわく、政治関係に有利らしいですよ」

「女神様のお声を聞いたのか?」

「一応司祭なので……。奴隷に落とされてしばらくは子供過ぎて売れずに転売を繰り返され、無気力になっていた時おやっさんに買い取られまして。その後受けた神託を励みに、今まで生きてこられたのです」


そうか大変だったのだなと、手を繋いでくれる愛しい人。甘扁桃仁の花びらが舞い散る道を2人で歩く、今日は花祭り。彼女の領民達が楽しそうに祭りを楽しんでいる中の、お忍びであった


まぁ、私は奴隷の首輪をさらしているので、バレバレだとは思うけれども


「姫さまだって大変だったでしょうに」

「少なくとも私は食うには困らなかったし、家令親子に支えてもらっていたからな。あれで大変だったなんて言ったら、罰が当たるぞ。しかも私は王家の血なんか流れていないらしいし」


キュッと握り込む手、不安の表れなのだろう


「お父上を探してみましょうか?」

「奴隷だったと思うか?と言うかそもそもまだ生きているのだろか……」

「あくまでも可能性の話ですが、半々と言ったところでしょうか」


そんな風にぼかしてみたが、実はそれっぽい奴隷がいたことを薄っすらと記憶していた


私の何回目かの転売先に、それっぽい『騎士の血』が少し出た性奴隷がいた……と思う。性奴隷といいながら手練手管を習う為に売り買いされていたような、……その頃の私はボンヤリ中だった為、鮮明に憶えていないのが悔やまれる。生まれ出る前の記憶まである癖に、ボンヤリしている場合では無かったと悔やんでも悔やみきれない


細い記憶の糸をたどれば、姫さまに似ていた……ような気がする


妃として王宮に上がる前に孕んだのであろう。奴隷と令嬢と言う身分差を越えて愛し合ったのか、たまたま授かってしまったのかはわからないが、……第4妃様の状況から推測するにあたり私は前者だと思っている


何故なら愛し合っていた男女から生まれた、王家の血を引いているにもかかわらず奴隷に堕ちた私


愛し合っている男女から生まれた、奴隷の血を引いているにもかかわらず王家の姫として育った彼女




似て非なる立場と言えば、そうだけれども






……王冠の女神様、非常に解りにくいです。

これ以外の謎は姫公爵閣下と奴隷紳士のあずかり知らぬところにあるので、彼女等にはこれ以上語ることは出来ません。第4妃は語ってくれませんし、麗夫人も逃げちゃいましたので(笑)。設定はあるのですが、披露しなくてもいいかなと思っています。もちろん女神様のお考えも、神のみぞ知る……と言ったところです。


数多くの作品の中から見つけて読んでくださって、ありがとうございました!!

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