8羽:記憶喪失
目を覚ますとそこは病院。
すぐに理解した。
あの時止まってくれた車の人がココまで連れてきてくれたんだと。
看護婦さんが病室のドアを開けて部屋に入ってくると私のことを2度見して驚く。
「っせ、先生!磯崎さんが目を覚ましました!」
そんなに大きな声で言わなくてもいいのに……
看護婦さんが言い終わるのと同時に、お母さんとお父さんが病室に駆け込んできた。
「大丈夫!? どこも痛くない?」
「あぁ、何か欲しい物はあるか?」
もぉ2人ッたら、恥ずかしいよ……
「それより、2人は……みんなは?」
2人とも口をにごらせる。
「2人とも……まだ目を覚まさないの……」
「他のみんなは……残念だけど……」
判りきっていた事だった。
判りきっていた事だけに、こうして本当なんだとわかると目から涙が溢れてきた。
「少しだけ、1人にさせて……」
2人を病室から出すと、声に出して泣いた。
今までに何回泣いただろう……
こんなに泣いたのは初めて。
私の人生を変えてくれた……
苦しいときもそばに居てくれた……
一緒に居るだけで、心が弾んだ……
そんな……そんな気持ちにさせてくれるみんなに会いたい……でも会えない……
ならせめて、私が助け出したあの2人にだけでも生きて会いたい――――
「先生!先生!!青海さんも目を覚ましました!!」
「わかった、わかったからそう病院で騒ぐんじゃない!」
病室の外から聞こえた声。
そうなんだ……青海君も……よかった……
あとはユカだけだよ?
絶対、絶対目を覚ましてね。
そうじゃないと許さないから……
少しずつ体を動かして、病室を後にした。
「すみませーん!池下青海さんという患者さんの部屋はどこですか?」
そそくさと看護婦さんが窓から顔をのぞかせる。
「あぁ~、あなたは?」
「友達なんですけど……」
「そう……ちょっと待ってってね」
そういうと、ナースステーションの看護婦さんはどこかに電話を掛け出す。
ふと辺りをきょろきょろしていると、青海君のお父さんがどこかへ向っているのが見えた。
看護婦さんの方は時間が掛かりそうだったから、青海君のお父さんの後についていくことにした。
「やっぱりいいです、自分で探せそうなので」
「ちょっ、ちょっと待って!」
看護婦は空に伸ばした手をゆっくりとおろした。
「遅かったか……今は親御さん以外面会謝絶中なんだけどな……」
青海君のお父さんの歩調はどことなく早かった。
けれど、案外病室が近かったせいか、見失うことはなかった。
「青海!」
「アナタ!」
病室の外からでもご両親の声が聞こえる。
そっとドアを開けて病室をのぞく。
すると、そこにはベットの上に横たわる青海君。
2人で手を握り合うご両親。
そしてお医者さん。
「大変申し上げにくいんですがこれは……」
お医者さんは額から冷や汗を垂らす。
「……一種の記憶喪失です」
唐突に言い放たれた言葉に、一瞬自分の中で時間が止まった。




