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あなたの本心は隠しても無駄です  作者: 弓原もい
6.スパイ事件の真相に迫れ!
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王都にて パーティへ2

 豪華すぎる控室に入ると、アイレーン王子はソファの中央に腰を下ろした。私達はその前に4人で並んで座る。アイレーン王子は自分の斜め後ろに立ったビブリオに声をかけた。


「ビブリオ。君は席を外してくれないか」


「王子?」


 ビブリオは明らかに不服そうな表情を浮かべた。私達も護衛なしでアイレーン王子と話をすることになると思わず、困惑してしまう。アイレーン王子だけは楽しそうな様子で、


「君がいるとキースくんが萎縮してしまうだろ? 父親が僕の後ろで監視していたら、何も喋れなくなってしまうよ」


 と、言った。ビブリオは私達に一通り視線を送って、


「くれぐれも粗相のないように」


 と、警告してから、


「外におります。何かありましたらお呼び下さい」


 と、アイレーン王子に告げて部屋から出ていった。


 部屋には私達4人と王子だけになった。アイレーン王子は長い足を組んで優雅な振る舞いで目の前のお酒を口に含んだ。


 間近で見ると、直視し続けるのが困難になるくらいの美形だ。黒髪が白い肌を際立たせ、金の瞳が気品を感じさせられる。すっと尖った顎、高い鼻、切れ長の瞳、顔のパーツのどこをとっても見惚れてしまうほど美しい。


 そんな容姿から、目の前にいるだけで罪を犯しているかのような気分になり、逃げ出したくなってしまう。いや、それだけでない。アイレーン王子の雰囲気は、アスモやアスモの仕事で出会った油断ならない人物と対面した時と似ている。


 ゆったりとリラックスしたような立ち振舞からつい心を許してしまいそうになるのだが、そうしたら一気に噛みつかれて食い殺されてしまいそうな感覚。そんな怖さをアイレーン王子から感じるのだ。


「さて、邪魔者もいなくなったことだし」


 アイレーン王子は笑いながらそう言って、ソファの背もたれに腕を置いた。あのビブリオを「邪魔者」と笑って言えるのは世界で唯一この人だけだろう。


「君達の活躍は聞いているよ。特務部隊」


 色艶の良い唇の端が上がる。


「薬物の出処について、随分と調べ上げたみたいじゃないか。少人数なのにたまげたもんだよ」


「恐縮です」


 この人、私達が調べたことについてどこまで把握しているのだろうか。リークル神国へ薬物が流通していること、それに皇帝が関わっていること。それはもちろん第一王子のキューレ様は知っているはずだが、国が覆るかもしれないその事実をたやすく人に打ち明けるとは思えない。しかし、お2人は兄弟なわけだし、仲が良ければ知っている可能性も……?


 私は、素早くキースと隣のブルームの手にも軽く触れ、


『キューレ王子とアイレーン王子って仲は良いの?』


 と、尋ねた。アイレーン王子は、


「僕は君たちの存続を後押ししたんだよ。ビブリオにも頼まれてね」


 と、特務部隊が解散の危機に陥った時にいかにして私達を救ったか語ってくれている。


『どうなんだろうな』

『悪いともいいとも聞かないね。ただ、国の方針への考え方はかなり違うから、すごく仲がいいとも思えないけど』


 私の質問への回答はブルームの方が詳しく知っているようだったので、アイレーン王子との会話はキースに任せて、私はブルームとの意志の疎通の方を優先する。


『考え方が違うってどんな?』


『キューレ王子は改革派で、どうも貴族の力を弱めようとしているようなんだ。それに対してアイレーン王子は現皇帝の考え方を引き継ぐ、貴族を重視する考えをお持ちだ』


『じゃあ、皇帝は自分の考えを引き継ぐアイレーン王子を次期皇帝にしたい、とかいうことはないの?』


『それはないね。皇帝は自分さえ良ければいいようなタイプだから、自分の次の皇帝は誰でも良いと考えているのさ。それに、うちの国は代々長子が優先されてきてるから、その慣習を変えるつもりもないんだろう』


 なるほど。それじゃあアイレーン王子が皇帝になる可能性は低い、と。そして、そんな弟王子に皇帝の不正を伝えるとは考えにくい。それでは、アイレーン王子は私達が薬物についてどこまで掴んでいるか、知らないということ?


