5羽:それぞれの夢
辺りを見回しても、進んで夢を答えようとする者はいなかった。
「いいと思ったんだけどな……」
視線をユカからもっと前の方に移した。
すると私の右目が小さな光を捉える。
先生の目が再び、光を取り戻していたのだ。
そんなに参加したいの? 先生! っと、叫びたいほどの心境だったのはユカにも言えない。
思った通り先生がはじめに語りだす。
「先生の夢はな――」
皆の視線が一気に運転席に集まる。
「ウンウン、やる時はやるのよね、博士は」
博士とは先生のニックネーム。
担当の科目は現代国語だけど、漂うオーラが博士っぽいのでそう名づけられた。
「皆に愛される本を出版することかな」
「どんな本を書きたいんですか?」
クラスの中で一人だけ茶髪のスミレが先生に対して質問した。
「ッフッフッフ……そうかそうか、そんなに聞きたいか……」
先生は一体何をやりたいんだろう……
「それはだ――『俺の夢は死ぬほど焼肉を食うこと!』
先生の上に夢をかぶせたこの男、いつも空気を変える男として有名な芝田。
「なら俺の夢は、恋人10人は欲しいな」
性欲が強い男、川内。
彼には散々ひどい目に合わされそうになった。
でもその前にユカがいつも助けてくれた。
「私の夢は、世界一周かな?」
先ほど先生に質問したスミレ。
彼女は私の知らない世界をたくさん教えてくれた。
「ゴホン! 俺は世界一とまで言わないけど、金持ちになりたい!」
彼は佐々木山君。
家が貧乏で家族のために金持ちになりたいと言ってるいい人。
「う~ん私はゲームセンターのGMになってみたいかも!」
女性なのにゲーム大好きっ娘なモリちゃん。
それぞれの夢、そのどれも笑ってはいけない。
夢を持つってことはすごいことだから。
さっきの凍りついた空気は嘘のようにみんなはどんどん夢を語っていく。
そして夢を言い終えていないのは残り3人となった。
「僕は、皆のことが一生忘れられなければそれでいい。皆大切な仲間だからね」
青海君はやっぱり言うことも一味違う。
そして私。
「素敵な……お嫁さん……かな?」
言ったことに後悔して、顔が真っ赤になった。
皆も面白がって口笛を吹いたりして冷やかし始める。
「誰のお嫁さん? やっぱ俺のだろ」
「川内はナルシすぎ!」
ユカが私をいつでも守ってくれる。
そんなユカの夢は何?
「私の夢は、皆が幸せでいてくれればそれでいい。これって夢でいいのかな?」
少し照れながらハニカミ出すユカ。
「いいんじゃねぇーの?」
「大人って感じだね。私達の夢に比べると。」
これでみんなの夢の語り合いは終わった。
私は今、この時間をとても幸せに思う。
本音を言い合える友達なんてそうはいない。
それに、ちょっとしたお別れ前の楽しいひと時だから。
ずっと、ずーっと、このままでありたいと思った。
窓から外の景色を見ると空は既に暗く、明かりといえば月明かりしか見えないほど少なかった。




