発足式
翌朝、私は軍服を着て昨夜と同じ寮の中にある第一会議室にいた。特務部隊の面々も揃っていて、少し緊張した面持ちで椅子に座っている。
今日、正式な発足となる特務部隊。これから行われる発足式では、特務部隊の所属する第三守護兵団一班の隊長が、この部隊の任務の内容などを説明してくれることになっている。
第三守護兵団は王都の安全を守ることが任務で、一班から四班まで分かれている。
一班はその中でも一番重要な、王都で起こる大きな犯罪や、王都と王城を結ぶやりとりの監視を任されている組織だ。
ガチャっとドアが開く音がして、私達は一斉に立ち上がって敬礼をした。二人の人物が中に入ってくる。その前を歩いていた男を見た時、私は自分の身体が固くなるのを感じた。
スキンヘッドのその人物はダメ五出身の私ですら見たことがある。確か、第一守護兵団の────
「座れ」
スキンヘッドの男性が威厳のある声を出すと、私達は椅子に座り直した。チラッと対面に座るベルロイを見ると、やはり目を見開いてスキンヘッドを凝視していた。
「さて、第三守護兵団、一班所属、特務部隊の諸君。驚かせてすまない」
スキンヘッドが威厳はあるが、少し優しい声で話し始めた。
「第一守護兵団、第一王子キューレ班の隊長、ゼノ・ウルスラだ」
ゼノ・ウルスラ。私はいつの間にかギュッと手を握り締めていた。
守護兵団へ入隊した時の入隊式で挨拶をしていたので覚えていたが、その人が目の前にいる。
ユーロラン帝国の第一王子キューレ様を守護する隊の隊長。エリート中のエリートにも程がある。
目の前にいるだけで威圧されてしまいそうなオーラ。そんな人物が、何故ここに……
「今日、何故自分がここへ来たのか、それについて説明する前に、フレイくんからも挨拶を」
ゼノはそう言って隣の人物を促した。
「第三守護兵団、一班隊長フレイ・アレジオロスだ。今日から君たちの上長になる。宜しくお願いする」
私達は一斉に敬礼で返した。
「では、まず自分からこの特務部隊発足について、説明させてもらう。これからここで話されることは機密中の機密事項だ。例え家族に対してであっても口外しないでいただきたい」
空気が痺れるほどの威圧感でゼノは私達全員の顔を見回した。これからどれほどのことが話されるのか。そして、そのことを口外することは死に値すると脅されているようだった。
ゼノは満足したように一度頷くと、再び口を開いた。
「最近、ユーロラン帝国に違法な薬物が持ち込まれている。第四守護兵団全体で調査、取締に当たっているのだが、それでも追いつかないくらいの量になってきている。それどころか、王都の中にまでその薬物が入り込んでいることがわかり、その調査と元を断つことを目的として発足されたのが、この特務部隊だ。それが、君たちの表向きの任務になる」
『表向きの』。その言葉にゴクリと唾を飲み込んだ。
「そして、本当の目的だが……」
ゼノは一度目を伏せ、再び顔を上げた時には強い顔つきになっていた。
「この国に入り込むスパイの調査だ」
スパイ……
誰も何も言わないが、その言葉にこの部屋の空気が凍っていくのがわかった。
「ミョルン地方の森の中で捕らえた不審な動きをする人物の持ち物から、ダイス帝国の紋章が入った短剣が見つかった」
ダイス帝国。ミョルン地方のさらに東にある広大な土地を持つ国。
ユーロラン帝国とダイス帝国は友好条約を結んでいて、物品のやり取りも行われているし、国王同士も定期的に会談を行うなど、友好な関係が築かれている。
「その短剣はダイス帝国の兵士が持つものだ。そして……それだけではない」
ゼノの茶色い瞳がキラリと光った。
「ユーロラン帝国の第ニ守護兵団、王城守護の兵士が国の機密情報を持ち出そうとした。機密情報を外に持ち出す前に捕らえたが、その者の持ち物からもまた、ダイス帝国の紋章が入った短剣が見つかったのだ」
私が思わず息を飲むと、ヒュッという音が鳴った。
「つまり、この国の中に、既にダイス帝国の者が入り込んでいる可能性がある」
友好関係を結んでいるダイス帝国が、まさかそんなことを────
「皆も知っての通り、守護兵団に入隊するには厳しい審査がある。それをくぐり抜けられた、ということは、中に手引した人間がいる可能性がある。そして、一人いたということは、もっとたくさんの人間が入り込んでいる可能性は拭えない。そこで、発足したのが君たち特務部隊、というわけだ」
理解が追いつかなくなってきた。そんな重要な特務部隊。そこに私がいる……?
