15羽:告白
ユカに押されながらも、青海君の家に向かった。
「別に今すぐじゃなくても」
「今じゃないと明日には誰かにとられてるかもしれないんだよ?」
確かにその通りだけど、今の青海君は記憶を失くしている。
そんな彼が私のことを好きになってくれるだろうか。
そんな彼のことを私は愛せるだろうか。
そうやって実った愛は続くのだろうか。
幾つもの不安があった。
その不安を抱え込んでいても、ユカは私を前に進ませる。
変わらなきゃ……
ユカは私のために色々としてくれた。
ユカは誰に言われるでもなく、自分から前に進もうとしている。
そんなユカを私は尊敬している。
けれども私は一向に変わろうとしていなかった。
今こそ変わるべきじゃないのか。
勇気を出して、弱い自分から抜け出すべきじゃないのか。
そう思うと、今度は押されるのではなく、ユカを引っ張って走り出す。
「早く、ユカ!」
「急にどうしたのよ~」
この歩みで私は変わる。
***
青海君の家の玄関前まで来た。
さすがにここまで来ると緊張は隠しきれない。
「ツユリ……半ば無理やり私が連れてきちゃったけど――」
ユカが私の背中に語りかける。
「ツユリは今生きている。だから、今ツユリの夢は叶えなくてもいいんだよ?」
「ユカ、私は大丈夫。それに、今やらないと皆に悪いし、絶対後悔する」
ユカは安心した顔つきで私を送り出した。
「じゃあ私はここで待ってる」
「うん、絶対私の夢、叶えてくる」
玄関を開け、彼を呼ぶ。
「やぁ、いらっしゃい」
いつもの爽やかな彼。
促されるまま、居間に案内される。
麦茶をおもてなしされ、少しだけ口に含む。
「この前はこの本ありがとう。まだ途中までしか読んでないけど、面白いよ」
彼の手には”生きる道”という題の本が。
すっかり忘れていたが、私が彼に上げたものだ。
「なんだか懐かしい感じがして――――」
「青海君!」
彼の言葉を遮り、私は思いを伝える。
「青海君……私、私ね、今まで言わなかったんだけど、高校時代を一緒にすごしたの」
今まではあの事件を思い出しそうで、思い出させそうで語らなかった過去。
それが口から次々と発せられる。
「――――で、青海君がね――――」
「僕が、そんなことを!?」
楽しいひと時が流れていく。
「――それで私たちは卒業旅行に行くことになったの……」
青海君は真剣に私の話を聞いてくれた。
例えそれが思い出せなくても。
過去のことを思い出そうと必死に。
「私、この卒業旅行で青海君に告白しようと思ってた。でも勇気がなくて帰りまで言えなかったの……」
「――っえ?」
「けれどその前に皆事故にあって、私とユカ、そして青海君だけが生き残った」
「……」
青海君は混乱していた。
私の告白のこと、そして消し去っていた事件の記憶を聞かされているから。
「それで、ユカは皆の追悼の意味で、皆の夢を今まで代わりに叶えてあげてきた」
もぉ迷うことはない。
「後はスミレちゃんと私と青海君の夢だけ……」
振られても悔いはしない。
「私の夢は、素敵なお嫁さんになること……青海君、あなたのお嫁さんにしてくれませんか?」
青海君は床をじっと見つめていた。
「……ごめん、今の僕じゃ君を幸せにできない……こんな記憶喪失のままじゃ君を悲しませるだけだ」
青海君は顔を上げようとはしなかった。
覚悟はできていたことだ。
「じゃあ青海君、あなたの夢は絶対に叶えてね」
私は諦めて青海君の家を後にした。
「どうだった?」
ユカが怪訝そうな顔で聞いてくる。
「だめだった」
何とか笑顔を作る。
涙は流さない。
弱い自分から変わるって決めたんだから。
***
「……最低だな……」
青海は沈んだ気持ちをどうにかしようと、読みかけの本を手にした。
「この本を読んでると元気が出るんだよな……」
半分も読んでいない本をパラパラとページを進ませる。
「――あれ、何か……」
何かを思い出しかけていた。
忘れかけていた何かを。
「――そうだ、僕は――」
全てを悟ったかのように、青海は立ち上がった。
間に合ってくれ。
そう心の中で言うと、走り出した。