「でも、あの時はひとまず存続を後押ししたけれど、もうそろそろ君たちの役目も終わりなんじゃないかな?」


 アイレーン王子は相変わらずの完璧な笑顔でそう言った。


「薬物を積んだ荷馬車を捕らえた、と聞いたよ?」


『出処を完全に調査しないと。まだそこまで調査は及んでないからって言って』


「捕らえはしましたが、出処が完全にわかったわけではありません。もう少し調査をする必要があります」


 私の言う通りにキースがアイレーン王子に伝えた。王子は驚いたように眉を上げる。


「あれ、おかしいな。僕はもう君たちが証拠を掴んだと思っていたのだけれど」


 アイレーン王子は身を乗り出して、声を潜めて続けた。


「父上のすぐ側まで」


 その言葉にハッと固まってしまう。私は即座に「いけない!」と、思って笑顔を作ったが、キースやブルームは表情を戻すのに時間がかかってしまった。アイレーン王子は私達を一通り見てから、満足そうに身体をソファの背もたれへと戻した。


 何故アイレーン王子はそれを知っている? 私は混乱する頭で、でも負けてはいけないとその混乱をひとまず頭の隅に追いやることにする。


「僕は第二王子だけれど、そこまで馬鹿な第二王子ではないよ」


 アイレーン王子は私達の様子に満足したようにそう言った。


「ねぇ、君たちはこれからのユーロラン帝国を生きていく身として、この国がどうあればいいと思う?」


 金色の瞳が私達の少しの変化も見逃さぬように隙なく捉えていく。


「今のユーロラン帝国のように、安定はしているけれどどこか危うい、発展を忘れた国? それとも兄上が言うような、貴族も平民も平等だけれど争いは絶えない国? それとも……」


 たっぷりと間を空けてから、


「今よりも大きく発展して、国土が大きく増えた国?」


 と、続けた。アイレーン王子はひゅっと背筋が凍るような冷たい顔をしている。笑っているのに、笑ってるようには思えない。王子の言う、国土が大きく増えた国、それは……


「東に領土を増やす、と?」


 思わず私が発言してしまった。隊長と副隊長を差し置いて女性の私が発言する場面ではない。しかし、アイレーン様は何も意に介さないように、ゆったりと頷いた。


「東には大きく土地が広がっているね」


 東にある国、ダイス帝国。アイレーン王子は笑っているけれど、瞳は真剣そのものだ。まさか、アイレーン王子はダイス帝国を攻めるつもり? だとしたら、ビブリオがスパイに関わっているのは何故……?


「あんな大国をどうやって、そう思ったかい?」


 優しくて冷たい笑顔が私に向く。私はこくり、と頷いた。


「僕達は重要な勘違いをしているんだ。父上も兄上も、みんなね」


 ごくり、と唾を飲み込んだ。


「ダイス帝国は何故あんなに武器を生産しているのだと思う?」


「戦に備えるため、でしょうか。南のマースドロス帝国との小競り合いもありますし」


 ブルームがそう答えると、アイレーン王子は深く頷く。


「じゃあ、何故ユーロラン帝国はダイス帝国から武器を買っていると思う?」


「それは……」


 質問の意図が掴めない。


「武器の職人が少ないから、でしょうか」


「それは何故? 武器の素材になる鉱石はユーロラン帝国やユーロラン帝国の西にあるアルセ王国からのものがほとんどだ。それならば、わざわざダイス帝国に渡して作ってもらう必要はないじゃないか」


 アイレーン王子は大げさに手を広げた。考えたこともなかったけれど、何故わざわざダイス帝国から買っているのだろう?