「失礼ながら、君たちの出生や人となりは注意深く調べさせてもらった。その結果、ダイス帝国と繋がっている可能性が極めて低く、この事実について口外しないであろう人物を厳選して選ばせてもらった」
確かに私はスパイなんかではない。
「本当はこの任務は自分達、第一守護兵団が行うような重要任務だ。しかし、王城の中にスパイがいる可能性がある以上、その者達に警戒されてはならない。しかも、そのスパイがどこまで入り込んでいるかもわからない。そこで、信頼できる部下であるフレイくんの第三守護兵団に発足の手伝いをしてもらったんだ」
つまり、私達の上は実質、第一守護兵団ということ?
「このことを知っているのは第一王子のキューレ様、キューレ班の一部の人間、そしてここにいる9人だけだ」
身体が震えるのを感じた。
「まぁ、難しく考えなくても良い。何かあれば自分やフレイくんもサポートする。君たちはチャンスだと思って自分の為に任務をこなしてほしい」
ゼノは空気を緩めて笑顔を作ったが、私達は誰一人笑えずに固まっていた。この短時間で聞いたことは言葉として認識できても、頭で理解するには時間が必要だった。
気持ちが落ち着く前にゼノが退席し、フレイがもう一度このことを口外しないように言ってから、具体的な話を始めた。
「君たちの直近の任務は、薬物の出処を探ること。それと並行して国に入って来ようとするスパイを捕まえること。その二つだ」
その言葉はじんわりと理解することができた。
「早速だが、まずは流通している薬物の説明を受けた後、隊を二つに分けて、ベルサロム地方とミョルン地方の二つの国境に行ってほしい。第四守護兵団の国境警備隊が荷物の検閲を強化してはいるが、特務部隊もそれに参加し、怪しい者を見つけたら捕らえるように。特にミョルン地方はスパイらしき人物が見つかった場所でもあるから、検閲と同時にスパイの侵入がないかどうかも監視するのだ。人員の振り分けについてはキースとブルームに一任する」
「はっ!」
キースとブルームの凛々しい返事がハモった。フレイが退席すると、キースとブルームが前に立った。
「さ、人員の振り分け、どうする?」
わざとだろうか、軽い口調に戻ったブルームがキースに問いかけた。
「俺とブルームは分けたほうがいいな。俺がミョルン、ブルームはベルサロムへ」
「わかった」
ベルサロム地方もダイス帝国と国境を接する地区だ。ミョルンの北に位置し、王都にも近い。
「レイはベルサロム出身だったよね」
「はいっ!」
ブルームの問にレイリーズは心なしか嬉しそうに返事をした。
「じゃあ、ベルサロムの国境警備をしていたベルロイとレイはベルサロム班、第五守護兵団のミョルン地区から来たリコルちゃん、残ったルシェをミョルン班へ、かな。イオルちゃんは安全度から言って僕の方で」
来たばかりだというのにまたミョルンへ戻るのか、と内心うんざりしたが、ブルームと同じ班よりはましだ、と思い直して、レイリーズのいかにも軍人らしい返事に続いて、
「はい」
と、小さく返答をした。
「ちょっとこっちの戦力が心もとないが、まぁ俺がいるからなんとかなるだろ」
確かにミョルンへ行くルシェは守護兵団に入ったばかりの子供だし、私は使い物にはならないけれど、そんなにはっきりと言わなくても……と、キースを少し睨みつけた。ルシェもやはりその言葉に引っかかりを覚えたのか、不満そうな顔でキースを睨んでいた。
振り分けが終わると、私達は王都で押収された薬物の研修を受けた。薬物は種類が多く、薬草に紛れ込んでいると見分けるのも難しい。その特徴をしっかり頭に叩き込まれた。
脳が疲れ切った頃に研修が終わった。私は、明日からの任務に向けての準備と身体を休めるために自室に戻った。
●登場人物の見た目紹介
ベルロイ・ニコリエッタ(23)
性別:男
身長185、赤い瞳。
赤く短めな髪の毛はツンツンと立ち上がっている。
ちなみに、この世界の魔法使いの髪色は、自分の持つ魔法の属性に近い色になっている。
瞳の色は影響されないが、ベルロイの場合は瞳も赤い。