1羽:ハジマリ
田舎町の香りが漂う場所。
それがどこなのか……私は知っている。
そこは私の故郷でもあり、思い出の場所。
バスは整備されていない道をガタガタと揺れながら走り続ける。
その揺れがまたいい。
都会では味わえない、田舎ならではの歓迎、田舎ならではの臭い、そして田舎ならではのゆったりとした時間―――――
今はゴールデンウィークなので、数年ぶりにこの町に戻ってきた。
この町に戻ってくるとあの記憶が再び甦る…
「――――みんな……会いたいよ……」
***
――――数年前。
「蝉が五月蝿く鳴くこの季節!とうとう来ました、我らがお待ちの……!!」
そこで一旦言葉を区切ると、手に持っていたマイクをみんなのほうへ向ける少女、ユカ。
するとみんなは一斉に息を吸い込み、吐き出しつつ言葉を発する。
『卒業旅行~!!!!』
「やめんか杉山!マイクを返せ!!」
すかさず先生がユカのマイクを奪い返す。
ユカはマイクを奪い、マイクパフォーマンスをしていたのだ。
「あぁ~先生空気読んでよ~。先生のつまらない注意なんて誰も聞きたくないのよ?」
ユカはそう一言いい残すと私の隣に座った。
「ユカ無茶しすぎだよ」
「でも、つまらないよりはいいでしょ?」
「まぁね!」
ユカは私の親友でもありクラスのムードメイカー。
うらやましいんだ、ユカが。
こんな人間になりたいってたまに思う。
だからユカは私の目標でもある。
そしてそんな私、磯崎 露梨は、高校最後の思い出作り、卒業旅行として今から雪山へ……
行き先はどこか覚えていない。
とにかく楽しみで楽しみで、雪山に行ってスキーをする計画ぐらいしか覚えていない。
それに地理は不得意だから。
県名なんて地元とその付近、後有名な県ぐらいしか覚えていない。
「ほらー!バスが出発するから順番に乗り込んでけ~!」
「ツユリ、早く行こ!」
「うん!」
このとき私達2人、ううん先生以外は始めてこの町から出ることになる。
修学旅行でも田舎だから町の伝統めぐりをしたぐらい。
だから、いろんなことを想像して、想像しただけで喜んで。
余白のノートに幾つもやりたいことを書き留めて。
使い慣れないパソコンを使ってスキーの滑り方も勉強した。
けど、この後あんなことになるなんて、誰も思いはしなかった……