 私達が黙ってしまうと、アイレーン王子は嬉しそうに頷いて、そしてまた身を乗り出した。


「必要ないからさ」


「必要がない?」


「そうさ。例えばキースくん。君は能力者だったね?」


「はい」


「剣や弓など、武器は使うか?」


「いえ……」


「ブルームくんもだ。君も氷魔法だろう? 武器は?」


「使い……ません」


「そこだよ」


 アイレーン王子は人差し指をぴっと立てて見せる。


「僕達、能力や魔力を持っている者にとって、武器というのは付属品にすぎない。なくても戦える」


 特務部隊で武器を持っているのはレイリーズ、ルシェ、ベルロイの3人だけ。それも、確かに能力を上手く使うために使用するものだ。


「じゃあ何故ダイス帝国はこんなに必死に武器を作る? 武器に頼らずとも能力や魔力で戦えばいいじゃないか」


 まさか。思わず目を見開いてしまう。そんな私を見て、アイレーン王子は、


「察しのいいお嬢さんだ」


 と、嬉しそうに笑った。キースはよくわけがわからずに混乱している様子だ。


「ダイス帝国には能力や魔力を持つ者がほとんどいないんだ」


 私以外の3人が息を飲んだ。


「知らなかったろう? 僕だってそうさ。知ったのは最近のことだ。ダイス帝国は僕達にその事実をひた隠しにしているからね」


 ダイス帝国からのスパイを捕らえた時、何故能力や魔力を使わないか、どうして使えわない者がやってきたのか疑問に思っていた。その答えがまさかこんなことだとは。


「遥か昔、リークル神国ができる前のことだ。能力や魔力を持っていた者は異分子として差別され、大陸の北へ北へと追いやられていたらしい。そこに国ができた、それがユーロラン帝国。能力や魔力を持った者が固まっているのも納得だよねぇ。昔の人は愚かなものだよ」


 アイレーン王子は少し顔を歪めながら笑った。


「どうだい? 一気にダイス帝国が怖くなくなったろう? むしろ、今まで大国だからと怯えていた自分達が愚かだとすら思える」


 鼻でふっと笑う。


「僕達はこの大陸で稀有なものを持っている。当たり前だと思ってきたものは、本当はとても強い武器だったんだ」


 私達は誰も声を出すことができなくなっていた。


「この大陸を僕達のものにすることなんて、容易いことさ」


 アイレーン王子の声だけが部屋に響く。飲まれてはいけない。そう思っても、あまりの衝撃の事実にどうすることもできない。


「このままダイス帝国やマースドロス帝国を野放しにしていくわけにもいかない。彼らにとって、僕らは排除しておくべき恐ろしい敵だ。実際、どんどん技術は発展して、強い武器が開発されている。勝算ができたら、遠からず攻め込まれるだろう。その前になんとかする必要がある。わかるね?」


 頷くこともできずに、ただアイレーン王子の顔を見つめる。


「特務部隊がどこまで掴んでるか、僕は把握しているつもりだ。だからビブリオには部屋を出て行ってもらった。彼は短気だからね、君たちに危害を与えて欲しくなかったんだ」


 アイレーン王子が指すべきことの中にはビブリオがダイス帝国のスパイをこの国に入れていることが含まれているのだろう。私はさほど驚かなかった。この人はそのくらい知っているだろう。それほどこの王子が大きく恐ろしい存在に思えた。


「今どんなに仲良くしていようとも、どの道ダイス帝国は僕らを取り込むつもりでいる。僕達が先制攻撃をするのと、彼らが攻め込んでくるのを待つのと、どちらがユーロラン帝国の民を守る結果に繋がるか。父上や兄上が皇帝でいることと、僕が皇帝になること、そのどちらがより多くの民を救うことになるのか、君たちにはわかってもらえると嬉しい」


 混乱する頭で、キースが私の手を強く握った。私も強く握り返す。


「特務部隊を解散して僕の部隊に入ってほしい。君たち7人、全員引き取るよ。僕は君たちを買っている。ユーロラン帝国のために、いい返事を期待しているよ」

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